変形性股関節症

変形性股関節症は、関節軟骨が摩耗・変性し、股関節が変形する病気です。股関節は、骨盤の一部である寛骨臼と、大腿骨の球状の大腿骨頭からなる球関節で、正常な状態では両方が関節軟骨というクッションに覆われており、痛みなくスムーズに動きます。しかし、変形性股関節症が進行すると、股関節に痛みが生じたり、動きが制限されるようになります。
この疾患には、年齢や長期間の関節使用による「一次性変形性股関節症」と、先天的に寛骨臼が浅いことで発症する「二次性変形性股関節症」があります。寛骨臼が浅いと、大腿骨頭がしっかりと支えられず、関節軟骨に負担が集中しやすくなり、変形が進行する傾向があります。
欧米では一次性の変形性股関節症が主流ですが、日本ではこれまで二次性が多く見られました。しかし、近年は日本でも一次性の症例が増加しています。

原因

変形性股関節症は、「一次性変形性股関節症」と「二次性変形性股関節症」に分けられます。
「一次性変形性股関節症」は、明確な原因が特定されていないタイプです。一方、「二次性変形性股関節症」は、原因が明らかなケースを指します。二次性の原因としては、臼蓋形成不全(股関節を覆う骨盤の凹みが浅い)、感染症(結核や骨髄炎後)、関節リウマチ、成人期の骨壊死、代謝性疾患、外傷後の損傷、関節内遊離体などが挙げられます。これらの要因により、さまざまな年齢層で発症します。治療方針を決める際は、患者の年齢や生活背景を考慮し、早期に進行を抑えることが重要です。

症状

変形性股関節症の症状は、日常生活の動作で特に目立ちます。例えば、靴ひもを結ぶときや椅子から立ち上がるとき、歩き始める際に、太ももの前部や外側に痛みが現れることがあります。病状が進行すると、夜間の寝返りや安静時にも痛みが生じ、頻度が増します。さらに、関節がボキボキと音を立てるような場合は、股関節の変形が進んでいるサインです。また、股関節の痛みが膝や腰にまで広がる放散痛が見られることも多く、隣接する部位にも影響を及ぼすことがあります。

治療

現時点では、すり減った軟骨や変形した骨を完全に元に戻す治療法はありません。そのため、治療の目的は、症状の緩和と変形の進行を抑えることに重点を置いています。治療法は大きく分けて保存療法と手術療法に分類されます。

保存療法

保存療法は、手術を行わずに行う治療です。

生活指導

関節への負荷を軽減することが重要です。体重管理や、杖の使用、和式から洋式への生活スタイルの変更などが推奨されます。

運動療法

股関節周辺の筋力を鍛え、ストレッチを行うことで関節を安定させ、痛みを和らげ、進行を遅らせる効果があります。ただし、過度な歩行などの体重がかかる訓練は逆効果になるため注意が必要です。

薬物療法

関節の変形を抑える薬は現在存在せず、痛み止めを使用して症状を緩和することが主な目的となります。

手術療法

手術は、関節を温存する骨切り術と、関節を人工関節に置き換える人工股関節置換術に分けられます。

骨切り術

自分の骨を切って位置を変えることで、関節の負担を軽減し進行を抑えます。骨を温存できるメリットがあるものの、治療期間が長くなる可能性や、将来的に人工関節置換術が必要になるリスクがあります。

人工股関節置換術

軟骨が消失し、骨の適合性を改善しても効果が期待できない場合、人工股関節置換術が適応されます。手術後の痛みの改善が速く、確実な効果が期待でき、入院期間も短縮されます。ただし、脱臼や耐久性の問題が考慮される必要があります。

治療方針の決定

治療方針や手術のタイミングは、患者の症状、年齢、変形の進行度、社会活動のレベルなどを考慮して決めることが大切です。担当医と十分に相談しながら最適な治療を選ぶことが重要です。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

Q&A

Q1. 股関節に痛みを感じるのはなぜですか?

股関節の軟骨がすり減り、骨が直接接触することで痛みが生じます。この状態は、関節の摩耗が進行したことが原因で起こることが多いです。

Q2. 歩くときに股関節が痛むのはどうしてですか?

歩行中に股関節が痛むのは、関節内の軟骨が摩耗しているため、股関節に負担がかかっている可能性があります。特に長時間歩くと症状が強くなることがあります。

Q3. 朝起きたときに股関節がこわばるのはなぜですか?

股関節のこわばりは、関節に炎症が生じている場合に起こります。特に朝に症状が強く出ることが多く、動き出すと次第に緩和されることがあります。

Q4. 股関節の痛みが続く場合、どのような治療法がありますか?

股関節の痛みが続く場合、物理療法や薬物療法が一般的な治療法です。重度の場合には、手術が検討されることもあります。

Q5. 変形性股関節症の初期症状にはどんなものがありますか?

初期症状には、長時間の歩行や立位での痛みやこわばりがあります。これらの症状が続く場合は、早めに専門医に相談することが重要です。

Q6. 股関節の痛みを和らげるためにどんなセルフケアが効果的ですか?

セルフケアとして、適度なストレッチや軽い運動、関節に負担をかけない姿勢を保つことが有効です。また、無理のない範囲で股関節を動かすことも重要です。

Q7. 股関節に痛みを感じたとき、どのタイミングで医師に相談すべきですか?

股関節の痛みが日常生活に影響を与える場合や、痛みが続く場合は早めに医師に相談することが推奨されます。早期の診断が症状の進行を防ぐために重要です。

Q8. 変形性股関節症の進行を遅らせるためには、どのような生活習慣が効果的ですか?

正しい姿勢を保つことや、適度な運動で股関節周りの筋肉を強化することが、進行を遅らせるために効果的です。また、体重管理も股関節への負担を軽減します。

Q9. 変形性股関節症の手術が必要になるのはどのような場合ですか?

症状が重く、痛みが強い場合や、日常生活に支障をきたす場合には、人工股関節置換術などの手術が検討されることがあります。

Q10. 変形性股関節症の予防にはどのような運動が効果的ですか?

関節の柔軟性を保つストレッチや、股関節周りの筋肉を強化するエクササイズが予防に効果的です。無理をせず、専門家の指導のもとで行うことが大切です。

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