仙腸関節障害

仙腸関節は、骨盤を構成する仙骨と腸骨の間に位置し、強靭な靭帯で結ばれています。この関節は脊椎の根元にあり、3〜5mm程度のわずかな動きを持っていますが、この微細な動きによって日常生活での体のバランスを取る役割を果たしています。ビルの免震構造に例えられるように、身体の安定をサポートしているのです。しかし、中腰での作業や不適切な動作、繰り返しの負荷によって関節に微小なズレが生じると、痛みが発生することがあります。仙腸関節障害は決して稀ではなく、特に出産後の腰痛の原因としてよく知られていますが、年齢や性別を問わず発症し、腰痛の原因の一つとして広く認識されています。

原因

腰をひねる動作、脚を前後に大きく開く姿勢、中腰での作業、あるいは外傷などにより骨盤に偏った負荷がかかることが、仙腸関節障害の原因とされています。特に、骨盤に左右非対称の力が加わることがリスクとなるため、重い鞄を常に同じ側の肩にかける、座る際に脚を組む癖があるなどの習慣がある方は発症リスクが高まると言われています。また、女性の場合は生理周期や出産によって仙腸関節周辺の靭帯が緩みやすく、それが原因で仙腸関節障害が発症することもあります。

症状

仙腸関節炎・仙腸関節障害で最も多く見られる症状は、臀部や腰の痛みです。さらに、痛みは太ももや足の付け根、下腿にまで広がることがあります。特徴的な症状としては、階段の上り下りで痛みが生じる、長時間立っていると辛くなる、片足に重心をかけると痛みが出る、ランニングや大股で歩く際に痛みが強まるといったものがあります。また、歩行開始時に腰が痛み、しばらく歩くと痛みが軽減することもあります。長時間座り続けることが困難であったり、仰向けに寝ることができない、痛む側を下にして寝ることができないといった症状もありますが、正座では痛みが軽減するケースもあるようです。

治療

まずは安静にし、痛み止めの服用や骨盤ベルト、コルセットなどのサポートが一般的な治療として選ばれます。また、リハビリテーションでは、周囲の関節をストレッチすることや、仙腸関節の安定性を向上させるための筋力トレーニングも行われます。これらの治療法で改善が見られない場合は、点滴療法や仙腸関節に局所麻酔剤を注射する仙腸関節ブロックが実施されることがあります。非常に稀ではありますが、これらの治療でも症状が改善せず、日常生活に大きな支障をきたす場合には、仙腸関節をボルトで固定する手術が検討されることもあります。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

仙腸関節障害はレントゲンでわかるの?

仙腸関節炎は、整形外科で行われる様な一般的なレントゲンやMRI、CT検査において異常がみられないため、診断が難しく見逃されることが多々あります。痛みが強くでているのにどんな状態かわからなければ不安になりますよね。ただ、仙腸関節の役割や機能そのものについてまだわかっていないことも多く、治療方法も予後もさまざまな面において研究途上にある病気です。状態を細かく見ていく事が非常に重要になってきます。

仙腸関節障害を治療したあとは、どのようなリハビリテーションを行ったらいいの?

骨盤周囲筋のストレッチや筋力トレーニングで仙腸関節にかかるストレスの緩和を図っていきます。筋の問題としては、脊柱起立筋群や大殿筋など骨盤の動きをコントロールする筋のインバランスや機能不全などが考えられます。そのため、これらの筋の緊張に偏りがなく適切な位置に骨盤を保つことが仙腸関節にかかる負荷を軽減することに繋がります。筋肉の作用以外では、肥満などによりお腹が出てきてしまうと腰を反るような姿勢をとりやすくなります。それにより仙腸関節の圧迫を強めてしまい、変性を強めてしまう可能性が高くなります。そういった方に対しては栄養指導を行い、体重コントロールを図っていきます。体重を減らすためには、活動的なスポーツでもされていない限り、通常では食事を中心とした体重管理を行った方が有効です。特に糖質の過剰摂取が体重増加を招いてしまうケースが多くみられるため、まずはごはんやパン・麺類、あるいはお菓子やアイスなどの甘いものを控えると良いでしょう。

仙腸関節障害の実例紹介

モヤモヤ血管

 

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腰臀部股関節

 

 
 

 
 

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