変形性膝関節症

40歳以上で「膝の痛み」に悩む方は、全国で約800万人いると推定されています。その多くは変形性膝関節症が原因です。変形性膝関節症とは、膝の関節軟骨が劣化し、徐々にすり減ることで歩行時に膝の痛みが現れる病気です。平地では問題なく歩けるものの、階段の上り下りで膝に痛みが出たり、歩行時には痛みがないけれど正座ができないといった症状が、初期の変形性膝関節症のサインです。進行すると、O脚が目立ち、階段だけでなく平地での歩行にも支障をきたすようになります。さらに進行すると、旅行や外出などの日常生活にも影響を与えるため、その時点ではかなり変形性膝関節症が進行している可能性が高くなります。

原因

痛みの原因

膝の痛みは、関節内の「滑膜(かつまく)」の炎症によって引き起こされます。通常、関節は「関節液」で満たされており、この液体がクッションの役割を果たしていますが、軟骨がすり減り、軟骨の破片が関節内を漂うことで滑膜が刺激され、炎症が発生します。
軟骨の表面は非常に滑らかで、通常は簡単に摩耗しません。しかし、膝は日常的に何千回も使われ、その負担が長年続くとタイヤがすり減るように軟骨も摩耗していきます。軟骨の表面がザラザラになり、削り取られた軟骨のかけらが滑膜を刺激し、痛みを引き起こすのです。

変形の原因

膝の変形は、軟骨がすり減った結果、骨同士が直接接触することで生じます。軟骨がなくなると、大腿骨(ももの骨)と脛骨(すねの骨)がぶつかり合い、さらに骨がすり減ってしまいます。
骨には再生能力がありますが、膝には体重がかかり続けるため、正しい位置に再生されず、横に広がるように新たな骨が増殖します。この増殖した骨は「骨棘(こっきょく)」と呼ばれます。骨棘が進行すると、O脚やX脚といった膝の変形も悪化し、わずかな動作でも激しい痛みを伴うようになります。さらに進行すると、安静時にも痛みを感じるようになり、この段階に至ると手術が検討されることが多くなります。

症状

膝関節は立ち上がったり歩いたりする際に体重を支えるため、運動開始時や長時間の歩行、階段の昇り降りなどで膝に痛みを感じることがよくあります。初期の段階では、特に階段の昇降(特に下り)や立ち上がりの際に痛みが現れ、少し安静にすると痛みが軽減することが多いですが、徐々に症状が悪化するのが一般的です。また、膝に水が溜まって腫れることがあり、重だるさを感じることもあります。
症状が進行すると、関節の変形(主にO脚ですが、X脚になる場合もあります)が進み、痛みが増し、膝の可動域が狭くなり、歩行が困難になります。膝が完全に伸びなくなり、曲げる動作も制限されるようになります。
さらに進行すると、膝関節の靭帯のバランスが崩れ、筋力低下も加わるため、膝が不安定でぐらつく状態になります。この段階では、歩行には杖やシルバーカーなどの補助具が必要となり、日常生活に大きな支障をきたすようになります。

治療

症状が軽い場合、まずは痛みを和らげるために飲み薬や湿布、塗り薬などを使用します。さらに、関節の炎症を抑えるためにヒアルロン酸を関節内に注射する治療も行われます。運動療法(リハビリ)として、太ももの前側にある大腿四頭筋を強化するトレーニングが推奨されており、これにより膝の痛みが軽減されることがあります。また、膝を温める物理療法や、不安定な膝をサポートするためのサポーターを使用することも有効です。これらの保存療法でも改善が見られない場合、手術治療が検討されます。手術には、変形を矯正する高位脛骨骨切り術や、人工膝関節置換術などがあります。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防とセルフケア

膝痛予防に効果的な運動として、ウォーキングが挙げられます。日頃から運動習慣がない方が急に体を動かすと、膝や関節に負担をかける可能性があるため、中高年の方が運動を始める際には、無理のない範囲で行うことが重要です。ウォーキングは、年齢や運動経験に関係なく楽しみながらできる有酸素運動で、脂肪燃焼や筋力アップに効果的です。まずは一日30分、週3日から始めてみましょう。

膝に負担をかけないウォーキング方法

ウォーキングは全身運動として手軽に始められますが、歩き方を誤ると膝への負担が増え、変形性膝関節症などの症状を悪化させる可能性があります。ここでは、膝への負担を軽減するための正しい歩き方のコツをご紹介します。

膝への負担を軽減するウォーキングのコツ

  • 背筋を伸ばし、軽くお腹を引き締める:姿勢を正すことで体の重心が安定し、膝への負担が軽減されます。
  • 視線は5〜6m先に置く:あごを引き、自然な姿勢で歩きましょう。
  • 適切な歩幅を保つ:足を着地するときに膝が軽く曲がる程度の歩幅が理想です。
  • かかとから着地し、つま先で蹴る:体重をかかとから親指の付け根へ移動させ、最後にしっかりとつま先で地面を蹴りましょう。
  • 腕を自然に振り、首をまっすぐに保つ:腕を足の動きに合わせて軽く振り、首を揺らさないように保ちます。

このような正しいフォームでウォーキングを行うことで、膝への負担を最小限に抑えつつ、効果的に運動を続けることができます。

カテーテル治療を受けると、もう外科手術は受けられないのでしょうか?

カテーテル治療(微細動脈塞栓術)は血管を通じて病的新生血管(モヤモヤ血管)にしか作用しません。患部に対して注射針を刺すことすらいたしませんので、ある意味最も身体に優しい治療と言えるかもしれません。その後外科手術を受ける際に妨げとはなりません。

人工関節に代えても取れない痛みがあります。もうあきらめるしかないのでしょうか?

人工物が入っている方は、まず間違いなく病的新生血管(モヤモヤ血管)が増えていますので、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)により症状の改善が期待できます。手術後の痛みに対してはどの医療機関も頭を悩ませているところですが、この新しい治療によりその痛みを改善させることが可能です。

膝のカテーテル治療はどのように行うのでしょうか?

足の付け根の血管(鼠径部の大腿動脈)から下向きに入口の管を入れます。そこに細い管(カテーテル)を挿入して、膝まで進めていき、標的血管を選択した後に血管造影を行います。モヤモヤ血管を確認したうえで、一時塞栓物質を投与します。投与後、直ちに造影上モヤモヤ血管は消失します。複数の標的血管の治療を行った後、管を抜いて圧迫止血します。治療時間は20-30分程度です。両側の場合や、動脈硬化が強い場合はもう少し時間がかかります。日帰り治療です。

膝のカテーテル治療後、当日歩いて帰れますか?

治療後に強い痛みが残ることは稀です。運動障害が生じることもありませんので、歩いてお帰りいただけます。

変形性膝関節症の実例紹介

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