乳房切除後疼痛症候群

乳房切除後疼痛症候群(Post-mastectomy pain syndrome, PMPS)は、乳房切除手術を受けた患者さんにしばしば見られる痛みの症状です。PMPSは、手術後6か月以上続く持続的な痛みを特徴としています。この症状は、患者さんの生活の質を低下させるだけでなく、心理的ストレスやうつ病、不眠症などの他の健康上の問題を引き起こすことがあります。PMPSは、手術後の痛みの原因によって区別されます。初期症状は、手術後に感じる一時的な痛みで、これは手術の自然な反応であると考えられています。一方、PMPSは手術後6か月以上続く、持続的な痛みであり、末梢神経の損傷に関連しています。

原因

手術に伴う神経の損傷によるものと考えられています。乳房切除手術では、感覚神経や末梢神経が切断されることがあり、これがPMPSの原因となる可能性があります。神経損傷によって、神経痛や慢性的な痛みが引き起こされます。

症状

痛みやしびれ、痛みの強さの変化、痛みが放散する場合がある、日常生活の活動によって痛みが悪化する場合がある、痛みの緩和によって睡眠の質が改善することがある

治療

多くの場合、痛みの管理が含まれます。非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドなどの疼痛治療薬が使用されることがあります。また、神経ブロック療法や生物学的製剤の使用も検討されます。これらの治療法は、患者さんの症状に応じて適切に調整されます。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

手術の方法や、手術前後のケアに注意することが重要です。手術中に末梢神経を保護することができる手術を行うことが、PMPSの発生率を低下させると示されています。また、手術後の運動療法やリハビリテーションなども、PMPSの予防に役立つことがあります。PMPSによる苦痛を軽減するために、患者さんは自己管理や療法的アプローチを取ることができます。痛みを軽減するために、ストレス管理、軽度の運動、リラクゼーション療法、マッサージ、温熱療法などの方法が有効です。また、カウンセリングや心理療法も、PMPSによるストレスやうつ病などの心理的な問題に対処するために役立ちます。

最後に、PMPSに苦しむ患者さんは、専門の医師や痛み管理チームに相談することをお勧めします。専門家のアドバイスに従って、最適な治療法を選択することが重要です。乳房切除後疼痛症候群は、治療が難しい痛みの症状であり、患者さんの生活に大きな影響を与えることがあります。しかし、痛みの管理や予防に対する適切なアプローチを取ることによって、PMPSに苦しむ患者さんが症状に対処し、生活の質を向上させることができます。

Q&A

Q.一生涯にわたって続くのですか?
症状や程度は個人によって異なりますが、一部の患者さんでは症状が一生涯にわたって持続することがあります。しかし、治療や症状管理の方法は進歩しており、症状を軽減させることができる場合もあります。

Q.再発することがありますか?
一部の患者さんでは、再発することがあります。再発のリスクは個人によって異なりますが、症状管理と早期の治療は再発を予防するのに役立つ場合があります。

Q.他の疾患と混同されることがありますか?
PMPSの症状は他の疾患と類似することがあり、診断が難しい場合があります。他の病状との鑑別診断を行うために、医師は詳しい患者さんの症状や過去の経歴を評価する必要があります。

Q.乳房再建手術後にも発生することがありますか?
乳房再建手術後にもPMPSの症状が発生することがあります。手術によって神経組織が傷つくことや、手術後の瘢痕組織によって痛みが引き起こされる可能性があります。

Q.どのくらいの割合で発生するのですか?
発生率は報告によって異なりますが、乳房切除を受けた女性の約20〜30%がPACSの症状を経験するとされています。しかし、症状の程度や持続期間は個人によって異なるため、正確な割合を特定するのは難しいです。

Q.症状は切除した乳房の位置にのみ現れますか?
症状は通常、切除した乳房の位置で現れますが、一部の患者さんでは切除した乳房以外の領域にも広がることがあります。背中や肩、脇の下など、痛みが放散する場合もあります。

Q. すべての乳房切除患者さんに発生するのですか?
すべての乳房切除患者さんが症状を経験するわけではありません。特定の条件や個人の特徴に関連して発生する可能性があります。手術後の痛みや症状がある場合は、医師に相談することが重要です。

Q.診断にはどのような検査が行われますか?
症状の評価や身体検査が一般的に行われます。医師は痛みの場所や程度を確認し、他の疾患との鑑別診断を行うために必要な検査を依頼することがあります。

Q.治療にはどのような方法がありますか?
鎮痛剤、神経ブロック、物理療法、認知行動療法などが使用されることがあります。個々の患者さんの状態に応じて、最適な治療プランが立てられます。

Q.症状を軽減する自己ケア方法はありますか?
一部の患者さんは、自己ケア方法を使用してPACSの症状を軽減することができます。ストレッチや軽度の運動、リラクゼーション法、熱または冷却パッドの使用などが役立つ場合があります。ただし、個人の状態に合わせて医師の指導を受けることが重要です。

乳房切除後疼痛症候群の実例紹介

 
 

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