胸:肋軟骨炎など

【70代:女性】乳がんに対する放射線治療後のリコール現象による痛み(乳房切除後疼痛症候群、抗がん剤治療後、放射線治療後、リコール現象)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

1年3ヶ月前に左乳癌に対して乳房切除術およびリンパ節郭清を受けました。その後抗がん剤治療(化学療法)および放射線治療を受けました。放射線治療終了後、さらに別の抗がん剤治療を4クール受けました。その後、4ヶ月前から左胸部の術創部に発赤・腫脹・疼痛を認めるようになりました。放射線治療後のリコール現象との診断で、皮膚科にてステロイド内服・軟膏処置などされるも3ヶ月の経過で芳しい効果がみられず、ロキソニンの内服で様子を見られていました。そうした状況で運動器カテーテル治療のことをお知りになり当院を受診されました。*リコール現象(Radiation Recall Phenomenon)とは、放射線治療後に、抗がん剤などの投与をきっかけに、以前の照射部位の皮膚炎、粘膜炎、放射線照射の影響が呼び戻される現象のことです。

診察時の所見

術創部の痛みが主体でしたが、それよりも広範囲にみられた疼痛部位では発赤・腫脹が強く、エコー検査では同部位に一致して異常血流信号が認められました。いわゆる乳房切除後疼痛症候群(PMPS)のみではなく、放射線治療後遺症の所見、リコール現象(Radiation Recall Phenomenon)として矛盾しないと判断されました。非常に強い炎症所見であり微細動脈塞栓術の有効性は高いと期待できる一方で、複数回の治療を要する可能性も考えられました。一方、疼痛ストレスに悩まされ続けた結果、元々あった首肩こりが特に左側で重症化していたため、左側の首肩、胸部、腋窩部に対して広く治療を行うこととしました。

治療の所見

首肩こりに関する標的血管、特に深頸動脈および肩甲上動脈の血管造影においてそれぞれモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。それぞれ治療した後、前胸部および側胸部、腋窩部の治療を行いました。発赤部のあった前胸部では特に再現痛を明瞭に確認できました。全ての標的血管を漏れなく治療して終了しました。
*再現痛;治療の際、薬液投与時に普段の症状が一定程度再現されるように感じる痛みのこと

治療後の経過

治療後4、5日で痛みが大幅におさまり、ロキソニンを飲まなくなりました。患部が腫れなくなり、赤みもずいぶん退きました。治療後2週間で7-8割程度の痛みが改善しました。一方、こりはまだ大きく変わっていませんでした。治療後1ヶ月半、全体的にさらに改善し、腕を楽に動かせるようになりました。遠方から名古屋まで来た甲斐があったと言っていただきました。一方、まだ再発するかもしれないという心理的なストレスは残っていました。治療後3ヶ月、ホットヨガに行き始めて一時的に赤くなり腫れましたが、痛みはさほど伴わず、ロキソニンの内服で治りました。その後は控えるようにして普段は痛みなく過ごせているとのことでした。一方、癌の再発を心配するあまり、睡眠障害に陥ったりもしていましたが、乳腺外科主治医からも心配ないと言ってもらい自身を何とか落ち着けていました。疼痛の経過としては良好でしたので、ご遠方ということもあり一旦終診としました。それからしばらく順調に過ごせていたのですが、治療後5ヶ月半くらいから左胸の術創部の痛みがズキズキと生じるようになりました。当初のような痛みではなく、赤くなることもなくロキソニンでおさまる状態でしたが、肩こりも併せて悪化してきたこともあり治療後6ヶ月の時点で2回目の治療を行いました。治療後3週間ほどで痛みはほとんど無くなりましたが、ツッパリ感が気になっていました。現在2回目治療から3ヶ月以上経過していますが、胸の痛みはほとんど気にならず肩こりの残存症状に対して不定期の注射加療を行っているところです。乳房切除後に抗がん剤、放射線療法と重ねての治療の結果、術創部を中心に広範囲に強い慢性炎症が形成されていました。荒廃した炎症組織が居着いてしまっているため、中々痛みをゼロにすることは難しいのですが、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)により大幅に鎮めることができました。こうした場合、複数回の治療を要することもありますが、ステロイドのような副作用はありませんので、都度安全に重ねて治療することが可能です。引き続き慎重にフォローアップをしていきます。

乳房切除後疼痛症候群の詳しい病状説明はこちら

 
 

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