鴨井院長による動画解説
受診までの経過
9歳の頃、折りたたみはしごとぶつかって右首を痛めてしまいました。以来、右頸部に慢性的な痛みがあり、特に天候により痛みが増悪するほか、連動して頭痛も生じていました。手のしびれや握力低下などはありませんでした。痛みはロキソニンの内服やマッサージで一時的には改善しました。一方、4ヶ月前から右肩の痛みがあり、徐々に可動域制限も合併するようになりました。知人のすすめで当院を受診されました。
診察時の所見
首は後屈以外の動作で中等度の可動域制限がありました。右肩関節も外転160度、外旋45度などの軽度の可動域制限がありました。レントゲンでは頸椎がやや後弯傾向である一方で椎間孔は保たれており頸椎変形はそれほど進んでいませんでした。右肩関節も問題ありませんでした。エコー検査では、右肩関節に異常血流信号の増強を認めたほか、上腕二頭筋長頭腱水腫や滑液包水腫を認めましたが、腱板断裂などの組織損傷は認められませんでした。以上より、頸椎症は否定的であり、右頸部外傷後遺症および右凍結肩(五十肩)と診断しました。いずれも微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)の適応であり治療を受けていただきました。
治療の所見
血管造影を行うと、頸部痛の主要血管である深頸動脈ではモヤモヤ血管(病的新生血管)そこまで目立ちませんでしたが、一方で体格の割に(大柄の方でしたが)血管の発達が乏しい印象がありました。血行不良が示唆されました。連動する頭痛の訴えもあったため、後頭動脈の検索を追加することとしました。すると、後頭動脈の頸部に分布する枝においてモヤモヤ血管が造影剤の濃染像として明瞭に描出されました。それぞれ治療を行い、続いて右肩関節の治療を行いました。こちらも、肩甲上動脈、前上腕回旋動脈、烏口枝などで、腱板疎部や上腕二頭筋長頭腱周囲に分布するモヤモヤ血管が明瞭に描出されました。五十肩として典型的な所見でした。治療後、モヤモヤ血管は画像上速やかに消失しました。
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円〜357,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療直後から右後頸部(第2頸椎の高さとのこと)にあった一番気になっていた痛みが楽になりました。右肩の痛みも治療当日から改善し、半減しました。夜寝られるようになりました。治療後2週間、右後頸部~後頭部の痛みはとれましたが、側頭部の痛みはまだ残っていました。治療後1ヶ月半、さらに改善し右肩関節の可動域制限も回復しました。問題なくゴルフをプレーすることができました。治療後2ヶ月を過ぎた頃、ほぼ自覚症状は無くなりました。『右後頸部の痛みなどは幼少期からであったため、本当に信じられない。周囲にもにわかには信じてもらえない。』と言われました。治療後3ヶ月、特にぶり返すことなく経過し、ゴルフでも以前のように力強く打てるようになりました。その後、台風の時期に一時的に痛み止めを2日ほど使用することはあったものの、半年の経過でも順調に過ごしておられます。特に右頸部については幼少期からの症状ということで、ご本人にしか中々理解できない辛い症状だと思いますが、改善されて本当に良かったです。肩関節周囲炎が治療により改善するのは、運動器カテーテル治療にとってはごくごく通常のことですが、これほどの長期間に亘る症状が、ご本人がはっきりと実感できるほど改善するのは驚くべきことです。こうした治療経過にかかわることができて医師冥利に尽きます。引き続き慎重にフォローアップさせていただきたいと思います。