鵞足炎

鵞足炎は、ひざの内側下方にある「鵞足(がそく)」と呼ばれる部分に炎症が起こる病気です。英語では Pes Anserine Bursitis と呼ばれます。「鵞足」とは、脛骨(スネの骨)の内側にあり、縫工筋、半腱様筋、薄筋という3つの筋肉の腱が集まる場所です。この部位には滑液包と呼ばれる小さな袋があり、骨と軟部組織の間で摩擦を軽減する役割を果たしています。鵞足炎は、膝を曲げたり股関節を内転させる動作の際に、この滑液包に繰り返し負担がかかることで発症します。特にアスリートやスポーツをする方に多く見られますが、スポーツをしていない方でも打撲などの外傷をきっかけに発症することがあります。

原因

オーバーユース(使いすぎ)
体を酷使することが鵞足炎の主な原因の一つです。長距離のランニングやサッカーのキック動作、ジャンプの繰り返しなどが、鵞足部に過度な負担をかけ、炎症を引き起こしやすくなります。

筋肉の硬さ
股関節や太ももの柔軟性が低下すると、腱の動きが硬くなり、腱同士や滑液包との摩擦が生じやすくなります。疲労の蓄積に加え、ウォーミングアップ不足も筋肉を硬くしたまま運動を始める要因となり、鵞足炎のリスクを高めます。

打撲による影響
転倒や接触によって膝の内側を強打した場合も、鵞足炎につながることがあります。

症状

膝の内側やや後方に感じる痛みや突っ張り感、腫れが主な症状です。特に足が地面に接触する際に鋭い痛みを感じたり、膝を曲げ伸ばす際に引っかかるような違和感を覚えることがあります。初期段階では運動を始めた直後に違和感があっても、ウォーミングアップで体が温まると症状が軽減されることが多いですが、運動を繰り返すうちに再び違和感が出てきます。症状が進行すると、体が温まっても違和感が消えず、運動中に痛みが増して練習を中断せざるを得なくなることも。さらに悪化すると、ウォーミングアップ後も痛みや引っかかり感が残り、練習自体が難しくなる場合もあります。

治療

鵞足炎は滑液包の炎症によるもので、一般的な治療法には安静にすることや、アイシング(氷で1日3〜4回、各20分程度冷やす)、抗炎症薬の使用、理学療法などが含まれます。これらの治療で効果が見られない場合は、滑液包にステロイド注射を行うこともあります。ステロイド注射は、症状の改善が期待できる治療法ですが、1~2ヶ月後に痛みが再発する可能性もあるため、注意が必要です。注射を繰り返すと、治癒が遅れたり癖になることがあるため、1~2回程度に留めるのが望ましく、何度も使用するのは避けるべきです。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防とセルフケア

テーピングの活用
テーピングを使うことで、運動時に膝関節が内側に入るのを防ぎ、鵞足部への負担を軽減できます。特に、弾性のあるテーピングを使用すると効果的です。

膝の過剰使用を避ける
膝の使い過ぎは鵞足炎の主な原因となるため、過度な運動やトレーニングは控えるように心がけましょう。運動前のウォーミングアップや運動後のクールダウンをしっかり行うことで、膝周りの筋肉や腱の柔軟性が高まり、鵞足炎の予防に繋がります。

フォームの見直し
運動時のフォームが適切でないと、膝に余計な負担がかかり、鵞足炎のリスクが高まります。正しいフォームを身につけることで、膝への負担を軽減し、鵞足炎の予防はもちろん、スポーツパフォーマンスの向上にも役立ちます。

Q&A

Q1. 鵞足炎とは何ですか?

鵞足炎は、膝の内側にある「鵞足」という部分に炎症が生じる状態です。ランニングや膝の過度な使用が原因となり、痛みや腫れを引き起こします。

Q2. 主な症状は何ですか?

膝の内側に痛みや腫れが生じることがあります。特に階段の上り下りや、膝を曲げたときに痛みが増すことが多いです。

Q3. どのように診断されますか?

医師による触診や膝の動きを確認するテスト、場合によってはMRIや超音波検査を通じて診断されます。膝の内側に圧痛があることが特徴です。

Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

治療には、安静、アイシング、そして膝の周りの筋肉を緩めるストレッチが効果的です。痛みが強い場合は、抗炎症薬の使用や理学療法が行われることもあります。

Q5. 痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

セルフケアとしては、膝を冷やすアイシングや、膝に負担をかけないストレッチが有効です。炎症が強い場合は、テーピングやサポーターを使うと痛みが軽減されます。

Q6. 予防するためにはどのようなエクササイズが効果的ですか?

股関節や大腿部の筋肉を強化するエクササイズが効果的です。特に太もも内側の筋力を鍛えることが膝の安定性を高め、負担を減らします。

Q7. 悪化する前に医師に相談すべき症状は何ですか?

膝の痛みが強くなり、歩行や日常生活に支障が出る場合や、膝の内側が腫れている場合は、早めに医師に相談することが重要です。

Q8. 治療には手術が必要ですか?

ほとんどの場合、鵞足炎は手術を必要としません。リハビリや物理療法で痛みを軽減し、症状が改善することが多いですが、重症例では手術が考慮されることもあります。

Q9. 再発を防ぐためにはどのようなトレーニングが有効ですか?

再発を防ぐためには、膝の安定性を高める筋力トレーニングが有効です。特に股関節や太ももの筋肉を鍛えることで、膝への負担を軽減できます。

Q10. リハビリにはどのようなプログラムが効果的ですか?

リハビリプログラムには、膝周りの筋肉を強化するエクササイズや、柔軟性を高めるストレッチが含まれます。理学療法士の指導のもと、段階的に回復を目指します。


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