膝:変形性膝関節症など

【40代:女性】双極性障害が背景の疼痛過敏により、実際の炎症(鵞足炎・膝蓋下脂肪体炎)よりも強く感じていた両膝の痛み(双極性障害、疼痛閾値低下、鵞足炎、膝蓋下脂肪体炎)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

9ヶ月前より、長時間の立ち仕事などがきっかけで膝を痛めるようになりました。右膝はお皿の下の外側、左膝は内側~下方に痛みが生じていました。注射治療など受けるも改善せず、歩くのもままならなくなってきたため当院を受診されました。尚、双極性障害の診断で精神科通院中ですが、服薬により病状は安定していました。一方、これまで、医療行為を受けるたびに前失神症状をきたすなどの迷走神経反射を繰り返してきた既往があり、治療に対する一定の不安がありました。

診察時の所見

レントゲンやエコー検査では、関節変形の所見は乏しく、変形性膝関節症は否定的でした。一方、エコー検査で右膝蓋下脂肪体や左鵞足部近傍に異常血流信号が散見されました。同部位に合致して明確な圧痛も認めました。強い炎症ではないものの、左鵞足炎、右膝蓋下脂肪体炎による慢性炎症があり、持病に伴う疼痛閾値の低下が重なることで強い痛みとして認識している可能性が考えられました。こうした場合、通常よりも改善に時間を要することがあります。改善のためには、炎症を鎮めるのみでなく痛みに対する抵抗力も改善していく必要もあります。以上についてご理解いただいたうえで微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。

治療の所見

血管造影を行うと、疼痛部位に一致して、右外側下膝動脈造影および左内側下膝動脈造影にてモヤモヤ血管が造影剤の濃染像として描出されました。やはり、それほどの強い炎症ではないためかモヤモヤ血管の見え方としては控えめでした。本症例のように疼痛過敏が前面に立っているような症例や、10歳代の症例では時々経験します。治療後は画像上速やかに消失しました。幸い、治療自体は全身麻酔を要することもなく無事終えることができました。

治療後の経過

治療後数日で両膝とも改善してきて、治療後1ヶ月半で、右膝はほぼ痛みが消失しました。左膝の痛みは時々感じるものの大幅に改善していました。その後も来院するたびに改善し、楽に歩けるようになりました。元々疼痛過敏が強い状態であったため、改善した後もしばらく間隔を空けながら慎重に2-3ヶ月ごとの定期受診を続けましたが、1年以上に亘り良い状態を維持できています。『以前は一駅の距離でもタクシーを使いたいと思っていましたが、今は一駅どころか自宅までも歩けるようになったので嬉しい。外出する気になるようになったことが大きい』と言われました。医療行為を受けることも強い不安を抱えておられた中で、非常に早期から改善されて本当に良かったです。本症例は関節変形が原因ではなく、構造的な異常はそれほどありませんでした。疾患を比較した場合、単独で生じている鵞足炎はカテーテル治療後に非常に早期から改善する傾向があり、脂肪体炎はやや時間を要する傾向がありますが、炎症/損傷の程度も強いものではなかったことが双方の早期改善につながったのだと思います。疼痛閾値が下がっていたことから、ご本人にとってはそれでも強い痛みとして認識されていたわけです。疼痛閾値の低下はすぐに改善するわけではありませんので、良くなった後も、しばらくの間は不安定でぶり返すこともあります。幸い、明らかな再燃をきたすことなく順調に経過されました。安定して痛みが改善することで、疼痛閾値も徐々に改善されていきますが、悪くなってきた際にはこじれる前に早めに対処することが重要です。また、精神科疾患が安定していることは痛みの経過にとっても重要です。最後に治療についてですが、当院ではこうした医療行為に対する不安や恐怖感が強い事例にも幅広く対応しています。希望者には全身麻酔下(いわゆる静脈麻酔)での施術も可能ですのでお気軽にお問い合わせください。

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