腱鞘炎

腱鞘炎は、手の酷使によって指や手首の関節に痛みが生じる疾患です。手の腱には、指を曲げる動きを担当する屈筋腱と、指を伸ばす動きを担当する伸筋腱があります。これらの腱は、腱鞘というトンネル状の組織の中を滑るように動きますが、手を使いすぎると腱と腱鞘の間に摩擦が生じ、腫れを引き起こします。手を休めれば腫れは改善しますが、使い続けると腫れが引かず、痛みが続くことがあります。さらに、腱が腱鞘内で引っかかることで、指がばねのように伸びにくくなる現象が起こり、これを「ばね指」とも呼びます。

原因

腱鞘炎の主な原因は、手や指の過度な使用にあります。手や指を頻繁に使う仕事に従事している人や、スポーツをしている人は、腱鞘炎を発症するリスクが高まります。最近では、スマートフォンの長時間使用(特にゲームなど)が原因と考えられるケースも増えています。また、筋力が弱い女性にも発症が多く見られます。筋力が弱いと腱にかかる負担が大きくなり、腱鞘炎を引き起こしやすくなるためです。

症状

腱鞘炎では、炎症が発生している部分に痛みや腫れが現れます。神経が刺激されることで鋭い痛みが生じ、腱の動きが妨げられることでこわばりやしびれが起こり、指や手首の曲げ伸ばし、細かな作業や力を入れる動作が難しくなる場合があります。代表的な症状として、手首の親指側にある腱鞘が肥厚し、腱との摩擦で痛みが生じる「ドケルバン病」、指を伸ばそうとすると腱が腱鞘に引っかかり伸ばせなくなる「ばね指」があります。「ばね指」はどの指にも起こり得ます。
「ドケルバン病」は、親指を動かす2本の腱が通る腱鞘が太くなり、親指側の手首に痛みが生じる疾患です。「ばね指」は、肥厚した腱が腱鞘を通過する際に引っかかることで発症します。
また、似たような症状を引き起こす別の疾患として「デュピュイトラン拘縮」があります。これは、手のひらの腱膜が変性し収縮することで指が伸ばせなくなる病気で、進行すると日常生活に支障をきたし、手術が必要になることもあります。

治療

腱鞘炎の治療は、まず問診と触診から始まります。腱鞘炎が進行してしまうと、治療後でも関節が固まってしまい動かなくなる可能性があるため、症状が悪化する前に整形外科や手外科などの医療機関を受診することが大切です。医療機関では、最初にどの動作で痛みが出るか、どのくらい続くか、安静時にも痛みがあるかといった問診を行い、症状の確認をします。続いて触診で、痛みが出ている部位をチェックします。痛みがある指や手首、あるいは手のひらの指の付け根部分の腱鞘を調べます。また、関節や腱の状態を詳しく確認するために、超音波検査を行う場合もあり、最近では炎症の程度を色で可視化できる「エラストグラフィー」という技術が普及しています。これにより、硬くなった腱鞘を視覚的に確認することができます。

腱鞘炎の基本治療は安静と薬

腱鞘炎治療の基本は、患部を安静にすることと薬の使用です。

1. 安静にする

腱鞘炎の原因は手や指の使いすぎです。そのため、まず患部を動かさず安静に保つことが重要です。きき手に起こることが多いため、日常生活での不便さを避けるために、できるだけ反対側の手を使い、作業は短時間にまとめるなどの工夫が必要です。さらに、適度な休憩をとることも重要です。

2. 薬や装具の使用

治療には、外用鎮痛消炎薬(ローションや湿布)、内服薬の「痛み止め」が用いられます。また、患部を固定するために装具やギプスを使用することで、手指を無意識に動かさないようにすることができ、症状の改善を早めます。

3. ステロイド注射

安静や薬物療法で症状が改善しない場合、腱鞘にステロイド注射を行うことがあります。この治療法は「ばね指」や「ドケルバン病」に対して70〜90%の有効率を誇り、多くの患者が症状の軽減を実感しています。ただし、糖尿病患者には血糖値が上昇するリスクがあるため、慎重な判断が必要です。

腱鞘炎の手術

腱鞘炎が改善しない場合や再発が続く場合、腱鞘の一部を切開する「腱鞘切開術」が行われます。この手術は局所麻酔下で行われ、10〜20分ほどで完了します。手術後の傷は小さく、手の機能にも問題は残りません。

このように、腱鞘炎の治療は症状の段階に合わせた多様なアプローチがあり、早期の診断と適切な治療が大切です。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

手指の使い過ぎを防ぐ

腱鞘炎は、手指の腱と腱鞘に過度な負担がかかることで発症します。予防の基本は、手指を過剰に使わないことです。

パソコンやスマホ操作での工夫

長時間の作業は避け、定期的に休憩を入れて手首や指のストレッチを行いましょう。キーボード操作やマウスの使用時には、手首の負担を軽減するためのクッションや、手首を固定するサポーターなどを活用するのがおすすめです。また、スマホを片手で操作するのではなく、両手を使うことで一部分に負担が集中しないように工夫しましょう。

産後の子育てでの工夫

産後の女性は、育児の際に腱鞘炎を発症しやすい傾向があります。抱っこやおむつ替えなど、手指を使う場面が多いため、家族と育児を分担し、手首に負担がかかりにくい抱き方を工夫することが大切です。

スポーツでの工夫

適切でないフォームやグリップを続けると、手指に過剰な負担がかかり腱鞘炎のリスクが高まります。正しいフォームを意識して練習を行いましょう。

腱鞘炎の初期症状に気づいたら

もし手指に痛みや腫れ、熱感、動かしにくさを感じた場合は、腱鞘炎の初期症状かもしれません。この場合、患部をなるべく動かさないようにし、初期の炎症には氷などで冷やすことが効果的です。

「ドケルバン病」のチェック方法

手首の親指側に痛みや腫れがあり、親指と一緒に手首を小指側に曲げたり、手首を直角に曲げた状態で親指を伸ばしたときに痛みが強くなる場合、「ドケルバン病」の可能性があります。

「ばね指」のチェック方法

指の付け根が腫れて動かしにくく、指を一定以上伸ばそうとすると急に弾けるように伸びる「ばね現象」が見られる場合、「ばね指」が疑われます。

このような初期症状に気づいたら、早めに対処し、手指を無理に使わないように心がけることが大切です。

Q&A

Q1. 手首や指を動かすと痛みを感じるのはなぜですか?

手首や指を動かす際に痛みを感じる場合、筋肉や腱に炎症が生じている可能性があります。特に、長時間の同じ動作や過度の使用が原因になることが多いです。

Q2. 手や指の動きに違和感を感じたら、どのように対処すべきですか?

手や指に違和感を感じた場合、まずは安静にし、痛みが続く場合は冷却や適切なサポートが効果的です。専門医に相談することも検討すべきです。

Q3. 手首に炎症がある場合、どのような治療法が考えられますか?

手首に炎症がある場合、リハビリや物理療法、場合によっては注射や薬物療法が有効です。早めに診察を受けて適切な治療を開始することが重要です。

Q4. 手を使い過ぎたことで起こる痛みを予防する方法はありますか?

手首や指の過剰使用による痛みを予防するためには、定期的に休息を取ることやストレッチを行うことが効果的です。また、手首のサポーターを使うことも役立ちます。

Q5. 指を動かすときに引っかかる感覚があるのはどうしてですか?

指を動かす際に引っかかる感覚がある場合、腱や腱鞘の炎症が原因の可能性があります。早期に対処することで、症状の悪化を防ぐことができます。

Q6. 腱の炎症が長期間続く場合、どんな治療が必要ですか?

腱の炎症が続く場合、手術が必要になることもありますが、まずは物理療法や薬物療法を試すことが推奨されます。適切な診断を受け、治療計画を立てることが重要です。

Q7. 手首や指のストレッチは、痛みの予防にどのように効果がありますか?

手首や指のストレッチは、腱の柔軟性を高め、痛みや炎症の予防に効果的です。特に長時間の作業前後にストレッチを行うことが推奨されます。

Q8. 手首や指の痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

手首や指の痛みを軽減するためには、適度な休息、冷却、そして手首をサポートするアイテムの使用が効果的です。早めにケアすることで症状の悪化を防げます。

Q9. 腱の炎症が悪化した場合、どのタイミングで医師に相談すべきですか?

腱の炎症が悪化し、日常生活に支障をきたす場合は、できるだけ早く医師に相談することが大切です。早期の診断と治療が回復を促進します。

Q10. 腱や腱鞘の炎症が再発しないようにするための日常ケアは?

腱や腱鞘の炎症を防ぐためには、定期的なストレッチや、長時間の同じ動作を避けることが重要です。また、適度な休息も症状の再発予防に役立ちます。

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