筋・筋膜性腰痛症

腰痛は、若年層から高齢者まで幅広い年代で発症し、日本人に多く見られる症状の一つです。腰痛にはさまざまなタイプがありますが、「筋・筋膜性腰痛」は特に、腰周囲の筋肉や筋膜に過度な負担がかかることで生じるものです。このタイプの腰痛は、激しい痛みを伴い、スポーツだけでなく日常生活にも大きな影響を与えるのが特徴です。

原因

脊椎を構成する骨の中でも、腰椎は5つの骨が積み重なって形成されています。これらの骨の間には椎間板というクッションの役割を果たす柔らかい組織があり、骨同士の衝撃を吸収しています。また、腹筋(腹直筋、内外腹斜筋、腹横筋)や背筋(脊柱起立筋、広背筋、大腰筋)といった筋肉が背骨をしっかりと支えています。
スポーツ中に無理な体勢を取ること(屈伸や回旋、衝撃を伴う動作)が原因で、背筋に過度な負担がかかると、腰痛が発生することがあります。急性の筋肉や筋膜の損傷は、一般的に「肉離れ」と呼ばれ、腰椎捻挫(靭帯や関節包の損傷を含む)も同様の意味合いを持ちます。これらの症状は、腰椎に沿って痛みや圧痛、運動時の痛みとして現れます。慢性的な場合は、オーバーユース(使いすぎ)による疲労が原因となり、背筋の緊張が高まり、筋肉に沿った痛みが生じます。
スポーツ活動では、ピッチング、ジャンプ、スイングといった動作や、体幹の過度な伸展(背筋)、屈曲(腹筋)、回旋(腹斜筋など)、また中腰姿勢で腰を捻る動きが腰痛の主な原因となります。特に、激しい動作や前傾姿勢を保つスポーツ(ゴルフなど)、着地時の衝撃を受ける動作(バレーボールなど)も腰に負担をかけ、腰痛を引き起こしやすいです。

症状

ほとんどの筋筋膜性腰痛症では、レントゲンやCTでは異常が見られないことが多いですが、急性期の発症では、MRIで筋損傷の所見が確認できる場合があります。痛みは主に腰部の筋肉に沿って現れ、圧痛や動作時の痛みとして感じることが多いです。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のように、特定の動作で痛みが誘発されることもありますが、痛みの範囲や動作に伴う痛みは明確でないことが多いです。

特に次のような動作で痛みが生じやすいです

  1. 重いものを持ち上げるとき
  2. 長時間の座位や立位から姿勢を変えるとき
  3. 中腰で作業をするとき
  4. ゴルフなど、身体をひねる動作が多いスポーツ

筋筋膜性腰痛は生活習慣が大きく影響しており、保存療法で改善が可能です。しかし、原因となる悪い姿勢や動作を修正しない限り、再発しやすく、同じ症状がさらに悪化することがあります。完治と再発を繰り返すことで、椎間板や椎体、靭帯に負担が蓄積されていきます。生活習慣によってこの負担が増すと、身体に与える影響は深刻になります。

繰り返し発症することで、以下のような疾患を引き起こす可能性があります

  1. 椎間板の圧迫→ 椎間板が飛び出る/損傷する→ 椎間板変性や腰椎椎間板ヘルニアの発症
  2. 椎間板や靭帯の消耗→ 周囲の組織に過剰な負担→ 椎間関節障害の発症

これらの症状や動作に心当たりがある場合は、放置せずに早めの検査をお勧めします。

治療

筋・筋膜性腰痛の治療には、薬物療法、運動療法、温熱療法、装具療法などが用いられます。発症直後の強い痛みには、まず安静とアイシングが重要です。しかし、過度な安静は痛みを長引かせるリスクがあるため、痛みが和らいだら早めに軽いストレッチや体を動かす活動を開始することが推奨されます。損傷部位を温めることで血流が促進され、修復が早まる効果も期待できます。
また、損傷した筋肉の筋力が低下する可能性があるため、再発防止のためには腹筋や背筋の筋力強化が重要です。仕事やスポーツにおける姿勢や動作に原因がある場合は、姿勢改善や動作方法のトレーニングを行い、筋肉や筋膜への負担を軽減することが求められます。
通常、筋・筋膜性腰痛は3週間から3か月以内に自然治癒することが多いですが、安静にすべき時期に無理をして活動を再開すると、痛みが慢性化することがあります。そのため、痛みがひどくならない範囲で適度に身体を動かすことが大切です。一般的に、筋・筋膜性腰痛の予後は良好であり、適切な時期に適切な治療を受ければ大きな問題は生じにくいとされています。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防とセルフケア

筋膜の捻れを予防するための方法として、自分で簡単に行えるセルフ筋膜リリースがあります。専用のポールやボールが市販されていますが、テニスボール2つを使えば簡単にストレッチが可能です。
通常は整体などで他人の手を借りて行う筋膜リリースを、自分自身で行うことができ、筋膜を正常な位置に戻すことで、筋肉や骨への負担が軽減され、血流も改善されます。特に背骨周辺では自律神経に影響を与えるため、筋膜をほぐすことは自律神経のバランスを整える効果も期待できます。
筋肉が柔らかくなることでむくみが取れ、余分な水分が排出されるため、見た目もすっきりします。また、「筋・筋膜性腰痛」の予防や改善にも役立つと言われている筋膜のほぐし方ですが、腰骨(ベルトの位置)や背骨は避けることが重要です。これらの部位は神経が集まっており、簡単に刺激すると危険です。特に痛みが強いときは避けましょう。
筋膜をほぐす際に効果的な部位は、骨盤周りの中殿筋(お尻の横にある筋肉)です。テニスボールを使って圧をかけることで、骨盤の動きが良くなり、筋膜が正しい位置に戻ります。仰向けになり、片側の中殿筋の下にテニスボールを1つ置き、軽く両膝を曲げてボールの上に体を乗せ、筋膜をほぐします。痛みが強い場合は中止し、心地よい程度の圧で行うことがポイントです。
次に、同じく仰向けになり、脚を伸ばして背骨の両脇にテニスボールを2つ置き、全身の力を抜いてテニスボールの上に体を乗せます。ここでは脊柱に沿って自律神経が通っているため、副交感神経が優位になり、体の痛みが和らぐだけでなく、全身の疲労感や精神的なストレスにも効果があります。
ウォーキングや運動の前に少し行うだけでも効果があり、筋・筋膜性腰痛の改善やぎっくり腰の予防にもつながります。普段から正しい姿勢を意識し、医師に相談しながら簡単なストレッチを行うことで、体調管理や生活の質を向上させることが可能です。

Q&A

Q1. 筋肉や筋膜が原因で腰に痛みが出るのはなぜですか?

筋肉や筋膜が過度に緊張することで、血流が悪化し、腰に痛みが発生します。これが筋・筋膜性腰痛の主な原因となります。

Q2. 筋・筋膜性腰痛の初期症状にはどのようなものがありますか?

初期症状として、腰や背中の筋肉に鈍い痛みやこわばりを感じることがあります。特に長時間同じ姿勢を続けると、痛みが悪化しやすいです。

Q3. 筋・筋膜性腰痛はどのように診断されますか?

筋・筋膜性腰痛は、問診や触診によって筋肉の硬さや緊張を確認し、他の腰痛原因を排除することで診断されます。画像診断では異常が見られないことが多いです。

Q4. 筋・筋膜性腰痛の治療にはどのような方法がありますか?

治療には、物理療法やリハビリ、ストレッチが効果的です。また、痛みを和らげるために筋肉をほぐすマッサージや薬物療法も行われます。

Q5. 腰の痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

セルフケアとして、適度なストレッチや、腰を温めることが有効です。姿勢を整え、長時間同じ姿勢を避けることも大切です。

Q6. 筋・筋膜性腰痛の予防にはどのような運動が効果的ですか?

予防には、腰や背中の筋肉を強化するエクササイズやストレッチが効果的です。柔軟性を高める運動を日常に取り入れることが、再発予防に役立ちます。

Q7. 筋・筋膜性腰痛が長引く場合、どのタイミングで医師に相談すべきですか?

痛みが1週間以上続く場合や、日常生活に支障が出る場合は、早めに医師に相談することが推奨されます。早期治療が回復を促進します。

Q8. 筋・筋膜性腰痛の再発を防ぐためにはどのような生活習慣が必要ですか?

再発を防ぐためには、正しい姿勢を保ち、デスクワークなどで定期的に体を動かす習慣をつけることが効果的です。無理のない範囲で運動を行いましょう。

Q9. 筋・筋膜性腰痛の痛みを緩和するためにマッサージは有効ですか?

マッサージは筋肉の緊張をほぐし、痛みを和らげるのに効果的です。専門の施術を受けることで、筋膜の硬さを改善し、症状の軽減が期待できます。

Q10. 筋・筋膜性腰痛の治療には手術が必要ですか?

筋・筋膜性腰痛は、非手術的な治療が一般的です。適切なリハビリや物理療法で改善が見込まれますが、痛みが重度の場合には専門医による治療が必要です。

筋筋膜性腰痛症の実例紹介

 

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