CRPS(複合性局所疼痛症候群) 複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、傷が治癒した後も痛みが長引く病態であり、疾患というよりも複雑な状態を指します。原因は未だに明確ではなく、患者のQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼし、治療が困難です。CRPSは患者ごとに多様な症状が現れ、さらに病期に応じて病態が変化します。そのため、複数の治療法が同時に導入されることが多く、個々の治療法の効果を評価するのが難しい特徴があります。CRPSでは、傷の重さに対して不釣り合いな強い痛みが続き、軽く触れるだけで強い痛みを感じる痛覚過敏が見られます。また、病期に応じて患部に浮腫、皮膚血流の変化、発汗異常が現れることがあります。 原因 交通事故などで外傷を受けると、交感神経が緊張し反射が高まります。交感神経は、アドレナリンを大量に放出して血管を収縮させ、出血を抑える働きをします。手足の血管が収縮すると腫れを防ぐこともでき、身体を守るための防衛反応が起こります。しかし、通常は外傷が治癒すると交感神経の反射が消失し、身体は正常な状態に戻ります。 ところが、CRPS(複合性局所疼痛症候群)の場合、外傷が治癒しても交感神経の反射が続きます。これにより、アドレナリンが過剰に放出され続け、血管の収縮が持続して血流障害が発生します。血流障害は、酸素や栄養の供給不足と老廃物の蓄積を引き起こし、細胞に必要な栄養が行き渡らない状態を作り出します。 また、交感神経が過剰に働くと副交感神経が抑制され、老廃物の排泄が不十分になったり、消化やホルモン分泌が正常に行われなくなります。さらに、白血球にも影響が出ます。交感神経が優位になると顆粒球が活発に働き、細菌の除去や細胞の死骸の分解を行いますが、CRPSではこの状態が持続し、顆粒球が増え続けます。その結果、活性酸素が過剰に放出され、必要な細胞まで破壊してしまう可能性があります。 症状 複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状は非常に多様で、決まったパターンに従うものではありません。主な症状としては、感覚異常、局所的な自律神経の異常(血管運動の変化や発汗異常)、および運動機能の異常が挙げられます。 特に診断の中核となるのは「疼痛」で、焼けつくような激しい痛みやうずくような痛みが特徴です。これは、特定の末梢神経の分布に一致せず、精神的ストレスや環境の変化で悪化することがあります。また、アロディニア(軽い刺激でも痛みを感じる状態)や痛覚過敏もよく見られます。痛みのために患部を使うことが難しくなることも多いです。 他にも、皮膚の色や温度が変化する血管運動性の異常(発赤、斑状、青白い変色、皮膚の温度変化)や、発汗異常(皮膚の乾燥または発汗過多)が現れることがあります。時には、局所的な強い浮腫が見られることもあります。 さらに、萎縮性の変化として皮膚の光沢を伴う萎縮、爪の割れや異常な伸長、骨の萎縮、脱毛などが起こることがあります。運動機能の異常としては、筋力低下や振戦(震え)、痙攣(けいれん)、さらには手指の屈曲や足の内反尖足位を伴うジストニア(異常な筋収縮)が生じることがあります。関節の可動域が制限され、重症化すると関節拘縮に至ることもあります。 心理的な負担も大きく、抑うつ、不安、怒りなどの感情が見られます。これらは原因不明であることや効果的な治療がないこと、長期にわたる症状が原因でさらに悪化することがあります。 モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療 近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。 運動器カテーテル治療のメリット 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。 CRPS(複合性局所疼痛症候群)の実例紹介 モヤモヤ血管 顔・首 肩・腕・肘・手 胸 腰臀部股関節 膝 足 その他