変形性関節症 変形性関節症は、関節を保護している軟骨が摩耗することで関節が滑らかに動かなくなり、骨同士がこすれ合って炎症を引き起こし、水が溜まるなどの症状が現れる疾患です。また、骨に棘のような突起(骨棘)ができ、関節の形が変形していきます。 初期の段階では、動作を始めたときや立ち上がるときに痛みを感じる程度で、見過ごされることが多いです。しかし、症状が進行すると、階段の昇り降りが難しくなるなど、日常生活に支障をきたす場合もあります。特に変形性関節症が起こりやすい部位は、背骨、股関節、膝ですが、首、手、肩の関節にも発生する可能性があるため注意が必要です。 変形性関節症の種類 一次性関節症 原因が特定されない関節痛で、加齢や肥満などが主な要因とされています。特に60歳以上の高齢者に多く、女性に多く見られる傾向があります。過去に重労働やスポーツをしていた人は、関節が変形するリスクが高くなります。 二次性関節症 怪我やリウマチなど、既存の疾患や関節の損傷が原因で発症する関節症です。 変形してしまった関節を元に戻すことはできませんが、早期に治療を受けることで痛みや腫れを和らげ、進行を抑えることが可能です。関節に違和感を感じたら、早めに病院で診断を受けることが重要です。病院では、痛みの度合いや変形の状態を確認し、必要に応じてMRIなどの検査で診断します。 原因 関節表面を覆う関節軟骨は、軟骨細胞を含む2型コラーゲンとプロテオグリカン(糖タンパク質)で構成されています。関節軟骨には血管や神経線維が存在しないため、直接的な血行や痛覚伝達はありません。 変形性関節症では、機械的な負荷が繰り返されることで軟骨が変性・摩耗し、さらに関節周囲の滑膜に炎症が起こることで、変性が加速します。これに伴って、関節周辺の骨や軟骨が異常増殖し、線維化が進行するため、痛みが感じやすくなります。特に体重を支える膝関節や股関節で顕著に現れ、肘関節も労働者に多く見られます。日本では50歳以上の約1000万人が変形性膝関節症による膝の痛みを経験しているとされています。 原因としては、炎症性疾患、軟骨の脆弱性、外傷、関節の発育不全、関節の過度な動揺性などが挙げられ、これらが変形性関節症の発症や進行に影響を与えます。関節への負荷が続くことで軟骨が摩耗し、骨の組織が破壊され、関節が変形する悪循環が生じます。 症状 変形性関節症の症状は徐々に現れ、最初は1カ所または複数の関節に影響が出ます。よく影響を受ける部位としては、手の指関節、親指の付け根、首(頸部)、腰、足の親指、股関節、膝関節などが挙げられます。 初期症状としては「深い痛み」として表現されることが多く、体重がかかる関節、例えば立ち上がる際などに痛みが増します。また、朝起きた時やしばらく動かないでいた後に関節のこわばりを感じることもありますが、通常は30分以内に解消され、関節を動かすと特に改善されやすいです。 進行すると関節の可動域が制限され、完全に曲げ伸ばしができなくなることがあります。また、軟骨や骨の変性により関節が肥大化し、動かした際にギシギシ、キーキーといった音や、圧痛を感じることが増えます。指の関節では、指先の関節にヘバーデン結節、真ん中の関節にブシャール結節と呼ばれる骨の増殖が見られることがあります。 膝関節などでは、関節を支える靱帯が伸びるために不安定になり、筋力の低下も伴います。股関節や膝関節が硬くなり、可動域が狭くなることもよくあり、階段の昇り降りや歩行時に強い痛みが生じることもあります。 また、変形性関節症は脊椎にも発症することがあり、背中の痛みが一般的です。脊椎の関節や椎間板が損傷すると軽度の痛みやこわばりが見られますが、頸椎や腰椎の変形によって神経が圧迫されると、腕や脚にしびれや痛み、筋力低下が生じることがあります。腰部では、脊柱管内の骨の過剰な増殖(腰部脊柱管狭窄症)が神経を圧迫し、歩行中に脚に痛みを引き起こすことがあります。これが血流不足と誤解されることもあり、間欠性跛行と呼ばれる症状が現れることもあります。まれに、首の骨の増殖が食道を圧迫し、嚥下困難を引き起こす場合もあります。 変形性関節症は、急速に進行する場合もあれば、何年も安定した状態が続くこともあります。多くの人で機能障害が発生する可能性がありますが、関節の発赤、熱感、腫れがある場合は、感染症や痛風の可能性が考えられるため、医師の診察を受けることが重要です。 治療 変形性関節症の保存療法 運動療法 関節機能を維持するためには、関節周囲の柔軟性と筋力を保つことが重要です。そのため、ストレッチや筋力トレーニングが推奨されます。特に変形性膝関節症の患者には、太ももの前側にある大腿四頭筋など、膝周辺の筋肉を強化するトレーニングが効果的です。筋力を高めることで、関節にかかる負担や衝撃を軽減し、痛みの緩和や進行予防につながります。変形性股関節症の場合、臀部の筋肉を鍛えることが症状改善に役立ちます。運動は関節に負担をかけないように行うことが大切です。例えば、膝関節症では、足を浮かせて伸ばす運動や、プールでの歩行、自転車運動が効果的です。スクワットのように体重をかけて膝を曲げる運動は逆効果になることがあるので注意しましょう。 装具療法 関節の不安定性を補強し、さらなる悪化を防ぐために装具を使用します。特に膝関節では、O脚の進行を防ぐために、靴の中に入れる足底装具がよく使われます。 薬物療法 内服薬や湿布・塗り薬などの外用薬を用いることで、炎症を抑え、痛みを軽減させます。 関節注射 膝関節には、ヒアルロン酸注射を行うことがあります。これは関節内の滑りを良くし、軟骨の変性を抑え、痛みを和らげる効果が期待されます。 物理療法 ホットパックや電気治療、超音波治療などの温熱療法も、痛みを和らげる効果があります。 変形性関節症の手術療法 手術では、変形した関節周囲の骨に働きかけて角度を調整する「骨切り術」や、変形した関節を切除して金属製の人工関節に置き換える「人工関節置換術」があります。手術の選択は、患者の年齢や活動量、関節の状態を考慮して決定されます。手術後は、リハビリが非常に重要です。数週間から数ヶ月間のリハビリを行うことで、手術の効果を最大限に引き出すことができます。 モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療 近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。 運動器カテーテル治療のメリット 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。 予防 筋肉を鍛える 関節を動かさないままにしておくと、周囲の筋肉が弱まり、動きが悪くなり(可動域が狭くなり)、痛みが発生しやすくなります。年齢を重ねても元気に歩き続けるためには、日頃から適度な運動を心がけ、特に膝周りの筋肉を鍛えておくことが大切です。鍛えた筋肉が硬直しないよう、簡単なストレッチや水中ウォーキングなどの有酸素運動も取り入れると良いでしょう。 関節をいたわる 関節の痛みを予防するためには、日常生活の中で関節に過度な負担をかけないようにすることが大切です。 関節を冷やさない 冷やすと筋肉や腱が硬くなり、血行が悪化して筋肉疲労を引き起こすことがあります。関節は冷やさず、温めるようにしましょう。特別な方法は必要なく、日々の入浴や膝を温める効果のあるサポーターの使用がおすすめです。ただし、関節が炎症を起こして腫れている場合には温めずに冷やすことが重要です。 関節に負担がかかる動作を避ける 急激な動作や無理な姿勢は関節に負担をかけます。膝の場合は、突然の立ち上がりや歩行中の急停止などを避け、ゆっくり動作するようにしましょう。床に座る際も焦らずにゆっくりと行い、椅子を使用することで膝への負担を軽減できます。膝に不安を感じた場合は、膝専用のサポーターを活用することもおすすめです。 ケガを防ぐ スポーツなどで膝関節に負担をかけたり、膝をケガすると関節痛の原因になることがあります。運動時には膝に過度の負担をかけないよう注意しましょう。 Q&A Q1. 変形性関節症とは何ですか? 変形性関節症は、関節の軟骨が摩耗し、関節の変形や痛みが生じる疾患です。主に膝や股関節、手の指などに発症し、進行すると関節の機能が低下します。 Q2. 変形性関節症は年齢に関係がありますか? 変形性関節症は、加齢とともに発症リスクが高まります。関節の摩耗は自然な老化現象の一部であり、特に50歳以上の人々に多く見られます。 Q3.原因は何ですか? 主な原因は、加齢、関節にかかる過度な負担、外傷、肥満などです。長期間にわたる関節の酷使や遺伝的要因も影響します。 Q4. 遺伝しますか? 変形性関節症は遺伝的要因が影響することがあります。家族に関節の問題を抱える人がいる場合、遺伝的に発症リスクが高くなる可能性があります。 Q5. 進行を遅らせる方法はありますか? 進行を遅らせるためには、適切な体重管理、適度な運動、関節への負担を軽減するサポートアイテムの使用が有効です。早期に適切な治療を行うことで、進行を抑えることが可能です。 Q6. どのような症状がありますか? 関節の痛み、腫れ、こわばり、関節の変形があります。初期には運動後に痛みが出やすく、進行すると日常動作にも支障が出ます。 Q7. 変形性関節症は運動やスポーツに影響しますか? 変形性関節症は関節の痛みと可動域の制限を引き起こすため、運動やスポーツに大きな影響を与えます。適切なリハビリやサポートを利用すれば、運動を続けることは可能です。 Q8. 治療に手術が必要な場合はどのような状況ですか? 手術は、保存療法(リハビリ、薬物療法)で症状が改善しない場合や、関節の変形や痛みが進行して日常生活に大きな支障をきたす場合に検討されます。 Q9. 予防するためにはどのようなライフスタイルが必要ですか? 予防には、体重管理、関節に優しい運動(ウォーキングや水泳など)、関節をサポートする靴やインソールの使用が効果的です。関節に過度な負担をかけないことが重要です。 Q10. 変形性関節症は完治しますか? 変形性関節症は完治することはありませんが、適切な治療やリハビリを行うことで、症状を緩和し、生活の質を向上させることが可能です。早期治療が進行を抑える鍵となります。 モヤモヤ血管 顔・首 肩・腕・肘・手 胸 腰臀部股関節 膝 足 その他