変形性肩関節症 肩関節は、肩甲骨と上腕骨頭によって構成されており、肩甲上腕関節とも呼ばれます。この肩甲上腕関節の軟骨が変性し、破壊が進行する状態を「変形性肩関節症」といいます。この疾患の発生頻度には人種による差があり、従来は欧米に比べて東洋人では少ないとされていましたが、近年日本でも増加傾向にあります。原因によって「一次性」(原因不明)と「二次性」(原因が明確)の2種類に分けられます。 一次性の変形性肩関節症は、膝や股関節などの下肢の関節に比べると、発症頻度は低いです。その理由のひとつとして、肩関節が「非荷重関節」(体重がかからない関節)であることが挙げられます。膝や股関節のように体重が直接かかる「荷重関節」とは異なり、肩関節は関節面への負担が少ないためです。また、肩関節は接触面積が小さく、それを補う大きな関節唇や関節包が関節の適合性と強度を支えています。さらに、肩周囲の筋肉、靭帯、腱が発達していることから、肩関節は人体で最大の可動域を持つ関節であり、特定の部位に継続的な負荷がかかりにくい構造となっています。これらの理由から、肩関節の軟骨は他の関節に比べて変性のリスクが低いと考えられています。しかし、可動域が大きいことから、一度変形が進むと動きの制限が出やすい特徴もあります。 一方、二次性の変形性肩関節症は、腱板断裂、上腕骨頭壊死(特にステロイドやアルコールの大量摂取が原因となることが多い)、関節リウマチ、上腕骨近位端骨折などが原因で発症します。特に、腱板断裂が原因となる「腱板断裂性関節症」は、高齢化社会の進行に伴い、その発症頻度が増加しています。 原因 変形性肩関節症の原因は、主に原因不明の一次性と、特定の病気や状態に関連する二次性に分類されます。 一次性変形性肩関節症は、はっきりとした原因が特定されていないものです。加齢、スポーツや肉体労働による肩関節への過度の負担、または骨格的な問題によって、肩関節の軟骨がすり減ったり損傷したりすることが要因と考えられています。特に高齢者に多く見られるのが特徴です。 二次性変形性肩関節症は、特定の病気や状態が原因で発症するものです。肩腱板断裂、上腕骨頭壊死、関節リウマチ、上腕骨近位端骨折などがその原因として挙げられます。近年では、腱板断裂に伴い関節の変形が進行する「腱板断裂性変形性肩関節症」の症例が増加しています。 症状 肩関節の痛みや可動域の制限が主な症状です。痛みは安静時や夜間、動作時に現れることがあり、肩だけでなく首や上腕の外側にまで広がることもあります。症状の程度は変形の進行状況によって異なりますが、進行すると、着替えや家事などの日常動作が次第に困難に感じられるようになります。 治療法 痛みや可動域の制限に対しては、まずは飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェン)や、自主的なリハビリ(穏やかなストレッチや筋力トレーニング)で治療を行います。痛みが強い場合には、ステロイドを使用した関節注射が行われることもあります。関節の変形が進行して痛みや動きの制限が日常生活に支障をきたす場合には、人工肩関節置換術が標準的な治療法とされています。 モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療 近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。 治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管 治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態 治療費用:税込324,500円 主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。 運動器カテーテル治療のメリット 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。 予防 予防策として、日常生活に適度な運動やストレッチを取り入れることが大切です。スポーツや運動を行う際は、肩を痛めないようにウォーミングアップとクーリングダウンをしっかり行いましょう。生活習慣の改善も重要です。姿勢を正し、適切な体重を維持することが肩の健康に役立ちます。特にデスクワークをする方は、長時間同じ姿勢にならないよう、定期的に休憩を取り、ストレッチを行うことを心がけましょう。さらに、喫煙や過度の飲酒は炎症を引き起こし、関節に悪影響を与えるため、禁煙や節度ある飲酒を心がけましょう。バランスの取れた食事も、体の抵抗力を高め、関節の健康をサポートします。 もしこれらの対策を講じても症状が改善しない場合は、早めに整形外科を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。 Q&A Q1. 肩を動かすときに痛みを感じるのはなぜですか? 肩の関節や筋肉に炎症や摩耗が生じると、動かしたときに痛みを感じることがあります。特に繰り返しの動作や加齢が影響することが多いです。 Q2. 肩の可動域が狭くなる原因は何ですか? 肩の可動域が狭くなるのは、関節や筋肉に硬化や炎症が起きていることが原因で、長期間の使用や年齢的な要因も関係しています。 Q3. 夜になると肩の痛みが強くなることがあるのはなぜですか? 夜間に肩の痛みが強くなる場合、関節に炎症があり、日中の活動で疲労がたまっている可能性があります。炎症が進行しているサインかもしれません。 Q4. 肩の関節を動かしたときに音が鳴るのはどうしてですか? 肩を動かすときに音がする場合、関節の摩擦や軟骨の摩耗が原因であることがあります。痛みが伴う場合は、専門医の診断を受けることをおすすめします。 Q5. 肩の痛みが慢性化している場合、どんな治療が効果的ですか? 慢性的な肩の痛みには、物理療法やリハビリ、薬物治療が効果的です。必要に応じて外科的な治療が検討されることもあります。 Q6. 肩を上げると痛みが走る場合、どう対処すればよいですか? 肩を上げたときに痛みを感じる場合、関節や筋肉の炎症が原因であることが多いです。無理に動かさず、早期に医師の診察を受けることが重要です。 Q7. 日常の動作で肩に負担がかかるのを防ぐ方法はありますか? 肩に負担がかかるのを防ぐためには、正しい姿勢を保ち、肩のストレッチやエクササイズを取り入れることが効果的です。重い物を持つ際にも注意が必要です。 Q8. 肩の動きが硬くなった場合、どのようなリハビリが有効ですか? 肩の動きが硬くなった場合、専門的なリハビリやストレッチが有効です。肩関節を無理なく動かす運動で、筋肉の柔軟性を高めることができます。 Q9. 加齢によって肩の柔軟性が低下することがありますか? 年齢とともに肩の軟骨や筋肉が摩耗しやすくなり、柔軟性が低下することがあります。定期的な運動とケアが肩の健康維持に役立ちます。 Q10. 肩の痛みが強くなった場合、どのタイミングで医師に相談すべきですか? 肩の痛みが強くなり、日常生活に支障が出るようになった場合は、早めに医師に相談することが重要です。早期診断と適切な治療が症状の改善に繋がります。 変形性肩関節症の実例紹介 モヤモヤ血管 顔・首 肩・腕・肘・手 胸 腰臀部股関節 膝 足 その他