腸脛靭帯炎(ランナー膝)

腸脛靭帯は、お尻の筋肉である大臀筋と大腿筋膜張筋から始まり、脛骨(すねの太い骨)の前外側にある突起部分に繋がっています。腸脛靭帯炎(ランナー膝)は、主に長時間ランニングをするアスリートに多く見られるスポーツ障害で、腸脛靭帯と大腿骨外側の突起部分が擦れ合うことで発症します。このため、ランナーに多いことから「ランナーズニー(runners knee)」とも呼ばれます。主な症状は、ランニング中に膝の外側に痛みが生じることです。

原因

腸脛靱帯は、太ももの外側に位置する大きな靭帯で、膝の曲げ伸ばしのたびに大腿骨外側上顆(だいたいこつがいそくじょうか)と呼ばれる骨の出っ張りを前後に滑ります。ランニングなどで膝を屈伸する動作が繰り返されると、腸脛靱帯と大腿骨外側上顆が擦れ、摩擦による炎症が発生します。その結果、ランニング中やランニング後に痛みが現れるのです。
ランナー膝の原因としては、オーバーユース(使いすぎ)のほか、柔軟性や筋力の低下、ウォームアップ不足が挙げられます。また、硬い路面や下り坂の走行、硬いシューズの使用もリスク要因とされています。

症状

ランナー膝の主な症状は、膝の外側(特にやや上部)の大腿骨外側上顆周辺に痛みが生じることです。初期段階では、運動中(特に膝を踏み込んだ際)や運動後に痛みが現れ、安静にすると痛みは和らぎます。しかし、症状が進行すると、運動時だけでなく、歩行時や安静時にも膝の外側に痛みが感じられるようになります。

治療

  1. 急性期
    まずは局所の安静を保ち、過度な負荷を取り除き、冷却によって炎症を鎮めることが重要です。安静にしていても痛みがある場合や、歩行時に痛みがある場合には、消炎鎮痛剤のパップ剤や経口薬を使用します。また、急性期には腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の間にある滑液包に、コルチコステロイドの注射を行うこともありますが、副作用のリスクを考慮し、慢性的なケースには慎重に対応する必要があります。膝の屈伸運動は避けるべきですが、腕のみを使う水泳は症状次第で許可される場合もあります。
  2. 亜急性期
    ストレッチを通じて、緊張した腸脛靭帯の柔軟性を高めていくことが必要です。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

腸脛靭帯炎の予防には、靴選びが非常に重要です。足が左右に不安定だと、腸脛靭帯につながる大腿筋膜張筋が過剰に働いて、その不安定さを補正しようとします。これが原因で筋肉が過度に緊張し、そのまま走り続けると腸脛靭帯に強い摩擦が生じ、腸脛靭帯炎のリスクが高まります。

靴を選ぶ際には、以下の3つのポイントに注意してみてください。

  1. シューズのかかとの部分(ヒールカップ)がしっかりしているかどうか
  2. シューズが足の指の付け根部分でしっかり曲がるかどうか
  3. シューズが過度に捻じれやすくなっていないかどうか

また、靴は使用に伴い消耗しますので、定期的にチェックして、自分に合った靴を選ぶことが大切です。

Q&A

Q1. 腸脛靭帯炎(ランナー膝)とは何ですか?

腸脛靭帯炎(ランナー膝)は、太ももの外側にある腸脛靭帯が膝の外側で摩擦を起こし、炎症を引き起こす状態です。特にランニングや長距離走者に多く見られます。

Q2. 主な症状は何ですか?

主な症状は、膝の外側に痛みが生じることです。特に、長時間の走行や階段の上り下りで痛みが悪化することが多いです。

Q3. どのように診断されますか?

症状の問診や触診、または膝の動きを確認するテストによって診断されます。必要に応じて、超音波やMRIで腸脛靭帯の状態を確認します。

Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

まず安静とアイシングが効果的です。痛みがある場合は、物理療法やストレッチを行い、膝への負担を減らすことが重要です。

Q5. 痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

セルフケアとして、膝を冷やすアイシングや、太ももの外側の筋肉を伸ばすストレッチが効果的です。痛みが強い場合は、テーピングやサポーターの使用も有効です。

Q6. 予防するためにはどのようなエクササイズが効果的ですか?

予防には、股関節周りや太ももの筋肉を強化するエクササイズが効果的です。特に、ヒップアブダクター(外転筋)のトレーニングが膝への負担を減らします。

Q7. 悪化する前に医師に相談すべき症状は何ですか?

痛みが長期間続く、歩行や階段の上り下りが困難になる場合は、早めに医師に相談することが重要です。早期の治療が回復を早めます。

Q8. 治療には手術が必要ですか?

ほとんどの場合、手術は必要ありません。多くのケースでは、適切なリハビリや物理療法で改善しますが、症状が重度で改善しない場合は手術が検討されることもあります。

Q9. 再発を防ぐためにはどのようなトレーニングが有効ですか?

膝周りの筋肉や股関節を強化するトレーニングが有効です。柔軟性を高めるストレッチも合わせて行うことで、膝に負担をかけずに運動を続けられます。

Q10. リハビリにはどのようなプログラムが効果的ですか?

リハビリには、腸脛靭帯を伸ばすストレッチや、筋力を強化するエクササイズが含まれます。理学療法士の指導のもと、段階的にリハビリを進めることが回復を助けます。

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