ハムストリング付着部炎とは?

太ももの後面にある大腿二頭筋(だいたいにとうきん)半膜様筋(はんまくようきん)、半腱様筋(はんけんようきん)、これら3つの筋肉の総称をハムストリングと呼びます。 骨盤の坐骨結節から始まり、膝下の脛骨におよび、主に股関節を伸ばす、膝を曲げる動作を担っています。「ストレッチするとお尻に痛みが出る」という場合の多くが、ハムストリングス付着部炎(PHT)です。これはハムストリングスに過度な牽引力が加わることで腱の付着部である坐骨結節に炎症が起こったものです。ダンサーの場合、バットマンやアラベスク・パンシェ、グランジュッテなどでなりやすいですが、ウォーミングアップが不足した状態でストレッチを行うことでも起こります。 無理にストレッチやバットマンなどの動作を行うと、付着部の剥離や炎症が更に進行する場合もあるので注意が必要です。

ハムストリング付着部炎の症状は?

主な症状は座っているときやスポーツ時の臀部の痛みです。座った状態で座面にぶつかる骨の部分(坐骨結節)に違和感や痛みが生じます。ランナーであれば負荷を上げた時に痛みが増す、あるいは痛みのために負荷が上げられないなどの症状があります。また深くかがみこんだ時にも痛みが生じることがあります。また、ハムストリング付着部炎では瘢痕組織が生じ、近傍を走行する坐骨神経に沿った放散痛を生じさせることもあります。

ハムストリング付着部炎の診断はどのようにするの?

問診により痛みの部位や性質、これまでの症状の変化などを聞くことに続き、身体所見として坐骨結節に圧痛があるかどうかを調べます。また画像検査ではレントゲン検査により、臀部痛を生じさせる他の原因(変形性股関節症など)の有無を調べます。MRIによりハムストリング付着部にどの程度の損傷が生じているかを評価することで診断します。

ハムストリング付着部炎の治療はどのように行いますか?

受傷直後は患部の腫れを最小限に抑えるためアイシングと圧迫固定をおこないます。急性期後は腫れを早くひかせるための鍼治療やオイルを使ったマッサージをおこないます。また早期からのリハビリテーションと患部外トレーニングも行います。早期からおこなうことで筋萎縮(筋肉が弱く細くなること)や結合組織(筋肉の中にできるしこり)の増殖を最小限に抑え、治癒を早めることが可能です。中期から後期にかけては、ハムストリングの左右のバランスを考慮したトレーニングや、神経筋反射を利用したリハビリテーションで、協調性を高めるトレーニングを行います。左右のみならず、大腿四頭筋とハムストリングスの筋力バランスも整えるようにトレーニングメニューを微調節する必要があります。大腿四頭筋とハムストリングスの筋力差が90%以下になると、ハムストリング損傷のリスクが高くなります。これらの繊細なアスレティックリハビリテーションが受傷後の再発を防ぎ、良いコンディションでの競技復帰を可能にします。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

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