変形性頚椎症

頸椎は、頭部の重さ(成人で約5~7kg)に加え、両腕の重さも支える構造になっており、寝ている時間を除いて常に負担がかかっています。変形性頸椎症は、この負荷を受け続けた頸椎が徐々に傷んでいく状態を指します。頸椎の変形自体は、加齢による自然な変化ですが、時にこれが神経を圧迫し、しびれや筋力低下などの症状を引き起こすことがあります。脊髄が圧迫された場合は頸椎症性脊髄症、神経の根元である神経根が圧迫された場合は頸椎症性神経根症と呼ばれます。

原因

頚椎の椎間板は、骨と骨の間でクッションの役割を果たしていますが、加齢とともに水分が減少し、弾力性が失われます。その結果、ひび割れや潰れなどの変性が起こりやすくなります。このような変性により、椎間板が脊髄や神経根を圧迫し、さまざまな症状を引き起こすことがあります。また、椎間関節に炎症が生じて痛みや不快感を引き起こす場合もあります。

症状

脊髄が圧迫されると、両手にしびれや筋力低下、感覚障害などの症状が現れることがあります。多くの人は手先の不器用さを感じ、小さな物をお箸でつかみにくくなったり、字を書くのが難しくなったりします。さらに、ボタンを留めるのが困難になったり、ペットボトルを開けるのに苦労することもあります。また、下肢のバランスが悪化し、歩行が不安定になったり、手すりがないと階段の昇り降りが難しくなる場合もあります。一方で、脊髄から分岐する神経根が圧迫されると、神経の支配領域に応じて鋭い痛みや筋力低下が生じます。また、肩甲骨周辺に痛みが広がることもあります。

診断

診察で神経学的異常が見られなくても、症状がある場合はレントゲン撮影(前後像、側面像、斜位像)を行います。これにより骨の形状や、骨と骨の間隔を確認し、加齢による変化が見られれば変形性頚椎症と診断されます。さらに、変形性頚椎症と診断された後も長期間症状が改善しない、または悪化している場合には、再度MRIなどの精密検査を実施する必要があります。

治療

生活習慣の改善

日常生活において、痛みを悪化させる動作、特に同じ姿勢を長時間保つことは避けることが重要です。また、痛みがない期間には、体操などで頸部の筋力を積極的に鍛えることが、長期的な改善に役立ちます。特別な筋力訓練に限らず、ランニングなどの軽い運動も効果的です。さらに、十分な睡眠と精神的なリラックスも大切です。

理学療法

理学療法としては、首や肩への温熱療法や牽引療法が一般的に行われます。発症初期には、頸椎カラーという装具を使って首の動きを制限する治療法もあります。これらはすべて対症療法であり、効果を判断するには2~3か月程度の経過観察が必要です。頸椎の牽引療法も有効な場合がありますが、外来での牽引は時間や回数に制限があるため、神経根症が頑固な場合には入院してベッド上での持続的な牽引が行われることもあります。目的は首の安静を保つことで、過度な牽引は避けるべきです。牽引によって腕の痛みが強まる場合は、中止する必要があります。

薬物療法

痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などの内服治療が行われます。症状が6か月以上続く場合、改善が見込まれにくくなるため、早期の治療が重要です。筋肉由来の痛みが強い際には、トリガーポイント注射と呼ばれる局所麻酔薬の注射が効果的です。

手術療法

保存療法を続けても症状が改善せず、悪化する場合には、原因が検査で明確になった場合に手術療法が検討されます。ただし、首や肩の症状のみでは手術が行われることはほとんどありません。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円〜357,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

運動器カテーテル治療のメリット

有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

変形性頚椎症を予防するためには、日常的に首にかかる負担や姿勢を見直すことが重要です。最近では、ストレートネックやスマホ首といった現代特有の問題にも注目が集まっています。首を過度に曲げる動作や、猫背など頚椎に負担をかける姿勢は改善するよう心がけましょう。加齢による椎間板の変性は誰にでも起こりますが、日常生活の中で変形性頚椎症のリスクを最小限に抑えることが大切です。

Q&A

Q1. 首の痛みが長引いている場合、考えられる原因は何ですか?

首の痛みが長く続く場合、姿勢の悪さや加齢による骨や関節の変化が原因となっていることがあります。放置せず、専門医の診察を受けることが大切です。

Q2. 肩や腕にしびれを感じたときに考えられる問題とは?

肩や腕にしびれを感じる場合、首の神経が圧迫されている可能性があります。早めに専門医に相談し、適切な治療を受けることをおすすめします。

Q3. デスクワーク中に首が痛くなりやすい理由は何ですか?

デスクワークでは首に過度な負担がかかり、筋肉が硬直しやすくなります。長時間の座り仕事は、姿勢改善と定期的なストレッチが予防に効果的です。

Q4. 高齢者に多い首の症状にはどのようなものがありますか?

加齢に伴い、骨や関節の摩耗が進み、首の可動域が狭くなることがよく見られます。首の痛みや硬さが気になる場合は、定期的なチェックが推奨されます。

Q5. スマホを長時間使用すると首にどんな影響がありますか?

長時間スマホを使用することで、首が下を向きやすくなり、筋肉や関節に負担がかかります。適切な姿勢を保つことが、痛みの予防に効果的です。

Q6. 首を動かすと音が鳴るのは問題ですか?

首を動かす際に音が鳴ることは、関節の変化や摩耗が原因である場合がありますが、痛みを伴う場合は医師に相談することをお勧めします。

Q7. 頻繁に肩こりや首の疲れを感じる場合、どうすれば良いですか?

肩こりや首の疲れを頻繁に感じる場合、筋肉の緊張や姿勢の問題が関係していることが多いです。適度なストレッチや定期的な運動が有効です。

Q8. 首や肩にかかる負担を軽減するためにはどうすれば良いですか?

首や肩の負担を軽減するためには、適切な姿勢と定期的なストレッチが効果的です。また、長時間同じ姿勢を続けないようにすることも大切です。

Q9. 首が痛くて動かしにくくなった場合、どんな治療法がありますか?

首が痛くて動かしにくい場合、理学療法やリハビリ、必要に応じて外科的治療が選択肢になります。専門医の診断を受けて適切な治療を行うことが重要です。

Q10. 首の疲れや痛みを感じたときに有効なセルフケア方法は?

首の疲れや痛みには、適度なストレッチや姿勢の見直しが有効です。特にデスクワークや長時間のスマホ使用が多い方には、定期的な休息も必要です。

鴨井院長が本当に伝えたいこと

高度に変形した頸椎は元に戻すことはできません。人によっては常に前傾姿勢となっている方もおられるでしょう。一方、いくら変形していても痛みのない方もおられます。医療としてはそこを目指すわけです。強い骨の変形により生じている神経の圧迫は手術でなければ解消できませんが、頸椎の手術には取り返しのつかないような合併症のリスクがありますし、高度に頸椎変形をきたしているのはご高齢の方に多いわけですが、その時点で手術適応外とされてしまうこともあります。一方、カテーテル治療は一定程度治療台の上に仰向けに寝ていただくことさえできれば、特に年齢制限はありません。90歳代の方でも治療を受けていただいています。カテーテル治療では、それ以外の要素、頸椎と頸椎の間の椎間関節、筋肉や筋膜、靭帯その他の周囲組織などに対して血管を通して働きかけます。頸椎がそれだけ変形するほどですから、その他の組織にも相応の強い負担が長期間かかってきたことは明らかなわけですが、それに伴い生じた慢性炎症や血流障害、その結果として起こった各組織の線維化(硬い組織に置き換わってしまうこと)などによる神経の圧迫なども痛みやしびれの原因となっています。カテーテル治療は、病的新生血管を大幅に間引くことによって、血管の中からこれらを変えていくことができるのです。四六時中あるような両手の強いしびれ、長期間固定した筋力低下などは改善困難ですが、出たり消えたりする程度のしびれや、発症からあまり時間が経過していないしびれ、また首から腕にかけての広範囲の痛みなどは一定の改善が期待できます。高齢だからと諦める必要はありません。

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