インピンジメント症候群

インピンジメント症候群は、腱板断裂などの明確な損傷がないにもかかわらず、肩に痛みを引き起こす疾患の一つです。この疾患は、肩の関節内で骨や軟骨、靭帯がこすれたり挟まったりすることが原因と考えられています。診断には、症状、検査結果、骨の形態など複数の所見を組み合わせて判断します。
この疾患の名前である「impingement syndrome」は英語で、「突き当たる」や「衝突する」という意味を持ちます。肩の関節周囲で組織が衝突したり、こすれ合ったりすることで痛みを引き起こすとされています。
インピンジメント症候群は、診断に決定的な所見がないため、複数の所見を総合的に判断することが必要です。また、他の肩の痛みを引き起こす疾患を除外することも、正確な診断には重要です。

原因

インピンジメント症候群の主な原因は、肩の使いすぎ(オーバーユース)であることが多いです。繰り返し肩を使用することで、肩峰下にある腱や滑液包が炎症を起こし、痛みを引き起こします。腕を上げる際、肩峰下のスペースは狭くなりますが、このエリアにはもともと上腕二頭筋腱、ローテーターカフ、靭帯、滑液包など多くの組織が存在しています。この狭いスペース内で腱や滑液包が炎症を起こして腫れると、腱や滑液包が肩峰などの骨と衝突し、肩の痛みや他の症状を引き起こします。また、肩を上げる動作は肩甲上腕関節だけでなく、他の肩周囲の関節も連動して行われるため、他の関節に問題が生じると肩を上げる動作に支障をきたし、インピンジメントが発生することも多くあります。

症状

インピンジメント症候群では、肩を上げる途中や特定の角度で痛みを感じることが多く、完全に上げ切った時よりもその途中で痛みが強くなることがあります。痛みは肩そのものだけでなく、肩の外側や時には二の腕にまで広がることもあります。特に、夜間や仰向けで寝ている時に痛みが増すことがしばしばあります。
この症状は、腱板の付着部で炎症が起こるため、腱板断裂と似た症状を伴いますが、肩の可動域が大きく制限されることは少なく、動かすことはできるものの、痛みによって動かしづらい状態になることが多いです。夜間に痛みが強くなるのは、炎症がひどい時に特徴的な症状です。

治療法

保存療法

まず、投球を一時的に中止して肩を休めます(軽症の場合、1~2週間の投球禁止で症状が改善することがあります)。次に、肩の開きや肘の位置など、投球フォームの矯正が必要です。痛みが強い場合には、痛み止めや抗炎症薬の注射といった薬物療法が行われます。さらに、投球に耐えられる肩を作るためにリハビリが重要です。具体的には「肩甲骨周囲の筋力訓練」や「腱板訓練(インナーマッスルエクササイズ)」を行います。筋力訓練は最低でも2か月続ける必要があり、根気よく取り組むことが求められます。これらの保存療法により、ほとんどのインピンジメント症候群は改善が期待できます。

手術治療

保存療法を3~6か月行っても症状が改善しない場合は、手術が検討されます。ただし、術後にポジションの変更や、野球のレベルを下げざるを得ない選手もいます。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防方法

腱板の筋力強化や、肩甲骨を安定させる筋肉を鍛えることが効果的です。

予防のポイント
肩甲骨を安定させる筋肉の柔軟性を回復し、支持力を強化する
肩関節の可動域を維持する
腱板の筋力トレーニングを行う
上腕骨大結節が過剰に衝突しないような動作を心がける
投球動作などの運動後には、アイシングや休息を十分に取る
これらの対策を継続することで、インピンジメント症候群の予防が期待できます。

Q&A

Q1. 肩を動かしたときに痛みを感じるのはなぜですか?

肩を動かした際に痛みを感じるのは、肩周辺の筋肉や腱が圧迫されている可能性があります。特に腕を上げたときに痛みが出ることが多いです。

Q2. 肩を上げるときに引っかかるような感覚を感じる原因は何ですか?

肩を上げるときに引っかかる感覚がある場合、肩関節内で筋肉や腱が骨に引っかかっている可能性があります。早めに専門医に相談することが大切です。

Q3. 肩の動きに制限が出るのはどんな原因がありますか?

肩の動きが制限される原因には、肩の筋肉や腱の炎症や損傷が考えられます。特に腕を上げたり回したりする動作が難しくなることが多いです。

Q4. 肩の痛みが強くなったとき、どのような治療法が考えられますか?

肩の痛みが強くなった場合、リハビリや物理療法が効果的です。また、痛みが激しい場合には、注射や外科的治療も考慮されます。

Q5. スポーツや日常生活で肩に負担がかかるのを防ぐ方法はありますか?

肩に負担をかけないためには、適切な姿勢を維持し、肩のストレッチや筋力トレーニングを取り入れることが重要です。特に重い物を持ち上げるときは注意が必要です。

Q6. 肩を動かしたときに痛みが出た場合、どのように対処すれば良いですか?

肩を動かした際に痛みを感じた場合、無理に動かさず、まずは冷却や安静が効果的です。痛みが長引く場合は専門医に相談してください。

Q7. 肩の痛みを緩和するためのセルフケア方法はありますか?

肩の痛みを緩和するためには、軽いストレッチや温熱療法、アイシングが効果的です。日常的なセルフケアで肩の健康を維持しましょう。

Q8. 肩の痛みが慢性的になった場合、どのようなリハビリが有効ですか?

肩の痛みが慢性化した場合、専門的なリハビリや筋力トレーニングが有効です。専門家の指導のもとで行うことで、安全に効果的に痛みを軽減できます。

Q9. 肩を動かすときに違和感がある場合、何科を受診すれば良いですか?

肩の違和感や痛みが続く場合は、整形外科やスポーツ医療の専門医を受診することが推奨されます。早めの診察で、症状の悪化を防ぎましょう。

Q10. 年齢とともに肩の動きが悪くなることがありますか?

年齢を重ねると、肩の関節や筋肉が硬くなり、動きが悪くなることがあります。適度な運動やストレッチが、肩の柔軟性を維持するのに役立ちます。

整体で治るものでしょうか?

整体やカイロプラクティックはおすすめはしません。理由は「症状の軽減はあるかもしれないが、症状を悪化させてしまう方も多い」からです。実は整体師やカイロプラクターと名乗る人たちが持っている資格は3ヶ月程度の受講でとれてしまう民間資格なのです。日本では、柔道整復師や鍼灸師、マッサージ師といった資格は国が指定する学校へ3年間ほぼ毎日通い国家試験に受かったものしか名乗れません。解剖生理などの知識が一定以上なければ危険であると国が判断しているということです。誰でも簡単に名乗れてしまうだけに、技術のレベルにとてもムラがあるのは想像がつくと思います。以上のことを踏まえると、カイロプラクティックや整体といったものを安易に選ぶのは少し考えものです。

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