大転子滑液包炎

大転子滑液包炎は、股関節の外側にある骨の突起(大転子)周辺の滑液包(潤滑液で満たされた袋)に炎症が発生する疾患です。主な症状は、股関節の外側に慢性的な痛みが生じることです。この疾患は英語でTrochanteric bursitis、もしくはGreater Trochanteric Pain Syndromeと呼ばれ、一般的にそれほど珍しい病気ではありません。統計によれば、1,000人中5~6人が発症するとされ、特に女性や中高年の方に多く見られる傾向があります。

原因

原因は主に以下の2つに分けられます。

1. 活動レベルと生活習慣の影響 ランニングやサイクリングなどの運動を頻繁に行う場合、大転子滑液包に対する摩擦が増え、炎症を引き起こすリスクが高まります。また、肥満も大転子滑液包炎の発症に影響を与えます。体重の増加により、大転子滑液包にかかる負荷が増大し、炎症の原因となるためです。同じ動作を繰り返すスポーツや不健康な食生活を送る方は、発症リスクが高いため注意が必要です。

2. 姿勢の問題と身体的負荷 長時間の立ち仕事や歩行時に不良姿勢(体が傾く、猫背など)でいると、大転子滑液包に過剰なストレスがかかりやすくなります。特に、ランニングや散歩をしている際に体が左右どちらかに偏っている場合、滑液包に負荷がかかりやすくなり、痛みを引き起こす原因になります。

立ち仕事の増加や新たに運動を始めたことで股関節周辺に痛みを感じる場合、大転子滑液包にストレスがかかっている可能性が考えられます。

症状

症状としては、主に股関節の外側に痛みが現れます。この痛みは大腿部の外側に広がることもあり、大転子を押すと痛みが再現されるのが特徴です。発症初期は痛みが一箇所に集中していますが、進行するにつれて痛みの範囲が広がることがあります。
日常生活では、寝返りを打った際に痛みのある側を下にすると圧迫されて痛みが増すことがあります。また、椅子から立ち上がる時や車から降りる際、長時間座った後に立ち上がると痛みを感じやすくなります。さらに、長距離を歩くと途中で痛みが出ることが多く、特に階段の昇りで痛みが生じやすいです。股関節を自動的に外転(足を体の中心から外側へ動かす)や、他動的に内転(足を体の中心に近づける)させる動作でも痛みが増します。

治療

局所の安静や消炎鎮痛薬の使用、そして股関節周囲のストレッチが一般的な治療法です。日常生活に大きな支障が出るほど症状が強い場合や、早急にスポーツに復帰する必要がある場合は、ステロイド注射が選択されることもあります。また、理学療法も痛みの緩和に効果的なアプローチとして広く行われています。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

Q&A

Q1. 股関節の外側に痛みを感じるのはなぜですか?

股関節の外側に痛みを感じる場合、滑液包と呼ばれる部分に炎症が起きている可能性があります。この状態は、大転子滑液包炎として知られ、特に運動や過度な使用が原因となります。

Q2. 歩くときに股関節の外側が痛むのはどうしてですか?

歩行時に股関節の外側が痛むのは、滑液包が摩擦によって炎症を起こし、痛みが発生している可能性があります。長時間の運動や歩行が原因となることが多いです。

Q3. 大転子滑液包炎の主な原因は何ですか?

主な原因は、股関節周りの筋肉や腱の摩擦、過度な運動、長時間の座り仕事、そして加齢による変化です。姿勢や歩行の癖も影響します。

Q4. 大転子滑液包炎はどのように診断されますか?

大転子滑液包炎は、問診や触診、超音波検査、またはMRIによって診断されます。股関節外側の圧痛や炎症の有無が確認されます。

Q5. 大転子滑液包炎の治療にはどのような方法がありますか?

治療には、安静、アイシング、抗炎症薬の使用が効果的です。また、リハビリやストレッチ、場合によっては注射や手術が必要になることもあります。

Q6. 股関節の痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

セルフケアとしては、患部を冷やすことや、股関節に負担をかけないように安静にすることが有効です。また、軽いストレッチやマッサージも効果的です。

Q7. 大転子滑液包炎の予防にはどのような運動が効果的ですか?

予防には、股関節周りの筋肉を強化するエクササイズや、ストレッチが効果的です。特に柔軟性を高める運動が滑液包への負担を軽減します。

Q8. 大転子滑液包炎の痛みがひどくなった場合、どのタイミングで医師に相談すべきですか?

痛みが強くなり、日常生活に支障をきたす場合や、休んでも改善が見られない場合は、早めに医師に相談することが重要です。

Q9. 大転子滑液包炎のリハビリにはどのようなプログラムが有効ですか?

リハビリでは、股関節周辺の筋肉を鍛えるエクササイズや、ストレッチが中心となります。専門の理学療法士による指導のもとで、適切な運動を行うことが推奨されます。

Q10. 大転子滑液包炎の再発を防ぐためにはどんな生活習慣が必要ですか?

再発を防ぐためには、股関節に過度な負担をかけないようにし、定期的にストレッチや筋力トレーニングを行うことが大切です。また、長時間同じ姿勢を続けないようにしましょう。

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