股:変形性股関節症など

【70代:女性】介護負担により生じた5年前からの右下肢の激痛(大転子滑液包炎)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

5年前から右下肢の痛みがありました。夫の介護でベッドから車椅子への移乗の介助などをしている内に、痛みが生じてきました。階段を昇るときや重いものを持って体を捻ったときに強い痛みを感じるようになり整形外科を受診したところ、大転子滑液包炎と診断されました。また、以前から腰痛があり腰椎すべり症なども指摘されていましたが、しびれなどはありませんでした。ブロック注射など受けましたが、効果は一時的であり改善しないため、当院を受診されました。

診察時の所見

腰の可動域は比較的保たれていましたが、右側屈で中等度の制限を認めました。エコー検査では、大転子に一致して滑液包肥厚、骨表層不整を認めたほか、異常血流信号も散見されました。股関節にも中等度以下の変形性関節症の所見を認めました。レントゲンでも股関節に石灰沈着や関節腔の挟隙化などの変形性関節症の所見を認めたほか、腰椎側弯や腰椎すべり(L3)他の腰椎変形所見も認められました。以上より、右大転子滑液包炎、両側変形性股関節症、変形性腰椎症、腰椎すべり症と診断されました。疼痛の主たる原因は大転子滑液包炎でしたが、この際に腰痛を含めてすべて治療したいとのご希望があったため、腰椎レベル~股関節周囲に至るまで両側広範囲の治療(微細動脈塞栓術;運動器カテーテル治療)を受けていただきました。

治療の所見

左右複数個所の血管に対して治療しましたが、中でも大転子付近に広く灌流している外側大腿回旋動脈造影においてモヤモヤ血管(病的新生血管)が造影剤の濃染像として多数描出されました。非常に強い炎症を反映していると考えられました。変形性股関節症を合併している状態ですので、内側大腿回旋動脈や閉鎖動脈など他の部位においても一定のモヤモヤ血管が描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込357,500円〜434,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後翌日はなんとなく楽になったかな?という程度でしたが、2週間経つと急速に良くなりました。感じ得る最大の痛みを100とすると治療前は80に感じていましたが、10まで減りました。その後2か月はよい状態が続いていましたが、やはり介護で負担がかかるために痛みが再燃してきたことから追加で注射治療を行いました。これにより大転子の痛みはほとんど改善しましたが、元々の痛みとは異なるような、歩き出してしばらくすると生じる右下肢への坐骨神経痛を感じていました。注射がよく効くようになっているため、応急的に注射治療を行い、少しでも負担を減らしていただくために靴・インソールを適切なものにしていただくこと、十分な休養をとることなど指導のうえ様子をみているところです。滑液包炎は総じてカテーテル治療が非常に有効であり、他疾患に比べて早期から改善することがよく経験されます。本症例でも劇的に改善しましたが、それに加えて腰や股関節の疾患を合併しているため、またどうしても避けられない介護の負担があるため、特に腰部由来の坐骨神経痛が一定程度残っています。それぞれの疾患により、治療効果や再発リスクが異なりますし、個々の日常生活により経過は異なりますが、ご参考にしていただければと思います。

大転子滑液包炎の詳しい病状説明はこちら

 
 

関連記事