上腕二頭筋長頭腱炎

上腕二頭筋は、腕の前面にある「力こぶ」として知られる筋肉で、肘を曲げたり、腕を上げたりする際に使われます。この筋肉は「長頭」と「短頭」の2つに分かれ、腱として肩甲骨に付着しています。上腕二頭筋長頭腱は、上腕骨に巻き付くように走行し、結節間溝と横靭帯からなるトンネルを通ります。この構造により、上腕骨頭を関節窩に押さえつけ、肩関節の安定化にも貢献しています。
「上腕二頭筋長頭腱炎」とは、使い過ぎによって長頭腱とトンネル部分で摩擦が生じ、炎症が発生する状態です。長頭腱は結節間溝という狭い溝に位置しているため、摩擦の影響を受けやすく、炎症を起こしやすい部位です。この炎症は、力仕事をする方や、野球、テニス、バレーボールなどのオーバーヘッドスポーツをする人に多く見られます。また、上腕二頭筋長頭腱は日常的にストレスを受けているため、年齢とともに変性が進み、最悪の場合は断裂することもあります。

原因

上腕二頭筋長頭腱炎の主な原因は、仕事やスポーツにおける肩関節の使い過ぎ(オーバーユース)とされています。特に、野球の投球動作やバレーボールのスパイク動作など、肩関節に大きな負荷がかかる動作を繰り返すことで炎症が起こりやすくなります。
上腕二頭筋長頭は、肩甲骨の外側から水平に始まり、結節間溝で垂直方向に向きを変えるという特徴があります。このため、肩関節の動きによって上腕二頭筋は結節間溝で機械的な刺激を受けやすく、摩擦が生じやすい構造になっています。特に、肩関節を外転(体の横に腕を上げる)や外旋(肘を曲げて腕を外に捻る)する動作を繰り返すと、摩擦によって症状が発生しやすくなります。
さらに、姿勢不良などが加わると、上腕二頭筋がスムーズに機能せず、摩擦を強めてしまうこともあります。また、40歳以上になると、加齢による腱の変性が進みやすくなるため、発症頻度が特に高くなります。

症状

上腕二頭筋長頭腱炎は、肩に近い上腕部に影響を与える病態で、主な症状として肩の痛み、可動域の制限、筋力の低下などが挙げられます。

肩の痛み

肩の前部に痛みが生じ、特に腕を上げる際や重い物を持ち上げるときに痛みが増す傾向があります。症状が進行すると、夜間や安静時にも痛みを感じることがあり、腕全体に広がる痛みを伴うこともあります。

可動域の制限

腕の可動域が制限され、日常生活の動作が困難になることがあります。特に、髪を洗う、棚の上に物を置くといった腕を上げる動作がしづらくなるのが特徴です。また、上腕二頭筋近位部に不安定性がある場合、動作時にクリック音や破裂音が感じられることもあります。

筋力の低下

腕の筋力が低下し、物を持ち上げる力が弱くなったり、持ち上げる際に痛みを伴うことがあります。

違和感

腕を上げる動作時に、肩や上腕部にこわばりや引っ掛かり感などの違和感が生じる場合があります。さらに、寝ている間は肩が特定の位置に固定されるため、痛みや不快感が増すことも少なくありません。

慢性化に伴う症状

上腕二頭筋長頭腱炎が慢性化すると、持続的な痛みや運動制限が見られ、日常生活や仕事に支障をきたす可能性があるため、注意が必要です。

治療

早期回復のためには、超音波治療や電気治療などの物理療法を用いて炎症を抑えることが効果的です。また、徒手療法を行って患部にかかる負担を軽減することも重要です。その後、再発を防ぐために運動療法で機能改善や筋力強化を行います。痛みが強い場合や症状が長引いている場合は、痛みを軽減するために注射を行うこともあります。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

QA

Q1. 肩や腕の前側に痛みを感じる原因は何ですか?

肩や腕の前側に痛みを感じる場合、腕の筋肉や腱に炎症が生じている可能性があります。特に繰り返しの動作や過度な運動が原因になることがあります。

Q2. 肩を動かすと前腕に痛みが広がるのはなぜですか?

肩を動かした際に前腕に痛みが広がる場合、肩の筋肉や腱が炎症を起こしていることが考えられます。この状態では、動かすたびに痛みが出やすくなります。

Q3. 肩や腕に強い痛みが続く場合、どのような治療が必要ですか?

肩や腕に痛みが続く場合、リハビリや物理療法が効果的です。場合によっては、痛みを抑えるために薬物療法や注射が必要になることもあります。

Q4. スポーツや重い物を持ち上げる際に肩が痛むのはなぜですか?

スポーツや重い物を持ち上げる際に肩が痛むのは、肩の筋肉や腱に過度な負担がかかっているからです。無理な動作を避けることが予防に役立ちます。

Q5. 肩や腕の炎症を予防するためのストレッチ方法はありますか?

肩や腕の炎症を予防するためには、適度なストレッチが効果的です。腕を前後に回す運動や、肩周りをほぐすエクササイズを取り入れると良いでしょう。

Q6. 肩の痛みを感じたときに避けるべき動作は何ですか?

肩の痛みがある場合、無理に腕を上げたり重い物を持つことは避けましょう。痛みを悪化させる可能性があるため、専門医に相談することが重要です。

Q7. 肩や腕の痛みを緩和するためのセルフケアにはどんなものがありますか?

肩や腕の痛みを和らげるためには、アイシングや軽いストレッチが有効です。また、痛みがひどい場合は早めに専門医の診断を受けましょう。

Q8. 長時間のデスクワークが肩や腕に与える影響はありますか?

長時間のデスクワークは、肩や腕の筋肉に負担をかけ、炎症や痛みを引き起こすことがあります。定期的なストレッチや姿勢の改善が重要です。

Q9. 肩や腕の動きに違和感を感じたとき、どの科を受診すれば良いですか?

肩や腕の動きに違和感を感じる場合、整形外科やスポーツ医療の専門医を受診するのが適切です。早期の診断が症状の進行を防ぐことに役立ちます。

Q10. 肩や腕に痛みがあるときに行うべきリハビリの方法は?

肩や腕の痛みを軽減するためには、専門的なリハビリが効果的です。肩を無理なく動かすエクササイズや筋力トレーニングを専門家の指導のもとで行いましょう。

整体で治るものでしょうか?

整体やカイロプラクティックはおすすめはしません。理由は「症状の軽減はあるかもしれないが、症状を悪化させてしまう方も多い」からです。実は整体師やカイロプラクターと名乗る人たちが持っている資格は3ヶ月程度の受講でとれてしまう民間資格なのです。日本では、柔道整復師や鍼灸師、マッサージ師といった資格は国が指定する学校へ3年間ほぼ毎日通い国家試験に受かったものしか名乗れません。解剖生理などの知識が一定以上なければ危険であると国が判断しているということです。整体師やカイロプラクターは誰でも簡単に名乗れてしまうだけに、技術のレベルにとてもムラがあるのは想像がつくと思います。以上のことを踏まえると、カイロプラクティックや整体といったものを安易に選ぶのは少し考えものです。

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