臼蓋形成不全

臼蓋形成不全は、股関節の骨盤側にある「臼蓋(寛骨臼)」が浅く、球状の「大腿骨頭」を十分に覆えない状態を指す病気です。別名「寛骨臼形成不全」とも呼ばれます。この状態により、大腿骨頭にかかる負荷が大きくなり、股関節の痛みや変形性関節症を引き起こすことがあります。主な原因として、遺伝的要因や胎内での異常な胎位(逆子など)、乳児期に股関節や膝を伸ばしたままにする習慣が挙げられます。患者の約8割が女性であることも特徴です。

原因

股関節には体重の数倍の力がかかるため、骨頭を受け止める臼蓋の面積が狭いと、その小さな接触部分に大きな力が集中してしまいます。これが臼蓋形成不全の場合、負荷が偏りやすくなり、関節にダメージを与えることになります。通常、骨頭は80〜90%程度が臼蓋で覆われていると、関節のバランスが保たれます。しかし、思春期の活動量の増加や出産後の体重増加などにより、関節にかかる負荷が増えると、徐々に関節軟骨が損傷しやすくなり、これが進行すると変形性股関節症を引き起こすリスクが高まります。若い頃は軟骨が厚く維持されているため症状が現れにくいものの、徐々に軟骨の劣化が始まり、将来的には変形性股関節症を発症する可能性が高まるとされています。

症状

股関節の痛みは、30代から40代にかけて軽い症状として現れ始めることが多いです。初期の段階では、例えば股関節をひねるような動作をした際に痛みを感じる程度で、軟骨がまだ残っている間は大きな痛みを感じにくいかもしれません。しかし、軟骨が徐々にすり減り進行期に入ると、股関節の痛みが持続的になり、これがきっかけで病院の整形外科を受診する方が増えてきます。
末期になると、安静時でも痛みを感じ、脚の長さに差が出ることもあり、歩行時のバランスが悪くなります。患者の中には、初めは腰や背中、太ももに痛みを感じ、股関節が原因だとは思わないケースもあります。実際には、腰椎の変形や坐骨神経痛と診断されても、痛みが改善されないため、別の医療機関で診察を受けた結果、股関節の変形が原因だったということも少なくありません。専門医がレントゲンを確認すれば、軟骨が少なくなり、股関節の隙間が狭くなっていることが一目でわかります。

治療

臼蓋形成不全は、成長過程で自然に改善されることも多いですが、重症例では自然治癒せずに進行し、最終的には変形性股関節症などの股関節疾患へ発展するリスクがあります。治療法の一つに「ひも型装具」の装着がありますが、この治療法に対しては「必ずしも必要ではない」とする意見も存在します。臼蓋形成不全の治療の目的は、「変形性股関節症への進行を防ぐこと」です。軽度の臼蓋形成不全では、股関節が不安定になる傾向があるため、保存療法として股関節周囲の筋力トレーニングが推奨されることがあります。筋肉を鍛えることで、股関節を支える力を強化し、安定性を高めます。

一方で、重症の臼蓋形成不全では、変形性股関節症へ進行するリスクが高いため、場合によっては臼蓋を拡大する手術が必要とされることもあります。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

関節は一度傷つくと再生しないため、まずは負担を減らし、大切に使用することが重要です。特に、過体重(BMI値が25以上30未満)の場合は、ダイエットも検討しましょう。乳児は生まれつきO脚で、股をM字に開く姿勢が正常です。そのため、おくるみや厚手の衣類で股関節の動きを制限したり、O脚を直そうとして足をまっすぐに伸ばす、膝にタオルを巻くといった行為は股関節に悪影響を及ぼします。股関節を自由に動かせるようにしてあげることが大切です。また、抱っこするときは、脚が伸びた状態ではなく、股が自然に開いた「縦抱っこ(コアラ抱っこ)」を意識しましょう。横抱っこやスリングの使用は股関節を内側に閉じさせるため、股関節にとって最適な状態とはいえません。どうしても使用する場合は、股が開くように注意してください。

QA

Q1. 臼蓋形成不全とは何ですか?

臼蓋形成不全は、股関節の臼蓋(股関節を覆う部分)が十分に形成されておらず、関節が不安定になる状態を指します。この不安定さが、痛みや関節の問題を引き起こすことがあります。

Q2. 主な症状は何ですか?

主な症状には、股関節や腰に痛みが生じること、歩行時の違和感、股関節の可動域が制限されることなどがあります。特に運動時に症状が強く現れることが多いです。

Q3. どのように診断されますか?

臼蓋形成不全は、X線やMRIなどの画像診断を使用して確認されます。また、専門医による股関節の動きや症状の問診も重要です。

Q4. 治療にはどのような方法がありますか?

治療法には、まず物理療法やリハビリが行われ、痛みの軽減や股関節の安定化を図ります。重度の場合は、手術が検討されることもあります。

Q5. 痛みを和らげるためのセルフケア方法はありますか?

セルフケアとしては、股関節を柔軟に保つためのストレッチや、体重管理が痛みの軽減に役立ちます。股関節に負担をかけないように、適切な姿勢を保つことも重要です。

Q6. 臼蓋形成不全が進行するとどのようなリスクがありますか?

臼蓋形成不全が進行すると、変形性股関節症など、股関節の軟骨がすり減るリスクが高まります。早期の診断と治療が進行を防ぐ鍵となります。

Q7. 予防方法はありますか?

先天性の場合、予防は難しいですが、適切な運動や体重管理、股関節に負担をかけない生活習慣を維持することが、症状の悪化を防ぐために効果的です。

Q8. 臼蓋形成不全の治療に手術が必要になるのはどのような場合ですか?

手術が必要になるのは、股関節の痛みが日常生活に大きく影響を与え、リハビリや薬物療法では改善が見られない場合です。股関節の安定化を目的とした手術が行われます。

Q9. 治療後にリハビリは必要ですか?

手術後や治療後には、股関節の機能を回復させるためにリハビリが必要です。リハビリを通じて筋力を強化し、股関節の動きをスムーズに保つことが重要です。

Q10. 再発を防ぐためにはどのような生活習慣が有効ですか?

再発を防ぐためには、股関節に負担をかけないように適度な運動を行い、体重管理や姿勢の改善を心がけることが効果的です。無理をしない範囲で日常的にケアを行いましょう。

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