ドケルバン病

手や腕の使い過ぎや外傷によって、手首の腱に痛みや腫れが起こる疾患です。特に手首の親指側に発生する腱鞘炎は、ドケルバン腱鞘炎(De Quervain’s Tenosynovitis)と呼ばれます。腱を包み保護している「腱鞘」に炎症や痛みが生じるため、手首を回す、こぶしを握るなどの動作で痛みが現れます。この疾患は、ゴルフやテニスなどのスポーツ、パソコンやスマホの長時間使用、庭仕事、さらには赤ん坊を抱くといった日常的な反復動作によって引き起こされることが多いです。

原因

親指の使いすぎ:ドケルバン病の主要な原因

親指に過度な負荷をかけると、親指を伸ばすための腱(短母指伸筋腱)や広げるための腱(長母指外転筋腱)の表面が損傷し、腫れが生じます。同時に、それらの腱を覆う腱鞘も厚くなり、腱の通る道が狭くなるため、腱の滑りが悪くなります。この結果、親指や手首を使用するたびに炎症が広がり、腫れや痛みが増してしまう悪循環に陥ります。そのため、ドケルバン病は「狭窄性腱鞘炎」とも呼ばれます。近年では、スマートフォンを頻繁に使用する人々がこの病気にかかることが多く、「スマホ腱鞘炎」としても知られています。

女性ホルモンの変動が影響:プロゲステロンとエストロゲン

ドケルバン病は女性に多い疾患ですが、これは女性ホルモンの影響が関係しています。妊娠や出産の時期には、妊娠維持に必要なホルモン「プロゲステロン」が通常よりも多く分泌されます。このプロゲステロンには腱鞘を収縮させる作用があり、腱の滑りを悪くする原因の一つとされています。一方、更年期には「エストロゲン」(卵胞ホルモン)が減少します。エストロゲンは腱や関節を柔軟に保つ役割を果たしているため、その減少により腱や腱鞘が硬くなり、炎症を引き起こしやすくなります。

症状

ドケルバン病では、手首の親指側に痛みや熱感が生じるのが特徴です。特に、親指や手首を動かす際に症状が悪化しやすく、患部を押すと痛みがさらに強まります。以下の動作で症状が悪化することがよくあります。放置すると、手に力が入らなくなることもあります。

ドケルバン病の主な症状

  • 親指を広げる動作
  • 物をつかんだり握ったりする動作
  • タオルを絞る

治療

手首の痛みが軽度の場合、基本的には保存療法が推奨されます。湿布や塗り薬の処方に加えて、温熱療法で炎症を抑え、シーネやサポーターを使って患部を安静に保つことが重要です。痛みがそれほど強くなければ、急性期(痛みのある時期)でも前腕(肘から手首までの部分)のストレッチを行うことがあります。例えば、手のひらを立てた状態で、ゆっくりと左右に手首を倒したり、手のひらを上下に回す運動が効果的です。
回復期にはリハビリを通じて筋力トレーニングやストレッチを行い、元の可動域を取り戻していきます。もし保存療法で改善が見られない場合や痛みや腫れが続く場合は、靭帯性腱鞘に対して注射を行うことがあります。複数回の注射でも効果がない場合、手術が検討されます。ドケルバン病の手術では、局所麻酔下で問題となっている靭帯性腱鞘を切開し、腱を解放します。術後、指の動かしにくさが残る場合は、リハビリを積極的に行うことが重要です。

モヤモヤ血管と運動器カテーテル治療

近年注目されている治療法として、運動器カテーテル治療があります。この方法は、痛みを長引かせている微細な病的新生血管、通称「モヤモヤ血管」に直接アプローチすることで症状を改善します。モヤモヤ血管が発生するとなぜ痛みが生じるのかについてご説明します。損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより炎症が起きている部位には、その修復の過程で血管が増えます。痛みの原因部位にできてしまう異常な血管が、血管造影画像では、かすんでぼやけて見えるため、この新生血管をわかりやすいように“モヤモヤ血管”と呼んでいます。モヤモヤ血管は通常、出来ては消え、出来ては消え、ということを繰り返していますが、何らかの原因で消えなくなった病的新生血管のそばには病的な神経も増殖していることが分かっています。これらが痛み信号を発するほか、病的血流が増えることで局所の組織圧が高まることなどにより、五十肩や腰痛、膝の痛みなどの長引く痛みが引き起こされると考えられています。一般に、40歳以上になるとモヤモヤ血管を自然に減らす力が衰えてくるため、長引く痛みが生じやすくなります。微細な血管は通常の治療ではアクセスが難しい部位に存在します。運動器カテーテル治療では、これらの血管にカテーテルを用いて薬剤を直接注入し、炎症を抑えます。通常の治療で良くならない場合、あるいはとにかく早く楽になりたい方は、この治療法を検討されるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療のメリット

  • 有効性:薬剤を内側から直接患部に届けるため、高い有効性が期待できます。
  • 即効性:夜間痛・強い安静時痛については早期から改善します。
  • 安全性:ステロイドのような副作用がなく、長期的な使用が可能です。血管から作用させるのみであり、組織を傷つける心配がありません。
  • 低侵襲:負担の少ない治療であり、当日から治療後の特別な制限は不要です(日帰り手術)。小児~高齢者まで幅広く気軽に受けていただけます。
  • 効果の持続:治療効果が長期間持続するため、再発のリスクが低減されます。

予防

● 生活習慣の見直し
腱鞘炎を予防・改善するためには、スマホやパソコンの長時間使用を控えたり、スポーツで無理をしないことが重要です。特に症状が出ている場合は安静が必要なので、手首や指に負担がかかる動作を避けるよう心がけましょう。

● ストレッチ
腱のつながる筋肉をほぐし、関節の硬直を防ぐためには、ストレッチが効果的です。簡単にできるストレッチをご紹介します。

  1. 右肘を伸ばして腕を上げ、手の甲を前にして指先を下に向けます。左手を右手の手のひらに添えて、手前に引きます。
  2. 小指側を手前にひねるように引き、次に親指側を手前にひねるようにします。
  3. ひねりを加えずに正面に戻し、15〜30秒キープします。
  4. 反対の手も同様に行います。

ただし、炎症が強い時期にはストレッチを行うと症状が悪化する恐れがあります。症状が出ている場合は自己判断でストレッチをせず、医療機関を受診するようにしましょう。

● サポーターの活用
指や手首は日常生活で頻繁に動かす部分なので、安静にするのは難しいことがあります。そんな時にはサポーターを活用しましょう。手首や指を固定するサポーターは、関節への負担を軽減し、動作時の痛みを和らげてくれます。

QA

Q1. 親指の付け根や手首に痛みを感じるのはなぜですか?

親指の付け根や手首に痛みを感じる場合、手首の腱や腱鞘に炎症が起きている可能性があります。特に、親指を頻繁に使う作業が原因となることが多いです。

Q2. 親指を動かすと痛みが強くなるのはなぜですか?

親指を動かすときに痛みが増すのは、腱が腱鞘内で摩擦を引き起こしているためです。この状態は、炎症が原因で発生します。

Q3. 手首の腫れや痛みが続く場合、どのような治療法が有効ですか?

手首の腫れや痛みが続く場合、まずは安静にし、冷却やサポーターの使用が効果的です。痛みが引かない場合は、専門医の診察を受けてください。

Q4. ドケルバン病の初期症状を和らげるためにはどうすれば良いですか?

ドケルバン病の初期症状には、親指や手首の安静が必要です。過度の使用を避け、アイシングや手首のサポートを行うことで、症状を和らげることができます。

Q5. 手首や親指を使う仕事で痛みがある場合、どのように対処すれば良いですか?

手首や親指を使う作業で痛みがある場合、休息を取ることが大切です。サポーターを使い、炎症を抑えるために冷やすことが推奨されます。

Q6. ドケルバン病の症状が長引く場合、手術は必要ですか?

症状が長引く場合、非手術的な治療が効果的でない場合には、手術が検討されることがあります。まずは専門医の診察を受け、適切な治療法を選択しましょう。

Q7. 手首の痛みを予防するための日常ケアはありますか?

手首の痛みを予防するためには、日常的なストレッチや無理のない動作が効果的です。作業の合間に休憩を取り、手首をリラックスさせることが大切です。

Q8. 親指の付け根に痛みや腫れがある場合、どのタイミングで医師に相談すべきですか?

親指の付け根に痛みや腫れが続く場合、症状が悪化する前に専門医に相談することが重要です。早期診断が、症状の進行を防ぐことに役立ちます。

Q9. ドケルバン病の治療にはどのようなリハビリが効果的ですか?

リハビリでは、親指と手首の可動域を改善するためのストレッチや筋力強化が行われます。専門家の指導のもとで行うことで、効果的に回復が期待できます。

Q10. ドケルバン病の再発を防ぐためにはどんな工夫が必要ですか?

再発を防ぐためには、親指や手首を無理に使わないこと、適切なサポートを行うことが大切です。また、適度なストレッチや休息を日常的に取り入れることが効果的です。

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