股:変形性股関節症など 【40代:男性】安静にしても治らなかった、ランニングが原因の鼠径部痛(グロインペイン症候群) 2025.01.28 鴨井院長による動画解説 受診までの経過 きっかけはランニングでした。月に200-300kmほど走っていましたが、8ヶ月前から右鼠径部に痛みを生じるようになりました。動き始めや脚を挙げた時などに痛むほか、柔らかい椅子に腰を下ろしたときにも痛みが出ていました。ランニングを半年ほど休んでみましたが改善しませんでした。CT検査やMRI検査でも異常はなく、気持ちの問題ではないかと言われたりして、不安から不眠にもなっていました。 診察時の所見 腰や股関節の動作に問題はありませんでした。レントゲンでは恥骨結合が軽度開大しており、恥骨結合のやや右側において圧痛を認めました。前医のMRI検査画像を拝見すると、左仙腸関節障害が疑われましたが、身体所見上は仙腸関節障害の症状は出ていないものと判断されました。特徴的な症状と併せて、グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)と診断しました。微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)のよい適応であり、治療を受けていただきました。 治療の所見 血管造影を行うと、内側大腿回旋動脈、閉鎖動脈にてモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。グロインペイン症候群では、このようにほとんどの症例でモヤモヤ血管を描出することができます。治療後は画像上速やかに消失しました。その他複数箇所の血管治療を行い終了しました。 治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管 治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態 治療費用:税込324,500円 主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。 治療後の経過 治療後1ヶ月まではまだ大きく変化はありませんでした。特に動き始めの痛みが変わらず不安を感じていました。治療後1ヶ月半、症状を感じる頻度が少なくなってきました。初動負荷トレーニングをしていることをお聞きし、グロインペイン症候群にとっては悪影響を及ぼす可能性があるため、しっかりと改善するまでは控えていただくようお話しました。その後回復に向かい、治療後2ヶ月を過ぎる頃にはしっかりと改善を実感できるようになりました。痛みの質も、以前は鈍い痛みに感じていましたが、痛痒いような感覚に変わってきました。治療後3ヶ月を過ぎた頃、ある日突然治りました。それ以降痛みは消失し、15分程度、2㎞くらい走っても大丈夫でした。階段を120段ほど上がっても大丈夫でした(階段昇降は負担が大きいため、避けていただいた方がよいことは改めてお話しました)。その後も順調に経過し、治療後6ヶ月経過しても痛みは無く、少しずつ走る距離も増やせています。グロインペイン症候群治療後の特徴としては、他疾患と比較すると改善するのに時間を要することがある、比較的再発リスクが高いためしっかり治るまでは一定期間の安静が重要ということが挙げられます。カテーテル治療後の特徴として、しばらく変わらなくてある日を境に突然改善する、改善後は長期に亘り良い状態を維持できることが挙げられます。本症例もまさにこれらに該当していました。 鼠径部痛(グロインペイン症候群)はこちら 【40代:女性】4年に亘るステロイド注射で治らなかったテニス肘~運動器カテーテル治療+動脈注射療法~(テニス肘、ソフトボール、草取り、運動器カテーテル治療、動脈注射療法) 前の記事 【70代:男性】キャッスルマン病患者に生じた新型コロナウイルスワクチン接種後の肩関節周囲炎(SIRVA、キャッスルマン病、肩関節周囲炎) 次の記事