【40代:男性】視床下部異常にSIRVAを合併した左肩痛の難治症例（視床下部異常、SIRVA、新型コロナウイルスワクチン接種後遺症）

３ヶ月前に新型コロナウイルスワクチン接種（４回目、二価ワクチン）を受けました。当日から左腕が動きにくくなり、翌日には発熱も伴いました。１日で解熱し、肩の痛みも１週間ほどで一旦おさまりましたが動かしにくさは残っていました。しばらくして（２ヶ月前）、肩に鋭い痛みを感じるようになったため、かかりつけ医を受診して相談したところ、元々の持病のために敏感になっているためではないかと言われ、様子を見ていました。ところが、その後大きく悪化したため、厚生労働省のホームページに記載してある通りにかかりつけ医を受診後、総合病院に紹介されました。MRI検査の結果、肩関節周囲炎と診断され指示に従いストレッチをしていましたが、さらに悪化してきたため当院を受診されました。持病ですが、２年前から疲労が痛みや発熱として認識されるようになり、大学病院で精査を受けた結果、未解明の病気であり視床下部の異常だと言われていました。どこがと言うことはよくわらかないが痛いと感じるとのことでした。そのため、トラマドール（鎮痛薬）を常時使用していました。

左肩関節は、痛みの他に一定の可動域制限（外転９０度、外旋３０度他、反対の方に手を回せないなど）を伴っており、エコー検査では滑液包水腫や異常血流信号の増強を認める一方で腱板損傷などの明らかな組織損傷は認められませんでした。MRI検査の結果からも肩関節周囲炎は確定的であり、臨床経過と併せて新型コロナウイルスワクチン接種後遺症であるSIRVAと考えるのが妥当でしたが、視床下部異常という特殊な背景を抱えていました。
治療効果に懸念がありましたが、身体診察にて特段の疼痛過敏はみられないことから通常どおりの治療効果が期待できると判断し微細動脈塞栓術（運動器カテーテル治療）を受けていただきました。

痛みのカテーテル治療では、まず手首に皮下麻酔をした後にシースという長さ7cmほどの血管への入り口の管を血管内に挿入し、それを通してカテーテルという細長い管を進めて治療していきます。その際に、血管の強烈な攣縮が起きて前腕の痛みや不快感を感じることなどが稀に発生しますが、本症例では、シース挿入後に血管攣縮が起きていないにもかかわらず前腕の強い不快感を生じ、自律神経の反射（迷走神経反射）から収縮期血圧（上の血圧）が70mmHgを下回るショックバイタルとなりました。直ちに注射による対応を行い、100mmHgまで回復し以後は安定しましたが、こうした過剰な反応は視床下部異常と言われている持病と何らかの因果関係があったものと思われました。起こった事象は想定内のことであり、終始意識は声明で呼吸状態も安定しており問題はありませんでした。こうした反応は通常一過性のものですので、十分安定していることを確認したうえで治療を再開しました。血管造影では、肩甲上動脈、胸肩峰動脈、前上腕回旋動脈の各血管でモヤモヤ血管（病的新生血管）が濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。

治療後２週間、手首の穿刺部の痛みが少し残っていましたが、当日よりは大幅に改善し、左肩の痛みは夜間痛も含めて改善してきていました。痛みの改善に伴い、元々あった筋緊張性頭痛もとれたと喜んでおられました。治療後１ヶ月半、咄嗟に動かしたときには痛むことがあるものの日常生活ではほぼ痛むことは無くなり、睡眠がとれるようになったことで集中力も回復しました。手首の痛みは完治しました。可動域も大幅に改善し、反対の方に手を回すことができるようになったほか、外転１６０度、外旋６０度まで回復しました。非常に経過良好であり残存症状は自然軽快が期待できることからご相談の結果終診となりました。半年後の追跡調査時には、可動域もほぼ回復し（少し硬いかなという程度）、痛みは治療前の0.1/10程度で、日常生活では全く問題なく過ごせているとのことでした。
視床下部異常という未解明の持病を抱えておられるところに、SIRVAという強い肩関節周囲炎を生じた病態で、医療機関としても大変頭を悩ませる難しい状態でしたが予想以上に急回復されて本当に良かったです。これまでも、希少疾患合併の方の痛み治療を多く手掛けてきていますが、都度慎重に覚悟をもって臨んでいます。お役に立てて安堵いたしました。本症例をご覧になった方の中には、カテーテル治療時の痛みやリスクについて懸念を持たれた方もおられると思いますが、血管内治療専門医として常日頃あらゆる事象を想定しており、何らかのトラブルが発生した場合には、適切な判断の下、速やかに対応しますので安心してお任せいただければと思います。