腰:椎間関節炎など

【70代:男性】帯状疱疹後に急激に悪化した坐骨神経痛(坐骨神経痛、帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、腰椎ヘルニア、腰椎神経根症)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

5年前から腰痛、右坐骨神経痛がありました(臀部~大腿の痛み)。5ヶ月前に帯状疱疹に罹患してから症状が増悪し、下腿外側や足首まで痛みが広がりました。その際は、右内腿にポツポツと発疹ができ、皮膚科で治療を受けましたが、発疹が治った後も痛みが続いていました。痛みは強弱あるものの常にあり、触れたり擦れたりしても痛みはないものの、神経が侵されているような『ズキズキギューッ』とした痛みがあり、入浴で楽になるもののすぐに戻ってしまう状態でした。うつの合併はなく、睡眠や食事はとれていました。一方、座ってじっとしていると楽ですが、動くと痛みが増すためゴルフもできなくなっていました。MRIでは腰椎に大きな異常はなく、ペインクリニックでは帯状疱疹後神経痛と言われました。湿布を貼ると多少楽にはなるものの、鎮痛薬の内服はあまり効果がなく、当院を受診されました。

診察時の所見

患部において皮膚症状は皆無であり、アロディニアも認められませんでした。一方、身体診察では坐骨神経痛のほか仙腸関節障害なども疑われました。レントゲンでは、年齢からすると腰椎は良く保たれている一方で、股関節周囲の臼蓋や大腿骨大転子の骨変形などが目立ち、仙腸関節も開大していました。腰臀部に負担がかかり続けてきたことは明らかでした。
明らかな右坐骨神経痛症状を生じていて帯状疱疹による症状の悪化があることから神経炎の合併が疑われるところですが、元々一定の症状があったことから、腰椎椎間孔狭窄を含めた坐骨神経痛を引き起こす病態、仙腸関節障害などが帯状疱疹罹患により間接的に悪化した状態である可能性も考えられました。少なくとも強い神経炎の合併は否定的であり、帯状疱疹罹患による原疾患の増悪、帯状疱疹後神経痛の合併などによる複合的要因による病状だと判断しました。強い神経障害の改善には一定の限界があることもご理解いただいたうえで微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を行いました。

治療の所見

症状は右側のみであり、右側のみ腰椎レベル~股関節周囲レベル、内腿までの広範囲治療を行いました。仙腸関節近傍に分布する血管、股関節周囲の血管などで再現痛が認められましたが、特に右閉鎖動脈で軽度、右外側大腿回旋動脈造影では、中等度以上のモヤモヤ血管(病的新生血管)が造影剤の濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします。

治療後の経過

治療後1週間くらいは楽だったものの、その後痛みが出てきて2週間時点ではまだまだ痛みが残っていました。しかし、階段昇降の後などにみられていた我慢できないほどの痛みは改善しました。治療後1ヶ月を過ぎた頃から楽になってきて、7割程度の痛みが改善しました(3/10)。『30日前は本当に効くのかなと思っていたが、楽になってきて嬉しい』と言われました。調子のよい時は2000歩以上歩けるようにもなりました。治療後3ヶ月、長く歩くと痛みが出るものの、3000歩くらい歩けるようになりました。その後冬を迎えてしびれが増すこともあったものの、治療後5ヶ月では、7000歩/日歩けるようになりました。娘様も大変驚かれたそうです。元々帯状疱疹後神経痛のご相談であったのですが、いつの間にかその種の痛みの訴えはなくなり、歩行時の痛み、いわゆる跛行症状が主となってきました。しかし、その後4000歩/日くらいが限界となり、それ以上歩くとしびれてきて足をひきずるようになるとのことであったため、改めてMRI評価を行うこととしました。結果、L5/S椎間板ヘルニアによる右椎間孔の高度狭窄を認めましたが、その他脊柱管狭窄などは認められませんでした。外科手術によりさらなる改善が期待できますが、一方で日常生活にそれほどの支障はなく、ある程度の歩行もできています。ご本人としては外科手術を希望されず、引き続き運動療法や追加のカテーテル治療により対処していきたいとのことでした。現状であれば、まだまだ保存的治療にて改善が期待できますので、引き続き加療予定です。まだまだ完治というわけではありませんが、当初のほとんど歩けずゴルフにも行けず、出不精になってきてしまったという状態からは大幅に改善されました。帯状疱疹の直接の関与がどこまであったのかは測りかねますが、少なくとも帯状疱疹を機に病状が急激に悪化したことは事実です。帯状疱疹後に生じた坐骨神経障害や、元々の坐骨神経障害の増悪などが考えられましたが、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)によく反応しました。このような、帯状疱疹後に急激に悪化した坐骨神経痛にはカテーテル治療が有効ですので、お悩みの方はご参考にしていただければと思います。

坐骨神経痛・帯状疱疹後神経痛の詳しい病状説明はこちら

 

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