その他:帯状疱疹後など

【60代:女性】画像検査では全く異常のない、抗がん剤治療後に生じた非典型的な肋間神経痛(抗がん剤治療後、肋間神経痛、手術創部痛、首こり)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

1年5ヶ月前から背中に筋肉を引っ張られるような激痛を生じるようになりました。他にも痛みは多岐にわたり、右上腕~脇、前胸部および腹部、肩甲骨下縁から下の背中の部位でしたが、いずれもすべて右側でした。それらの半年前には子宮頸がん摘出後の後療法として、3ヶ月以上に亘り抗がん剤治療を受けていたのでその影響があったのかもしれません。血液検査、エコー、CT、MRI、PET検査などで徹底的に検査をしましたが、特に異常所見はなく、脊椎由来の肋間神経痛と言われました。プレガバリンなどの鎮痛薬を処方されるも効果がありませんでした。四六時中痛いため、毎日のように整骨院に通い、マッサージとハイボルテージ治療を受けましたが、そのときだけは楽になるものの痛みが改善しないため当院にご相談いただきました。

診察時の所見

最も強い背部の痛みは、肩甲骨下角よりもさらに4肋間下部まで及ぶなど非常に広範囲でした。前述のように、胸部や腹部、右上腕や脇にも痛みがありましたが、その分布から、肋間神経痛としては明らかに非典型的でした。こうした広範囲の痛みを伴う場合、重症の首こりが関係していることが少なくありません。案の定、高度の首こりを合併しており、首が回らない状態でした。一方、レントゲンでは頸椎や肩関節に明らかな異常所見はありませんでした。頸椎症は否定的でした。非典型的な肋間神経痛および、右側に偏った重症の首肩こり、また腹部については手術創部遺残痛と判断し、右半身の広範囲治療を行いました。抗がん剤の後遺障害が懸念されるものの、マッサージやハイボルテージ治療により一時的な緩和が得られることから治療の有効性が期待されました。

治療の所見

首こりの主要責任血管である深頸動脈の血管造影を行うと、モヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として豊富に描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。続いて、右上腕~脇、右前胸部および腹部の治療を行いました。最後に、背部の肋間神経痛の治療として、肋間動脈の治療を行いました。それぞれ、薬液投与時に明確な再現痛を認めました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後2週間ではまだ全く変化はありませんでした。治療後1ヶ月、右首こりがかなり改善し、回るようになりました。しかし、他部位についてはまだ変化がありませんでした。治療後2ヶ月、大きくは変わらないものの、痛くない時間ができるようになりました。座っている時間が長くなると胸が痛くなりました。首の症状は良い状態を維持できていました。治療後3ヶ月、当初から比べると3割程度改善されました。ちょっと動いただけでも休まなければいけなかったのが、緩和されました。夜も以前よりは眠れるようになりました。治療後4ヶ月、一番痛い時でも当初の半分程度と、概ね症状は半分以下になってきました。四六時中痛かったのが、痛みが弱い時間帯が増えてきました。新幹線の乗車中、以前は背中に何かを当てていないと辛かったのが当てなくても大丈夫になりました。診察では、疼痛範囲が明らかに狭くなり、圧痛が激減していました。急速に改善してきている印象でした。その後もある程度順調に過ごせるようになり、比較的強い痛みが出た時でも湿布を貼ることでおさまるようになりました。歩いたほうが楽に感じられました。治療後7ヶ月、戻ったりはしないものの、残った痛みがまだとれずにいました。範囲としては、脇、および右肩甲骨下縁と右第12肋骨下縁の近傍にある程度限局されてきました。抗がん剤治療後の複雑な痛みであり一筋縄にはいきませんが、首こりの治療が奏功したことにより、疲労感の回復や、睡眠の質の向上などにつながり、全身における過敏性も改善してきたことで、痛みの質や範囲は大幅に軽減されてきました。まだまだ不快感が残っているものの、半分以下になれば相当楽に感じられますので最初の治療目標としては達成できたかと思います。今後、残存症状のさらなる改善を目指して追加治療など検討中です。本症例のように、直接の作用ではなくても首こりの治療は症状改善の突破口となることがあります。

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