鴨井院長による動画解説
受診までの経過
1年前から両肩および腕に痛みを感じていましたが、7ヶ月前に4回目の新型コロナウイルスワクチン接種をした後、寝られないほどの強い痛みが生じ、両手首が腫れて、その1ヶ月後には両足首や両膝まで痛みを生じるようになりました。歩くのにも支障をきたすようになり、歩けないことで筋力まで低下してきました。新型コロナウイルスワクチンについては、接種後に毎回痛みを感じていましたが、4回目接種後はそれまでとは全く次元の異なる痛みでした。多関節に痛みが生じているため、複数の医療機関で関節リウマチや膠原病の検査も受けましたが、特に異常は無く原因不明と言われました。1年の経過でも治らないため当院を受診されました。
診察時の所見
両肩とも高度可動域制限を認めました(外転90度、外旋30度のほか、反対の肩に手を回せない、後方ではお尻に手を触れるのがやっとなど)。首もすべての動きで高度可動域制限を認めました。レントゲンでは中等度の頸椎変形がありましたが、両肩関節とも異常はありませんでした。エコー検査では、上腕二頭筋長頭腱水腫、三角筋下滑液包水腫の他、肩甲下筋腱や棘上筋腱の腫脹を認め、前方にはモヤモヤ血管を反映した異常血流信号が著明に認められました。有痛性腱板損傷、SIRVA(ワクチン接種後の肩の痛み)なども考えられましたが、いずれにせよ非常に強い肩関節周囲炎をきたしている状態でした。手首にも同様に強い炎症所見を認めたほか、両膝、両足首の痛みもあるなど多関節炎の様相を呈しており、やはりリウマチ・膠原病が疑われました(ワクチン接種の副反応によるものも含めて)が、これまで再三の検査で否定されていることから、まずは症状改善のため、最も痛みの強い上肢の微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を行うことといたしました。尚、下半身まで同時に治療することは困難であるため、膝や足首については後日加療しました。また、リウマチ・膠原病検査も再検しました。
治療の所見
まず、頸部の治療から始めました。元々、一定の頸椎症のほか比較的重症の首こりもあり後頸部には石灰も認められましたが、(深頸動脈造影にて、)同部位近傍に一致してモヤモヤ血管(病的新生血管)が造影剤の濃染像として描出されました。肩関節では、胸肩峰動脈造影にて腱板疎部にモヤモヤ血管が、手関節では骨間動脈造影にてモヤモヤ血管がそれぞれ豊富に描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。日を改めて、両膝・両足首の治療を行いました。膝関節では変形はほとんどない一方で強い炎症が起こっており、強い炎症を反映して、下行膝動脈、内側下膝動脈、外側下膝動脈などでモヤモヤ血管が描出されました。足関節の変形もほとんどありませんでしたが、やはり、前脛骨動脈、腓骨動脈、後脛骨動脈の各血管造影において、足首近傍にモヤモヤ血管が著明に描出されました。同様に治療後は画像上速やかに消失しました。
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療直後から症状は劇的に改善し、2週間時点で、肩関節の痛みはほぼ消失して夜も寝られるようになりました。何か月も寝られない日々が続いていたので、本当に嬉しいと大変喜ばれました。可動域も改善し、万歳もできるようになりました。手首の痛みも大幅に軽減しましたが、まだ少し残っていました。2ヶ月ほどしてから、前述のように両膝・両足首の治療を行いました。治療後2週間では、まだ大きく変わりませんでしたが、1ヶ月半に近づく頃には大幅に改善しました。杖なしで歩けるようになったほか、階段昇降がスムーズにできるようになりました。初回の首肩および手首の治療からは4ヶ月経過していますが、特に再発することなく順調に経過しています。尚、血液検査の再検では、CRP値2.28mg/dlと軽度の上昇を認めたほかは、リウマチ因子、抗核抗体、MMP-3値なども含めて一切異常値は認められませんでした。そのため、現時点ではステロイドや免疫抑制剤などの投薬は行わず様子をみていますが、CRP値も徐々に低下してきています。ワクチン接種後の自己免疫疾患の報告なども少なからずありますが、そうした事象であった可能性が考えられます。本症例では、リウマチ性多発筋痛症などの可能性も考えられます。引き続き慎重にフォローアップしていく予定です。確定診断に至っていない状況では、安易にステロイド治療に踏み切れない場合がありますが、強い炎症に対しては、モヤモヤ血管の治療は驚くほど効果的です。まず、痛みをコントロールするという点では非常に有効だと言えるでしょう。