その他:帯状疱疹後など

【40代:男性】10年間苦しんだ単純ヘルペス感染および帯状疱疹後の神経痛(感染症後遺症、単純ヘルペスウイルス感染)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

10年前からの左後頭部の刺すような痛みに始まり、左内耳、左背中の肩甲骨近傍、左肘に痛みが拡がったほか、舌痛まで伴うようになりました。痛痒くて掻くのですが、身体の深部で疼痛が起きているため掻いても疼痛が解消されず、夜眠れないのを繰り返して精神的に参っていました。舌は常にドックンドックンと脈動感があるような感じで、発作的に喋ることができない程の激しく刺すような痛みが2-3分生じることがありました。これらの神経痛の原因精査のため、これまで神経の圧迫を疑い、首や脳のMRIをそれぞれ2回ずつ別々の大きな病院で撮りましたが、主たる原因はわかりませんでした。そのため最終的に鎮痛剤の処方に終始されるのですが、根治治療にならないこと、効果が実感できないこと、鎮痛剤を一生飲み続けた場合の副作用の懸念から通院は止めていました。また、因果関係は不明ですが、最近では頻尿も患い、1日に十数回トイレに行くようになりました。左上半身の疼く痛みに加えて頻尿も合併し不眠に悩まされていました。一連の神経痛に対してカテーテル治療が有効かどうかご相談いただきました。

既往
・単純ヘルペスウイルス感染症;幼少期~、顔・腕・手・足のいずれかに、年6回~10回生じる。
・帯状疱疹;15歳頃
・アトピー性皮膚炎;幼少期~、全身に見られる。
・気管支喘息;幼少期~成人まで
・アレルギー性鼻炎・結膜炎;幼少期~現在
・脂質異常;2年前~
・鬱病;9年前~

診察時の所見

大きく分けて以下の3つの要素が絡んでいる状態でした。
①免疫機能の不調(反復性の単純ヘルペスや帯状疱疹の罹患歴)
②炎症体質(アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎/結膜炎・気管支喘息・脂質異常)
③知覚に対する過敏性亢進(下行抑制機能の低下;鬱病・不眠)
②についてはモヤモヤ血管(病的新生血管)ができやすい、③については慢性痛が治りにくい条件として理解されます。
そうしたことを念頭に置いて診察しました。首や肩の可動域制限はなく、こりの程度はエコー画像や身体診察からも中等度であり、やはり典型的なこりとは異なることが原因であると思われました。特徴的な症状の性質やその成り立ちと併せて、微細動脈塞栓術(モヤモヤ血管治療)による一定の症状の改善が期待できる一方、疼痛閾値低下による治療抵抗要因のために改善に時間を要する可能性があること、さらに舌痛については無効である可能性があることなどを十分ご理解いただいたうえで運動器カテーテル治療を受けていただきました。

治療の所見

頸部(深頸動脈造影)および後頭部(後頭動脈造影)において病的新生血管(モヤモヤ血管)が造影剤の濃染像(stain)として描出されました。一方、顔面動脈や舌動脈では異常所見は認められませんでした。その他、内耳の痛み、肩甲骨周囲などの治療を行い終了しました。

治療後の経過

治療当日から改善しました。背中と肩の痛みは無くなりました。後頭部もずいぶん良くなり、チクチクする痛みは無くなりました。毎日痒くて掻いていましたがそれもほぼ改善しました。舌に関しては、発作的に喋ることができないほどの激しく刺すような痛みは良くなりましたが、脈動する感覚は残っていました。よく寝られるようにもなりました。当日から改善し、2週間時点まで良い状態を維持できていることが確認できました。治療後1ヶ月半、後頭部と背中の痛みは完全に消失したままでした。首の痛みや舌の脈動感は残っていました。2ヶ月を過ぎる頃から首の痛みもだいぶ改善してきました。月に1回程度の注射加療を行い、治療後4ヶ月頃首の付け根の痛みがほとんど気にならなくなりました。5ヶ月になると、舌以外の痛みは消失しましたが、舌の中腹や先端ではなく、奥の両側が痛いとのことでした。一部の症状は改善したものの舌についてはやはり一定の症状が残っていました。膀胱症状など今回の治療対象外の部位については、今後ご希望に応じて治療する予定となっています。

疼痛閾値の低下にもかかわらず、当初想定していた以上に非常に早期から劇的に症状が改善しました。身体がウイルスと戦った結果として生じたモヤモヤ血管(病的新生血管)が居つくことにより多くの不調をきたしていましたが、治療のメカニズムが非常に合致していたのだと思います。この方の場合、特に反復性のウイルス感染症後ですので、かえってよく奏功した可能性があります。単純な帯状疱疹後神経痛に対する治療後の場合は、このように早期から劇的に改善するという経過となることは少ないですので、おそらく反復性の単純ヘルペスウイルス感染の影響が大きかったのではないかと推察されます。感染症後の慢性疼痛の治療後は、このように早期から改善するということを少なからず経験します。頭部や顔面というのはカテーテル治療専門医においても更に専門性の高い領域ではありますが、明らかな炎症状態に対する微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療、モヤモヤ血管治療)というのは非常に有効な治療方法です。

帯状疱疹後神経痛の詳しい病状説明はこちら

 
 

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