SIRVA:コロナウイルスワクチン接種後の疼痛

【70代:男性】新型コロナウイルスワクチン接種後に発症したRS3PE症候群による両肩関節の激痛(RS3PE症候群、肩関節周囲炎、滑膜炎、リウマチ・膠原病)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

8ヶ月前に5回目の新型コロナウイルスワクチンおよびインフルエンザワクチン接種を受けました。2週間後ゴルフをした翌日から異変を感じるようになりました。全身のふしぶしに痛みを感じるとともに、歩行速度が落ちてきて、ラジオ体操やストレッチがスムーズにできなくなり、息切れもするようになりました。起床後数時間は全身が固まる他、腕の付け根には激痛が走り、手の甲や足は大きく腫れました。当初はマッサージや整骨院に行ったりしていましたが、改善しないため整形外科を受診したところ、レントゲンで異常はなく鎮痛薬にて様子を見るよう言われました。その後、知人の関節リウマチの症状に似ていると思い、膠原病・リウマチ専門の医師にかかったところ、最終的にRS3PE症候群と診断されました。
その後数種類の鎮痛剤の他、ステロイド治療が始まりましたが、着替えや起き上がるなどの動作が困難であるほか、夜間痛に酷く悩まされていました。入浴で体が温まると緩和されました。半年治療を続けているものの、症状が持続するため、こうした痛みについてもモヤモヤ血管治療の適応があるのかどうかとういことで、当院にご相談いただきました。

*RS3PE症候群とは、Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema(自然に良くなる傾向のある、圧痕を伴う浮腫を伴う血清反応陰性の対称性滑膜炎)の頭文字より名付けられた疾患で、1985年にMcCartyらにより提唱された病気です。比較的稀な疾患(50歳以上の0.09%)ですが、予後良好な疾患であり、リウマチ性多発筋痛症や関節リウマチと鑑別する必要があります。通常、リウマチ性多発筋痛症のように筋肉痛が主体ではなく、関節リウマチのように骨びらんや関節破壊は伴いません。

診察時の所見

全体的に右側の痛みの方が強く、右側は重症の肩こりも伴っていました。肩関節の可動域は、水平内旋動作(前方から反対の肩に手を回すような動き)のみ障害されていました。前医での造影剤を用いた特殊なMRI検査(Dynamic MRI)では、両肩関節に著明な炎症像を認めました。Dyanamic MRIでは、造影剤が血管に流れていく様子を経時的に観察することが可能ですが、動脈相(早期相)よりも少し時間が経過した静脈相(遅延相)において両側肩関節に一致して右肩優位に高信号域を認めています。これは、正にモヤモヤ血管を非侵襲的に捉えたものであり、治療適応の判断としては、申し分ない結果が示されました。エコー検査でもそうした強い炎症を反映して、腱板腫脹や部分断裂とともに、腱板周囲の異常血流信号を多数認めました。RS3PE症候群に起因する強い両側肩関節周囲炎と判断し、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。

治療の所見

血管造影を行うと、烏口枝、前上腕回旋動脈、肩甲回旋動脈等にモヤモヤ血管(病的新生血管)が造影剤の濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。右肩こりの血管(頸横動脈)も同様です。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療翌日から楽になりました。右肩関節の奥の痛みは残っているものの、動かしやすくなりました。左肩や左上肢はさらに改善していました。治療後1ヶ月を過ぎる頃には、95%の痛みは消失しました。併せてCRP値も正常化してきました。ステロイドは既に半年間以上服用しており、急に増量したわけでもないので、症状の改善は明らかにカテーテル治療によるものですが、相乗効果によりCRP値も正常化してきたのかもしれません。カテーテル治療は広範囲の治療ができるとは言え、あくまでも局所治療ですので、この結果により全身の炎症を反映するCRP値が下がってくるというのは大変興味深いところです。リウマチ関連疾患へのカテーテル治療の有効性は明らかですが、疼痛コントロールだけではなく、ステロイドの使用量を減らすことができる可能性もあります。そうであれば、ステロイドの副作用の負担を減らすことができ、患者にとってはより多くの恩恵が得られることになります。今後明らかにされてくることと思います。右肩の痛みが少し残っている他、手指のこわばりや、巧緻機能障害(おはし、歯ブラシ、ゴルフでのティーアップ動作など)が残存していました。巧緻機能障害については肩関節周囲炎とは直接の因果関係は考えにくく、原疾患による症状の一つと思われますが、手指を標的とした微細動脈塞栓術も併せて行っていたため、もうしばらく経過観察をすることとしました。治療後2ヶ月、左肩は完治しました。右肩の痛みはまだ少し残っていましたが、ステロイドは9mg→8mg/dayに減量されました(当該主治医判断)。治療後3ヶ月、肩関節の可動域は完全に回復し、ゴルフにも行けるようになりました。終わった後に痛くなることはあるものの、プレー中は問題ありませんでした。巧緻機能障害も緩和されてきました。エコー検査でも異常血流信号は散見される程度で大幅に減少していました。経過良好であり、一旦終診としました。その後、服の着脱時などに以前とは異なる部位に右肩の痛みが生じることはあるものの、精査したところ腱板損傷による一定程度の症状再燃にとどまっており、概ね順調に経過されています。今回のことがワクチン接種と関係していたのかどうかは不明ですが、ワクチンとは免疫に作用するものであり、膠原病は免疫の不具合により生じるものであることを考えると全く無関係ではないかもしれません。突然全身の不調をきたし、大変な思いをされましたが、ステロイドを主体とした全身の抗炎症治療と、運動器カテーテル治療による局所的鎮痛治療とを組み合わせることで劇的に症状を改善させることができました。今後、ステロイドの減量および中止を目指して引き続き膠原病科を通院される予定です。

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