SIRVA:コロナウイルスワクチン接種後の疼痛

【50代:女性】新型コロナウイルスワクチン接種後に肩の痛み(SIRVA)と、全筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群及び線維筋痛症の合併症例

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

手指の第2関節と膝に元々痛みを感じていました。コロナウイルスワクチン2回目接種後から、接種した左肩に痛みを生じました。しばらくしたら消えると思っていましたが、1ヶ月以上経っても緩和されず、むしろ痛みの範囲が広くなり、さらに左肩関節の可動域が著しく狭くなり脇を開きにくくなりました。それとともに、急速に痛みを伴う部位が首、鎖骨、肘、足の付け根、踵に広がりました。ほとんどの関節が痛むようになったため、膠原病リウマチ内科で診てもらいましたが、赤血球沈降速度(赤沈、血沈)等の炎症の値は異常を認めたものの、レントゲンや手指のエコー検査などでは異常がなく、関節リウマチその他の膠原病は否定されました。カロナール、ロキソニン、ボルタレンなどの痛み止めを服用しましたが、効果がなく、トアラセット(トラムセット)を服用していました。しかし、いっこうに改善せず、立ち上がりや歩行時に関節痛や筋肉痛を伴ったり、夜間寝返りの際の痛みのために熟睡できなかったり、起床時にこわばりのため起き上がるのに時間がかかり、日中も倦怠感を伴う日々が続いていました。半年経過したころ、除外診断により筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)及び線維筋痛症(FM)との診断を受けました。トアラセットで様子を見る方針となり、休職しました。以前からひどい肩こりがあるほか、首の痛みや左側の顔のこり及び痛み、腰痛(腰椎圧迫骨折あり)で苦しんでいたので、すべての痛みがワクチン接種と直接関係していると思ってはいないけれども、左肩の症状はワクチン接種後から継続して痛みが生じていること、明らかに全身の様々な痛み増悪の引き金になったことから、ワクチン接種後遺症としてモヤモヤ血管治療の適応があるのではないかと思い当院にご相談されました。一連の経過より、ワクチン接種による副反応、および元々の慢性炎症がワクチン接種により賦活化されているような状態である可能性が考えられました。モヤモヤ血管(病的新生血管)の関与は明らかですが、前医でも指摘されたように脳における疼痛閾値が低下した、いわゆる疼痛過敏状態も合併した複雑かつ難治の状態であることが示唆されました。こうした場合、一筋縄にはいきませんが、突破口を見つけて治療により実際に痛みが明確に改善することが過敏状態の改善にもつながりますので、その可能性を探るため受診していただきました。

(まとめ)
・右顔の顎関節症やこわばりあり。膝から痛くなり始めた。
・ワクチン接種後2週間ほどしてから、左肩関節の症状が生じてきた。以後、可動域制限や疼痛が増悪。
・顔首肩鎖骨肘腰足の付け根膝踵など症状が多岐にわたる
・関節リウマチや膠原病は否定されているが、赤沈など一部の検査が陽性
・特発性慢性蕁麻疹治療中
・筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群及び線維筋痛症と診断されている
・第一腰椎圧迫骨折の既往あり。

診察時の所見

運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)はあくまでも局所療法ですが、血管の分布に沿って広範囲の治療を行えるとはいえ、最初から全身の全ての部位に治療することはできません。治療の優先順位を判断して計画していくこととなりますが、顔首肩は同時に治療が可能です。特に首肩の全身に与える影響は大きいですので、これらの治療により下半身の症状が変化することもあります。そこで、まず上半身の精査加療を行っていくこととしました。
首は左回旋で高度の可動域制限が、左肩は外転90度、外旋30度のほか内旋も高度に制限されていました。肩こりの程度は中等度~高度でした。首肩の複数箇所で圧痛を認めました。レントゲンでは頸椎・肩関節とも大きな異常は認められませんでした。エコー検査では左肩関節において異常血流増生などの炎症所見を認めた一方で、腱板などに明らかな組織損傷は認められませんでした。頸椎症などは否定的であり、いわゆる頸肩腕症候群(首肩こり)および右顎関節症(及び顔こり)、ワクチン接種後の左肩関節周囲炎であるSIRVAと診断しました。治療により痛みの他、可動域やこり・こわばり・倦怠感の改善が期待できることから、カテーテル治療(微細動脈塞栓術)をうけていただくこととしました。

治療の所見

頸部、肩甲骨周囲、左肩関節、右顔面の各領域において治療を行いました。写真は、左深頸動脈造影や右顔面動脈造影において造影剤の濃染像として描出されたモヤモヤ血管を示しています。治療後は画像上速やかに消失しました。広範囲の治療を1時間ほどで終えました。

治療後の経過

治療後1週間で右顎の皮膚の性状が左顎の皮膚と同様の状態に改善しました。治療前はざらざらしていたのがつるつるになりました。以前、親知らずを抜いてからサメ肌のような肌になっていたのですが、そうした皮膚感が改善しました。右顎関節症も同時に改善し、かえって(治療前はそれほど気にしていなかった)左顎関節が少し気になるくらいになりました。治療後3週間の再診時には、左肩関節の可動域も少し改善していました(外転120度)。左肩こりの感覚がよくわかるようになり、押したときの痛みに対する反応が前よりも鋭敏になりました。これは好転反応だととらえています。重症のこりがあると、どこが悪いかもよくわからず広い範囲で強い不快感があったり、あるいは感覚がないと言われたりする場合がありますが、カテーテル治療後に改善してくると、痛みの性質や範囲が識別できるようになっていきます。さらに、この時点で両肘の痛みは半減し、両手のしびれは消失していました。治療後1ヶ月半、左肩関節の可動域は大幅に改善したものの、肩こりはまだまだ残っていました。一方、右股関節と右膝の痛み、腰痛が気になるため同部位に対する治療をご希望されました。腰痛は20年前に転倒による腰椎圧迫骨折をしてから長年悩んでいる症状でしたが、右股関節や右膝の痛みはワクチン接種後からの痛みでした。詳細は割愛しますが、同様にカテーテル治療を受けていただき、3週間ほどで腰や鼠径部のきつい痛みがとれて、さらに股関節の痛みもとれ、1ヶ月半時点ではお尻にも力を入れられるようになり、以前はよちよち歩きのようにしか歩けなかったのが、平地を普通に歩けるようになったと大変喜ばれました。その後しばらく様子をみていましたが、最初に治療をした首肩の痛みについて、ずいぶん痛みの強さは弱くなっているもののまだ残っていること、顎の付け根の痛みがおさまらず最初のようなカクカクではないがミシミシということなどより、ご相談の結果、治療後4ヶ月半の時点で顔首肩に対する2回目の運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)を行うことといたしました。今回は左側の頭部や顔面の治療もご希望により併せて行いました。このとき、前回治療した際に多量にモヤモヤ血管が確認された深頸動脈造影を行いましたが、大幅に減少していました。余談ですが、こうしたことから、4ヶ月半経っても初回の治療効果が持続できていることがわかります。初回治療部位および左頭顔部位の治療を滞りなく終えました。追加治療の効果は明瞭であり、1ヶ月後には、『全体的に鎧を着ているような感覚だったのが、パーツパーツが離れて動かせるような感覚となった』と言われました。2回目治療後2ヶ月時点で顎がミシミシいうことは無くなり(ある日を境に急に良くなったそうです)、その後完全に顎の痛みは無くなりました。まだ体調により症状の動揺はありますが、生活がずいぶん楽になっているとのことです。重症度が高く、症状が広範で多岐にわたり、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)及び線維筋痛症(FM)という難治の診断が下された大変な状態でしたが、突破口を切り開き、何とかここまでたどり着くことができました。ご本人が言われるようにすべてが直接的な原因ではないにせよ、ワクチン接種をきっかけにここまでの状態になってしまうことがあるという恐ろしさを改めて思い知らされた一方で、尚も救うことはできるということを再確認できた症例でした。

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