肩:肩こり・四十肩・五十肩

【50代:女性】複数の診療科での診察にもかかわらず、中々診断がつかなかった両肩の痛み(両側五十肩、凍結肩)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

半年前、肩に筋肉痛のような違和感がありましたが、その際は新しいリュックを使用したからと考え使用中止として様子をみていました。しばらくすると腕を伸ばしたときに肩の痛みと二の腕の重だるさを感じるようになりました。ちょうどその頃、健康診断で心雑音を指摘され循環器内科受診したところ、甲状腺機能亢進症が判明しました。受診の際に肩と腕の痛みを主訴として伝えましたが、甲状腺機能亢進症による関節痛、筋肉痛の可能性があるとのことで経過観察となりました。内服治療により2ヶ月ほどで甲状腺ホルモン値は正常値となりましたが、安静時痛も多くなるなど肩と腕の痛みはむしろ悪化しました。同じ病院の脳神経内科を紹介され頸椎MRI検査を受けましたが、ストレートネックと言われ姿勢改善のアドバイスを受けたのみでした。さらに1ヶ月経過すると増々痛みが悪くなったため同病院の整形外科でレントゲン検査を受けましたが異常はありませんでした。肩関節周囲炎として鎮痛剤(セレコキシブ、ロキソニンテープ)の処方にて様子を見るよう言われました。自身では更年期の肩こりなのかとも考え、婦人科クリニックを受診しましたが肩や腕の痛みとは無関係であると言われました。整形外科受診後1ヶ月の再診時に痛みが治らないことを伝えると、セレコキシブからカロナールに薬が変更となりましたがむしろ痛みが悪化しました。これまで投薬治療のみであったため、リハビリをすすめられて近隣の整形外科へ紹介となりました。紹介先の整形外科では、投薬(ロルカム、ミオナール)とリハビリ治療が開始され自宅でできるストレッチもアドバイスしてもらいました。治るのに数年かかることもあるので気長に取り組むよう言われました。一方、整骨院にも通い電気治療やリハビリをそこでも行いましたが、可動域がいよいよ悪くなってきたためか毎回辛い激痛に襲われました。さらに1ヶ月、つまり当院受診1ヶ月前ですが、夜間痛で眠れなくなり、寝る前の薬(モービック、テルネリン)を処方してもらいました。しかし、朝までは効かないためリクライニングソファで座って寝るようにしていました。寝起きに石になったような硬さと肩から指先までジンジンするようなしびれる痛みがあること、半年以上の経過で痛みの範囲が拡がっていること、日中よりも夜間と寝起きが特に辛いということなどを主訴として当院にご相談されました。

診察時の所見

両肩とも高度の可動域制限があり、外転動作は水平以下、反対の肩に手を回すことができず後ろに手を回す動作もお尻まで届くのがやっとでした。一方、首の可動域制限はみられず、片頭痛はあるものの首肩こりの自覚症状・他覚症状ともありませんでした。エコー検査では上腕二頭筋長頭腱水腫や周囲異常血流信号を認めた一方で、腱板などの明らかな組織損傷は認められませんでした。レントゲンでも肩関節に異常はありませんでした。肩関節周囲炎を起こしていることは明らかであり、各種検査および診察、特徴的な臨床経過(夜間痛・可動域制限・症状の経時的な変化)から両側の五十肩と診断しました。特に左側の重症度が高く、腕や手の症状も肩関節由来のものと判断しました。五十肩はモヤモヤ血管(病的新生血管)に対する運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)の良い適応ですので、治療を受けていただきました。

治療の所見

左右とも随所にモヤモヤ血管が造影剤の濃染像として描出されましたが、重症度を反映して右肩関節に比べると左肩関節の血管造影においてより鮮明にモヤモヤ血管が認められました。描出されるモヤモヤ血管の程度というのは、痛みの強さや重症度と必ずしも比例しているわけではありませんが、同じ個体の中で比べるとそうした傾向があります。また、薬液投与時の再現痛も悪いところほど強く感じる傾向があります。治療後モヤモヤ血管は、画像上速やかに消失しました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

前述のようにそれまではソファーで座って寝ていましたが、治療当日から身体を横にして寝られるようになりました。治療後2週間で痛みの8割は改善しました(2/10程度)。可動域制限はまだ残っていましたが徐々に改善してきていました。あまりにも良くなるので魔法の治療のようだと言われました。治療後1ヶ月半、痛みはほぼ消失しました。可動域もだいぶ改善し、つり革にもつかまることができるようになりました。治療後3ヶ月、日常生活では全く支障はなく、可動域も後ろに手を回す動作で軽度の制限が残っているものの、9割5分以上治ったとのことでした(0.5/10)。僅かに残っている症状についても自然軽快が見込まれましたので、終診としました。

当初から症状について医療機関に相談し、循環器内科、脳神経内科、整形外科と受診してそれぞれ異なる病名を告げられたうえ、十分な治療を受けられていませんでした。自身で探した整骨院では、無理な動きを強いられて逆に痛みが強くなってしまっていました。両側同時なので五十肩ではないのかなと思っていたところ、当院で五十肩と診断しましたので、これまでは何だったのかと拍子抜けされ、本当に五十肩なのですかと何度か聞き直されました。当院では全く迷いなく診断に至りましたが、五十肩は経時的に変化する病気ですので、数か月~半年前時点では医師によってはわかりにくかったのかもしれません。大変な思いをされてきたわけですが、これだけ苦労されても、治る時はあっけなく治ります。運動器カテーテル治療からしてみると、五十肩とは本来そうした疾患であり治療すれば間違いなく治ると言えます。とは言え、予想を上回る速度で快復されました。この方の場合、結果的に医療機関に振り回されてきたにもかかわらず、恨む気持ちや怒りなどをお持ちになっていなかったことも早期の快復につながったのではないかと思います。慢性痛と心理的状態は密接に関係していますが、ご本人にとっては大変理不尽に思われたような経過であっても、心を乱さずある程度冷静な気持ちでおられたことがかえって自分を助けることとなった印象に残る一例でもありました。五十肩は適切に治療すれば治ると言える疾患です。同じ思いをする方を少しでも減らせるよう、引き続き適切な形で治療の認知を広げる努力をしてまいりたいと思います。

五十肩の詳しい病状説明はこちら

 
 

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