鴨井院長による動画解説
受診までの経過
6年前に右側の頭部・顔面に帯状疱疹を発症し、酷い痛みのため2ヶ月ほど入院しました。最初は頭の上から下まで蟻がはっているような、水が垂れるような感覚があり、10日ほどして、口から『つむじ』あたりまで右顔面全体に発疹が一気に出現しました。腫脹や水疱がかなり激しく出血も伴いました。洗顔をするたびにポタポタと血が滴り落ちるほどでした。
これまで感じたことのないような過去最強の痛みで、虫歯の治療を顔半分に亘りされているような感覚でした。頭の中で血管が切れるような音がブチっと鳴ったためMRIも撮りましたが異常はありませんでした。抗ウイルス薬治療、ブロック注射、鎮痛剤(リリカ225mg/日、トラムセット2錠/日、デュロキセチン20mg/日)を受け、当初よりは痛みが半分くらいになりました。しかしながら、頭の中にかなりの痛みが残っているほか、髪の毛に少し触れても電気が走るような痛みがありました。普段はチクチクと痛み、天気が悪いとズキーンとし、針が刺さっているように感じるときもありました。入浴で温まると楽になり、サウナに入った後水風呂に入ると痛みが無くなるため(サウナ中は痛いが水風呂に入ると消える)、よく3セットくらい繰り返していました。睡眠導入剤を使用することで夜は眠れており、鬱の合併はありませんでした。6年経過しており、もう治らないと諦めてはいたものの、何割かでも楽になればと願い当院を受診されました。
診察時の所見
疼痛部位は右側の頭頂部・前頭部・側頭部、眼窩部周囲~鼻で、特に痛むのは前頭部~鼻でした。顔の出血は発症から3-4年は毎日、その後は週に2回くらいの頻度で、タオルで顔を拭くと溜まっていたものが出てくるようにドバっと滴り落ちていましたが、鼻の近傍には今でも月に1-2回ほど出血が見られるとのことでした。診断は帯状疱疹後神経痛ですが、長期経過でも出血が見られるというのは極めて稀な所見です。激しい免疫応答の結果、壊死性組織が形成されていることが強く示唆されました。当初の発疹や免疫反応は非常に激しく、診察時点でも比較的強めの一定の炎症が存在していることは明白でしたので、治療の有効性には確信がありましたが、1年以上経過していることより無効の可能性があることもご説明しご理解いただいたうえで、モヤモヤ血管(病的新生血管)に対する運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)を受けていただきました。
治療の所見
血管造影を行うと、顎動脈にてモヤモヤ血管が濃染像として描出されました。顎という名前が付いていますが、ここからはたくさんの血管が分枝しており、手前では下顎領域や歯、中間部では頬(頬筋)や咬筋・側頭筋など、遠位部では鼻腔や副鼻腔、歯や口蓋(いわゆる上あご)などに灌流します。出血部位の責任血管と考えられました。治療後モヤモヤ血管は画像上速やかに消失しました。再現痛も明瞭でした。頭部についてはモヤモヤ血管が強く描出されることは稀ですが、浅側頭動脈は血管全体が非常によく発達していました。炎症に伴い発達したものと捉えられます。その他複数箇所の治療を行い終了しました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします。
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:治療する部位によって費用が異なりますのでこちらをご参照ください。
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療当日、いくぶんか楽に感じましたが一旦戻りました。治療後2週間、天気が悪い時やストレスが重なると痛みがひどくなっていたのですが、そうした強い痛みが2-3割軽減しました。顔面からじわっと出る出血は治療後起こっていませんでした。治療を受けること自体や、治療効果に不安を感じていましたが、この時点でも受けて良かったと思えると言われました。治療後1ヶ月、眉より上に関しては、針で刺されるような痛みが半減しました。以前は、風が当たると目を開けていられないくらい痛かったのですが、仕事場で外に出ていて風が吹いてもそういったことは無くなり、目を開けていられるようになりました。出血は一度も見られず経過していました。治療後2ヶ月、全体的に治療前の半分くらいの症状が改善しましたが、目の周りだけはあまり変わりがありませんでした。治療後3ヶ月、症状は横ばいでしたがぶり返すことはなく、結局、治療後は一度も出血することがありませんでした。明確に改善し、当初のご希望からは満足できる結果だと言われました。病態からすると、まだまだ追加治療による改善の余地がかなりありますので、今後ご希望に応じて追加治療を承る予定です(当院としてはぜひお受けいただきたいと思っています)。一方、目の周囲はあまり変わっていないということでしたが、これには理由があります。実は、瞼や目の上を主として灌流するのは眼窩上動脈ですが、この血管は内頸動脈という脳に向かう血管から分岐する眼動脈の枝ですので、非常に高いリスクがあり、治療ができないのです。このことは予めご説明いたしておりましたので、経過もその通りだと納得されていました。
帯状疱疹後神経痛はこれまでも多数ご紹介してきましたが、非常に稀な症候でしたので詳細に取り上げました。モヤモヤ血管に対するカテーテル治療は強い炎症ほど良く効きますが、6年以上経過した帯状疱疹後神経痛という難治の痛みでもこれほどの効果が得られました。諦めずに治療を受けていただき本当に良かったと思います。



