その他:帯状疱疹後など

【60代:男性】15年前のバイク事故の後遺症により悩まされた耳の痛み

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

15年前にバイクで転倒して頭を打ち、その後めまいや耳の閉塞感がするようになりました。6-7年前からは耳の奥に鈍い痛みを感じるようになりました。症状は波があり、特に左側の方がより強く痛みを感じていました。耳鼻科で精査を受けましたが、特に異常はないと言われ精神科を紹介されました。うつではありませんが、不安神経症の診断で通院していました(サインバルタを処方)。こりやこわばりは耳の痛みほど不快に感じてはいないが、通常程度の首肩こりはあるとのことでした。

診察時の所見

首の可動域をチェックするとすべての動作で中等度以上の制限があり、触診による首肩こりの程度も中等度以上と判断されました。睡眠習慣を確認すると、AM3:00-9:00の6時間ということであり症状改善の大きな障害になっていることが懸念されました。インターネットをよく使うようになることで、だんだんと就寝時間が遅くなっていったようです。耳の痛みについては治療により改善するかどうか不明でしたが、首肩こりについてはかなり改善の余地があり治療効果が期待されたため、以上をよくご理解いただいたうえで微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。

治療の所見

まず両側頸部の血管造影および治療を行いましたが、予想どおり多量のモヤモヤ血管(病的新生血管)が描出されました。続いて耳の治療に入りました。写真㉔に示すように、この近傍では顎動脈、浅側頭動脈、後頭動脈という大きな血管に枝分かれしていきますが、これらの分岐部の近くに耳に関係する小さな血管があります。いくつかの血管の治療を行いましたが、後耳介動脈造影では早期静脈描出という病的新生血管の存在が示唆される所見を認めました。簡単に言うと、血管の映り始めから動脈だけでなく静脈が映ってくるというものです。モヤモヤ血管(病的新生血管)は動静脈瘻と言う動脈と静脈を直接つなげてしまう通り道を作ってしまう性質がありますが、早期静脈描出という所見はこれらの存在を示唆します。通常、血液は動脈から毛細血管を通り組織に酸素や栄養を渡した後に、静脈やリンパ管を通り心臓に戻ってくるわけですが、動静脈瘻が存在するところでは動脈から静脈にいきなり流れてしまうのです。せっかく血液が流れていっても、全く仕事をせずに還ってくるというわけです。こうしたことから、早期静脈描出というのは異常所見の一つとして捉えられます。治療後はこうした異常交通が無くなりますから、右の写真のように本来の正常な血管がよく描出されるようになります。薬液投与時には、普段の痛みの部位に一致して再現痛を感じていました。症状に関わる血管の治療ができたことを確認して治療を終了しました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円〜357,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後3週間、耳の閉塞感やめまいは変わらないものの、肩こりはかなり改善しほとんど感じないくらいになりました。『実は、以前に首肩こりの専門医療機関にもかかっていて治らなかったのだがかなり良くなった』と言われました。さらに1ヶ月、引き続き首肩こりについては楽になっているものの後頭部のこりがまだ残っていました。同部位も治療は行っていたため、注射を追加してもうしばらく様子をみることとしましたが、注射後その症状は消失しました。治療後4ヶ月、耳の奥に時々襲ってきていた痛みがこなくなったことを確認できました。以前は痛い日を手帳に控えていたのですが、カテーテル治療後は一度も痛むことがなくなりました。首肩こりは無くなり、後頭部のこりも無くなりました。一方、耳の閉塞感やめまいについては改善は見られませんでした。全ての症状が改善するには至りませんでしたが、ご本人としては、耳の閉塞感やめまいが首肩こり由来ではないということが分かったし、耳の痛みがとれたことは良かったと言われました。残る症状については、睡眠習慣の改善、十分な水分摂取、適度な運動、負担の軽減などを続けていただき改善を期待したいと思います。外傷後遺症は様々なパターンがありますが、微細動脈塞栓術による一定の改善効果が得られることが分かっています。中々他に治療方法がなく苦しんでおられる方が多いと思いますが、ご参考にしていただければと思います。当院では引き続き難しいとされる痛みの治療にも取り組んでまいります。

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