足:アキレス腱炎、足底筋膜炎、踵骨棘など

【60代:男性】10cmの歩幅でしか歩けなくなったほどの両側アキレス腱に生じた激痛 (アキレス腱周囲炎、歩行困難)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

2年前に缶を踏んだ際に右アキレス腱を痛めました。3ヶ月のリハビリで一旦治りましたが、1年前に階段を降りていた際に再度痛めました。同じくリハビリに通いましたが、今度は逆に悪化してしまいました。4ヶ月前には前傾姿勢で右足を踏ん張った際に今までで一番の激痛がありました。その後1週間すると、左アキレス腱まで痛むようになりました。リハビリに通うこともできなくなり、病院で注射を受けましたが効きませんでした。その後さらに悪化し、少しストレッチをするだけでも激痛が走り、小さな歩幅で歩くのも痛くなり足首も腫れました。踵とアキレス腱の付着部と踵全体から足裏のあたりがズキッとしました。ご相談いただいた折には、10cmの歩幅でしか歩くことができず車椅子で受診するかもしれないとのことでした。2ヶ月前から急激に歩容が悪化していました。

診察時の所見

前医のMRI検査ではアキレス腱周囲には異常を指摘されませんでした。
アキレス腱の圧痛は軽度で、把握痛も目立ちませんでした。診察中にも、触診と無関係にズキッと走るような痛みを自覚されていました。レントゲンでは、アキレス腱の踵骨付着部を含めて明らかな異常所見はありませんでした。エコー検査では、アキレス腱実質は保たれていましたが、周囲組織が高エコー(白く描出)かつ荒廃した印象がありました。滑液包水腫を軽度認めました。短軸観察ではアキレス腱踵骨付着部近傍で腫脹を認めましたが、軽度でした。診断としてはアキレス腱周囲炎に該当しますが、非典型的でした。一定の炎症がある一方で、痛覚変調性疼痛(以前の心因性疼痛)の要素があり一筋縄にはいかない印象でした。当院の見解として、『微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)のみでからっと良くなるような状態ではない。炎症を鎮め、運動療法も組み合わせ、さらに下行抑制系機能低下を改善(過敏さを改善)させていかなければならない状態。一方、このように重篤化したのはまだ2ヶ月以内であり、早期治療が望ましく、早い方が治療が奏功する可能性が高い。』ことをお伝えし、かかりつけの総合病院の見解もふまえたうえで治療を検討することとなりました。最終的に、総合病院担当医からも、カテーテル治療について反対はしないし、同治療により改善している方のことも耳にしていると言われ運動器カテーテル治療を決断されました。

治療の所見

血管造影では、Key vesselである後脛骨動脈、腓骨動脈ともに明らかな異常所見は認められませんでした。本症例に限らず、アキレス腱周囲炎ではモヤモヤ血管は目立たないことが多いです。20分ほどで両側の治療を終えました。

治療後の経過

治療後翌朝には、『アキレス腱付着部を中心として内踝(くるぶし)から外踝(くるぶし)まであった痛み』が全くなくなっていました。平地で15cm程度の歩幅から歩行訓練を開始し、2週間後には靴のサイズを少し超える程度の歩幅まで広げて歩けるようになりました。まだ、傾斜がある場所や、絨毯などの柔らかいものの上を歩くのは不安がありました。訓練後には右足に鈍痛が起き、両足とも時々アキレス腱付着部にチクリとした弱い痛みや、軽めのズキンとした痛みが起きることがありますが、翌朝には解消していました。激痛や腫れることは無くなりました。診察時にも、歩容は劇的に改善しており、松葉杖も使用せず入室されたほどでした。治療後1ヶ月で歩幅は35cmに回復、左足はほぼ不自由無くなりました。治療後2ヶ月、日常生活でも全く松葉杖を使用しておらず、起伏のあるところも歩けるようになりました。エコー検査では、術前に軽度みられていたアキレス腱腫脹が改善していました。治療後2ヶ月半、歩幅は55cmにまで回復し、平常時の痛みは9割減少(1/10程度)、痛みが出た時でも8割方減少(2/10程度)しました。屋外歩行の恐怖感も減りました。治療後4ヶ月、整形外科でのリハビリ通院も終了となりました。まだ屋外を歩くときに痛みが出ることはあるものの順調に経過されています。残存症状については種々の追加治療選択肢もありますが、本人の希望でしばらく整骨院に通うこととなりました。

歩行困難に陥るほどのアキレス腱の痛みの割に、炎症所見は乏しいという非典型的な慢性疼痛でした。痛覚変調性疼痛も疑われる状態でした。明らかに難治の状態であり、前医でも手の施しようがなくリハビリするしかないと言われていました。モヤモヤ血管治療後も回復には相応の時間を要するものと思われましたが、予想外に劇的に改善されました。寝たきりにもなりかねない状態でしたので、本当に良かったと思います。このような状態に陥ってからまだ2ヶ月ほどでしたので、よく効いてくれたのだと考えられます。重篤な状態はとにかく長引かせない、こじらせないことが重要ですが、思い切って治療を決断されてなによりでした。まだ全ての症状がとれているわけではありませんが、ここまでくれば安心できます。引き続き運動理学療法にて改善することを祈念いたしております。

アキレス腱炎の詳しい病状説明はこちら

 
 

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