股:変形性股関節症など

【50代:男性】15年以上経過した特発性大腿骨頭壊死症に対するモヤモヤ血管治療(特発性大腿骨頭壊死症、骨頭穿孔術後)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

15年前に左股関節における特発性大腿骨頭壊死症C-2(人工関節適応レベル)と診断されました。当初、骨頭穿孔術を受けて痛みは感じなくなっていました。以後、総合病院への通院を続けていましたが、変形の程度は大きく変わらず(本人申告)、股関節の痛み自体もそれほど強くなかったため、外科手術はしなくてもよいかと判断され様子観察となっていました。しかし、近年、鈍痛を感じたり、足の付け根に限らず大腿前面にピリッとした痛みが走るようになったりすることから、炎症性の痛みではないかと思い当院を受診されました。特に増悪してきたのは7ヶ月前からでした。痺れはありませんでした。

診察時の所見

杖歩行にて入室されましたが、歩容も不安定でした。左股関節の動作を確認すると、内旋は問題なく可能で、外旋で中等度以下の制限を認めたものの、ある程度保たれている状態でした。それぞれ疼痛が誘発され、鼠径部における圧痛も明瞭でした。レントゲンでは、骨頭壊死による高度変形をきたしている一方で、関節裂隙は非常に狭小化しているものの、何とか関節面が保たれていました(実際には多方向から確認)。これまで外科手術を受けずに長年経過してこられたことを裏付ける様子でした。(前医の)MRI検査画像では、大腿骨頭の変形や壊死所見を認めたほか、周囲に水も溜まり著しい炎症を伴っていることがわかりました(拡散強調画像にてMRI高信号(白く描出))。骨病変に比し、関節周囲に強い炎症所見を伴っていることから微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)による改善が期待できると判断し治療を受けていただきました。

治療の所見

血管造影を行うと、大腿骨頭の内側(骨頭~小転子近傍;内側大腿回旋動脈より)、外側(大転子近傍;外側大腿回旋動脈より)においてそれぞれモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。少し上の、大腿骨頭内側部~寛骨臼では閉鎖動脈造影にて、股関節上部では上殿動脈股関節枝にてモヤモヤ血管が描出されました。強い広範囲の炎症を反映して、複数箇所の血管にてモヤモヤ血管が確認されました。それぞれ、治療後は画像上速やかに消失しました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後3日くらいから改善してきて、3週間後には7割方の症状は改善しました。歩容も劇的に改善しました。治療後1ヶ月半、9割方の痛みは無くなりました。その後、運動をすると症状が出てくるものの歩容は保たれています。著しく変形をきたしており、将来的には追加の外科的処置は必要ですが、当面は一定の状態を維持できることが期待されます。血液データでは非常に大きな異常値があり、一見してアルコール性肝障害が疑われる状態でした。おそらく、大腿骨頭壊死の原因であったものと推察されますが、これまで種々の医療機関で指摘および指導を受けているようでした。ご本人も理解しており、かかりつけ医とも引き続きよくご相談いただくようお話しました。特発性大腿骨頭壊死症に伴う股関節痛の症例でした。微細動脈塞栓術は炎症に対しては非常に有効な治療方法です。より早期に治療を受けていただく方が望ましいですが、骨壊死だからと諦めず、治療選択肢の一つとしてご検討いただくとよいかと思います。

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