鴨井院長による動画解説
受診までの経過
10年前より、臀部~会陰部に時々弱い痛みを感じており、泌尿器科を受診したところ、慢性前立腺炎と診断され、以後内服治療などを受けてきました。2年前から仕事のストレスから睡眠障害をきたすようになり、症状が増悪しました。半年前からは会陰部痛が特に強くなりました。肛門痛も合併していました。思い返せば、その頃よく自転車に乗っていて、その際の直接の刺激により悪化したかもしれないとのことでした。また、飲酒をすると悪化、灼熱感を感じることもありました。一方、排尿とは特に因果関係はありませんでした。
診察時の所見
既に慢性前立腺炎と診断されていましたが、治療適応を探る目的で、造影MRI検査を行いました。結果、前立腺腫大は目立たなかったものの、dynamic造影にて早期相から移行域・辺縁域とも全体に強く濃染されました。慢性の経過ですが、急性の前立腺炎を疑うほどの状態でした。微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)の有効性が高いと判断されましたので、同治療を受けていただきました。その他の腰臀部痛や下肢痛の治療も併せて行いました(仙腸関節障害、梨状筋症候群、右坐骨神経痛なども合併していました)。
治療の所見
血管造影を行うと、下膀胱動脈造影にて前立腺に一致してモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。薬液投与時の再現痛(普段の症状が一定程度再現される様子)も確認できました。また、右側の恥骨枝では、恥骨結合近傍に淡い濃染像を認めました。股関節内旋時などに恥骨の痛みも訴えておられましたが、その原因に相当するものと判断され、併せて治療を行いました。腰臀部の治療も行ったうえで終了しました。
治療後の経過
最初の2週間で、会陰部痛は3割程度改善しました。睾丸に血流が悪い感じがしていましたが、少し改善してきて、真っ黒だった色調に赤みが出てくるようになりました。臀部痛や臀部のコリ、右下肢の冷感・しびれも大幅に改善しました。チクチク感じていた神経痛も7割改善されました。治療後1ヶ月半、腰痛は7割減少し、臀部痛も気にならなくなる一方で、慢性前立腺炎に関連した痛みがよりはっきりと認識されるようになりました。発作的に灼熱感を伴う痛みを感じることがあり、出張で5時間座りっぱなしであったときなどはさらに増悪しましたが、概ね元の痛みの6-7割程度(6-7/10)で過ごせていました。治療後2ヶ月半、会陰部痛は元の半分程度になりました(5/10)。まだ痛みは残っているものの、当初のことを思えば大幅に改善されています。今後、追加治療を検討中です。腰臀部痛や坐骨神経障害に加えて、慢性前立腺炎を合併した状態でした。種々の症状に悩まされており、大変辛い状態であったことと思います。改善されて本当によかったです。会陰部の痛みについては、まだ完全に解消するには至っていませんが、大幅に減弱させることができました。残存症状に対する追加のカテーテル治療の効果も期待できます。慢性前立腺炎は中々有効な治療方法がなく、多くの方々が苦しんでいますが、こうした治療方法があることをぜひ知っていただきたいと思います。ご参考にしていただければ幸いです。