膝:変形性膝関節症など

【50代:男性】トライアスリートに生じた膝蓋腱炎(ジャンパー膝)に対するモヤモヤ血管治療(膝蓋腱炎、膝蓋靭帯炎、ジャンパー膝)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

世界トップレベルでのトライアスロン、アイアンマンレースに出場歴のある方です。
半年前から左膝の痛みがあり、2か所の病院でCT・MRI検査を受けた結果、膝蓋靭帯炎(膝蓋腱炎)と診断を受けていました。整骨院ですすめられて当院を受診しました。

診察時の所見

左膝蓋腱膝蓋骨付着部(膝のお皿の下縁近傍)に圧痛がありました。レントゲン検査では特に異常は認められませんでした。エコー検査では、膝蓋腱は腫脹しており、同部位および膝蓋下脂肪体に異常血流信号の増生を認めました。中等度以上の腱変性がみられ、その範囲は膝蓋腱外側領域のおよそ半分程度に及んでいました。典型的な膝蓋腱炎であり、モヤモヤ血管治療の適応疾患ですので、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療の所見

外側下膝動脈の血管造影を行うと、患部に一致してモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。その他複数個所の血管の治療を行い終了しました。

治療後の経過

治療後4日でしゃがみ込むときの痛みが改善してきました。治療後3週間、順調に経過していましたが、膝を伸ばした時、患部を押したときの痛みはまだ少し残っていました。エコー検査では、この時点でも腱腫脹は減少し、異常血流も大幅に消失していました。その後も小さい痛みで推移していましたが、2ヶ月の時点で異常血流信号が増えるなど再発懸念がありましたので、負担のかかるトレーニングを控えていただくようお話ししました。治療後3ヶ月では再び改善が進み、しばらく横ばいでしたが、4ヶ月を過ぎる頃から急速に改善が進み、痛みが消失しました。5ヶ月時点の確認では、腱の腫れはほぼ正常範囲にまで減少し、異常血流信号は完全に消失しました。組織も安定化してきていることを確認できたため、バイクから運動再開とし、ジョギングは慎重に行っていただくこととしました。治療後7ヶ月、痛みなく経過していましたが、右膝と比べると若干の違和感はありました。違和感が出ると練習を止めるなど慎重に過ごしているため痛めることはありませんでした。まだ負荷は低いが良い練習を積めており、ここ2週間くらいで自信がついてきたと言われました。エコー検査では、低いエコー領域として描出される腱変性部分のエコー輝度が回復しており、腱の性状も急速に改善してきていることが確認できました。その後1ヶ月半ほど経った時期に、練習中は問題ないものの、練習後に痛みを生じ、翌日になっても痛みがひかずに持続するということで受診されました。一定程度の再燃が認められ、慎重に対応していく必要に迫られました。ご本人としては、目指していた大会はあるものの、まずはしっかり治したいという意向のほうが強く、一度だけ注射加療を行ったうえで運動も自重していただき、改善しなければ追加カテーテル治療も検討するということになりました。再び改善に向かい、ほどなくしてスピンバイクやスイミングを再開、ランニングだけは控えるようにしていましたが、むしろ運動をしているほうが調子が良い感覚があるとのことでした。治療後11ヶ月、痛みなく順調に経過していました。スピード練習(4分/40km, 1-2kmのインターバルトレーニング)はまだ控えており、ペース走を行っている、それも5分前後/kmで走りたいところを7分前後/kmに抑えて走っていました。自転車・水泳はMaxの90%程度のことができていました。心肺機能はだいぶ回復しており、ランニングについては筋力の回復をすすめているとのことでした。目標としていた大会も結果は求めず完走を目指して参加する予定です。エコー検査では、長軸画像では健常の方と遜色ないほどに改善しており、短軸像でも腫脹はなく、腱変性領域も大幅に回復していました。異常血流信号は完全に消失したままでした。一般の方ですと、完治と言ってよい状態でした。その後受診はありませんが、順調に経過されていることと思います。

トップレベルのアスリートです。自身の身体のことを熟知しており、復帰に当たっては少しずつ身体の声を聞きながら進めて行かれました。幸い大きな再発なく、再び高い運動強度に耐えられるまで回復されました。膝蓋腱炎はカテーテル治療が非常に有効な疾患の一つですが、症状の改善が早い一方で、競技復帰を焦ると再発リスクの高い疾患です。安静療養期間は負担のかからない運動にシフトするなど工夫して辛抱強く過ごされたことがよかったと思います。今後のさらなるご活躍を心よりお祈り申し上げます。

ジャンパー膝の詳しい病状説明はこちら

 
 

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