鴨井院長による動画解説
受診までの経過
2年半前から、家庭の強いストレスがきっかけで膣の中が上へ突き上げるように、もぞもぞと、こそばゆく感じるようになりました。さらに、何かが挟まっているような感じと痺れの様な感覚もするようになりました。痺れは肛門にも感じました。常にもぞもぞするため足を閉じて立っていられないほどでした。それでも、座っているよりは立っている方がまだ楽でした。婦人科に泌尿器科、内科・神経内科・皮膚科など、10箇所以上受診しました。腹部CTや腰椎MRIでは異常ありませんでした。膀胱炎ではないかと言われ治療をしばらく受けましたが、改善しないため膀胱鏡検査を受けたところ、異常は無くストレスからくるものだと言われました。うつ病の診断で安定剤や漢方薬を処方されましたが、やはり変わりませんでした。そればかりか、8ヶ月前からさらに悪化し、尿道の中が常に熱く、チクチク・ヒリヒリと突き刺すような痛みも生じるようになりました。一方、排尿時に痛みはなく、排尿前後で特に症状は変わりませんでした。1日のうち、午前中はそれほど強い痛みではなく、午後から悪化して夕方までは酷い痛みが続きますが、夜になると少しおさまるため、睡眠はある程度とることができていました。ストレスから体重は2.5kg減少しました。途方に暮れていましたが、整骨院では年齢的に膀胱が下がってきて神経に当たっているのではないかと言われ、自分もそう思うようになりました。
診察時の所見
複数の医療機関で精査され、泌尿器疾患は否定的でした。症状の性状からは誘発性膣前庭炎が疑われました。治療効果が出るのに時間を要すること(2-3ヶ月)、無効である可能性もあること、治療後に一過性に症状が増悪する可能性があることなどを十分ご理解いただいたうえで、モヤモヤ血管(病的新生血管)に対する運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)を受けていただきました。
*前庭部;小陰唇の間に位置し、膣口および尿道口、前庭球、大前庭腺を含む部位です
治療の所見
血管造影を行うと、外陰部動脈、下膀胱動脈、内陰部動脈の各血管造影において、膣前庭部および肛門に一致してモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。いずれも右側優位に認められましたが、両側とも治療を行いました。治療後は画像上速やかに消失しました。治療時には明確に再現痛を確認できました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込357,500円〜434,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療後1ヶ月の経過ではまだ全く変化はありませんでした。その後少しずつ改善し、より戻しがあったりもしましたが、2ヶ月時点で楽になってきて痛みは半減しました(5/10程度)。しかし、もぞもぞするのが止まらず悩んでいました。初回治療が明確に奏功していることから、ご相談の結果、治療後3ヶ月時点で2回目のカテーテル治療を行いました。治療後1ヶ月、痛みは6-7 割減っているものの(3-4/10程度)、もぞもぞ、チクチクといった症状がとれませんでした。だいぶ楽にはなりましたが、どうしてもその症状が辛く感じられました。不思議と夜就寝後~起床までは楽で自分の中では至福の時間だということでした。一方、日中は特に長く8000歩/日以上歩いたときなどに前述の症状が辛くなってきました。その後しばらく心療内科に通うなど別の治療方法も受けましたが、中々改善せず、2回目の治療後5ヶ月時点で改めてご連絡をいただきました。膀胱の中がこそばゆい感じは無くなったが、チクチクする痛みと何か挟まったような感じが残っている、空気が入っているような感じがして、じっと立っていられないということでした。一方、症状の質が変わってきていて、元々は全体的にもぞもぞする感じが強かったのですが、局所的にピリピリする感じとなっていました。痛みではないということでした。症状は昼間のみで、22時~7時は治ったかと思うくらい何ともありませんでした。3回目のカテーテル治療を受けるかどうかをかなり悩んでおられましたが、いろいろと効かない薬を飲んで悩んでいるよりは治療を受けたいと希望され、三度カテーテル治療を行うこととなりました。治療後3週間くらいから、とても楽になってきました。全体的な症状の評価としては、8割減(2/10程度)となり、『これまでと異なり、一気に良くなった感じがする。3回目を受けて本当に良かった』と言われました。その後も良好に経過されています。
誘発性膣前庭炎は決定的な治療方法がなく、難治の経過となる方が少なくありません。そもそも、診断もつけられず途方に暮れている方もいます。自律神経失調状態や鬱状態に陥っている場合も多く、それによりさらに種々の治療が効きにくくなってしまいます。そうした中でも、モヤモヤ血管に対する微細動脈塞栓術が有効なことがあります。単回の治療ですっきり良くなるとまではいきませんが、本症例でも痛み自体は半減しました。その後痛みとは異なる不快な症状がある程度解消されるのに、追加で2回の治療を要しましたが、満足できる状態まで改善し、ご本人は大変喜んでおられました。残りの症状も日にち薬でさらに解消されていくことを願ってやみません。中々他人には相談しづらい陰部の症状ですが、例え難治の経過でもこうした治療方法があるということを多くの方々に知っていただきたいと思います。