鴨井院長による動画解説
受診までの経過
8ヶ月前から肛門に違和感が生じるようになりました。歩行時を含めて常に痛みはありましたが、長時間座っていると、ジンジンとひどく増悪していました。入浴すると症状は無くなる一方で、夜間に痛むこともありました。複数の総合病院を受診するも原因不明で、MRIでも異常が無いと言われました。肛門の神経を焼くような治療を受けてみましたが効果がありませんでした。前立腺炎として、下記のように各種前立腺薬、抗生剤、および鎮痛薬を処方されていました。耐え難い不快感のため、3ヶ月に亘り休職していたところ、当院の治療を知り受診されました。
内服薬;セルニルトン、クラビット、プレガバリン、トラムセット、デュロキセチン
診察時の所見
造影MRI検査を行ったところ、dynamic造影において、前立腺辺縁域全体が早期相から比較的均一に強く濃染されました。前立腺における炎症所見は明らかであり、やはり慢性前立腺炎として矛盾しませんでした。慢性前立腺炎に対する微細動脈塞栓術(カテーテル治療)は有効な治療選択肢の一つではありますが、一定程度の症状は残ること、無効の場合もあることなどを十分ご理解いただいたうえで治療を受けていただきました。
治療の所見
血管造影を行うと、左下膀胱動脈にて前立腺領域に一致してモヤモヤ血管(病的新生血管)が濃染像として描出されました。内陰部動脈造影では、前立腺領域のほか、本人が最も悩まされていた肛門周囲においてモヤモヤ血管が同様に描出されました。いずれも、治療後は画像上速やかに消失しました。その他複数箇所の治療を行い終了しました。


治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療後3週間くらいから改善してきました。最もひどい時の痛みは半減しました。長時間座っていると、まだ痛みました。治療後2ヶ月、あまり大きくは変わらず、当初の痛みを10とすると、6程度の痛みが残っていました(6/10)。それでも初回治療効果は明確に感じられたことから追加治療を希望され、施行しました。その2週間後、3-4/10程度まで痛みが減りました。さらに、全然痛くないときも出てくるようになりました。ご家族の方からは、『不治の病だと思っていたので、ここまで治り驚いている。あとは、完全に消失するのかどうかが気になる。』と言われました。その後、元の痛みの2割程度(2/10)で過ごすことができるようになることもありましたが、2回目の治療から2ヶ月半時点で、概ね3割程度の痛みで経過されています3/10)。完治を目指して、追加治療を行うことをご希望されているところです。慢性前立腺炎は難治の痛みの一つですが、中々有効な治療方法が確立されていない現状において、モヤモヤ血管に対するカテーテル治療は有効な治療選択肢の一つです。すべての方に有効とまでは言えませんが、造影MRI検査にて造影効果が明確に見られる方についてはより大きな期待が持てます。発症から期間が短いほど、うつ病等の精神疾患を合併していない方の方がより有効な可能性が高いです。単回の治療で全ての症状を完全に取ることは難しいですが、追加治療を行うことでさらに症状を軽減させることが可能です。