鴨井院長による動画解説
受診までの経過
16年前に帯状疱疹に罹患し、以後右乳房の下~腰の右半分の痛みが持続するようになりました。当初の皮膚の発疹はかなりひどい状態で、水疱が広い範囲にできていたそうです。最初よりは痛みが緩和されているものの、四六時中火傷のようなピリピリした痛みを感じていました。少し触れたり衣服が擦れたりしただけで痛いということはなく(アロディニアなし)、天候により痛みが増悪する一方、入浴では変わりませんでした。何かに熱中しているときは楽に感じられていました。尿意により2-3時間おきに起きてしまうものの、一定の睡眠時間は確保できていました(23:00-6:00)。リリカ150mg(プレガバリン)を毎日服用するも症状が改善しないため当院を受診されました。
診察時の所見
痛みの範囲は右前胸部~背中の中央部に広範囲に及んでいました(Th11-12レベル)。帯状疱疹後神経痛はあらゆる慢性痛の中でも難しい痛みに位置づけられる痛みの一つですが、微細動脈塞栓術(モヤモヤ血管治療, 運動器カテーテル治療)が有効な事例を多く経験しています。しかしながら、その有効性は他疾患に比べると劣りますし、何より本症例では罹病期間が非常に長い点が懸念されました。治療目標は6ヶ月かけて3-5割の改善を目指すこと、少なくとも治療後最初の2週間は全く変化がなく、早ければ1-1.5ヶ月で少しずつ改善効果が得られることが予想されること、無効である可能性もあることなどを十分ご理解いただいたうえで治療を受けていただきました。
治療の所見
右前胸部および背部の疼痛部に分布する血管に対してそれぞれ治療を行いました。特に、内胸動脈や肋間動脈において再現痛(普段の痛みが薬液投与時に一定程度再現される現象)が得られました。必要部位をすべて治療して終了しました。
治療後の経過
治療後2週間、やや改善したように思うと言われましたが、まだまだはっきりはしませんでした。その後はご遠方でもあり受診が途絶えていましたが、治療後9ヶ月時点でご連絡をいただきました。前胸部~腹部の痛みはだいぶ改善され半分以下になっていました。一方、背中の痛みがまだまだとれないため追加治療についてご相談されました。その後治療予定の再調整などがあり少し時間が経過しましたが、初回治療後1年時点で2回目の治療を受けていただきました。背中と側胸部が痛みの主体であったため、同部位を網羅したうえで少し広めに治療を行いました。2回目治療後3ヶ月、まだ痛みはあるものの、忘れている時間が長くなりました。背中は少し楽になり、比べると脇の方により痛みがありました。まあまあ辛抱できるくらいになっているとのことであり、全体としても当初の半分以下くらいに感じられるようになりました。以前は午後や夜に痛みが強かったのが、今は朝に痛みが一番強く、朝5時頃にリリカを飲むことで7時くらいには楽になって起きているということでした。まだまだ完治には至りませんが、治療前の半分程度になればだいぶ楽には過ごせます。
15年以上という長期に及んだ痛みを考えると、まずはここまで改善することができて本当に良かったです。残りの痛みも時間をかけて少しずつ緩和されていくことが期待できます。引き続き慎重にフォローアップします。別項でご説明していますように、帯状疱疹後神経痛はとにかく早く治療を受けていただくことが重要であり、時間経過とともに治療に反応し難くなっていきます。そうした場合でも本症例のように一定の改善が得られることもありますので、あきらめる必要はありません。こうした難治状態から良くなっていく場合、まず痛みの範囲が狭くなっていったり、痛みを感じない時間が少しずつできてそれが長くなっていったり、これまで効きにくかった痛み止めが効くようになってきたり、などということが起こりながら治っていきます。本人にとってみれば、残った痛みがまだまだ辛いので全然変わらないと訴えることも少なくありませんが、こうした確かな変化を一緒に実感しながら心理的にも改善していくことも重要です。まず痛みが半分になることを目指し、残りの痛みも時間をかけて減らしていくことになります。