肩:肩こり・四十肩・五十肩

【40代:女性】石灰吸引後、ステロイド注射後も改善しなかった長期に及んだ右肩の痛み(石灰沈着性腱板炎(石灰性腱炎)、石灰吸引後遺残痛)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

7年前から徐々に右肩の痛みが出てきて、4年前からは腕を挙げられないほどの痛みとなりました。数年間リハビリや電気治療、注射治療を受けましたが気休め程度にしか痛みがひきませんでした。3ヶ月前にレントゲンとMRI検査の結果、石灰沈着性腱板炎と診断され注射で石灰の吸引をしてもらいましたが、痛みがまったくひかないばかりか逆に酷くなりました。元々は首筋が少し痛むのと肩の痛みだけでしたが、腕全体と手首や肩甲骨の辺りまで痛みが拡がり、少し腕を使うだけでも痛くなり夜間痛も酷くなり痛み止めがやめられない状態となりました。胸郭出口症候群の疑いもあるとのことで造影CT検査なども受けましたが特に問題はありませんでした。石灰も少し薄くなったので五十肩と診断され、リハビリやステロイド注射を受けていましたがいっこうに治らないため当院を受診されました。

診察時の所見

レントゲンでは吸引後の残存石灰が腱板領域に確認されました。エコー検査では同部位に一致して残存石灰を認めたほか、周囲に異常血流信号を認めました。広い範囲で石灰が吸引されてはいましたが、強い炎症が腱板周囲に残存している状態と考えられました。病的新生血管(モヤモヤ血管)に対する微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)の適応と判断し、治療を受けていただきました。また、痛みによる過度の緊張状態が続いたためと思われますが、元々の首肩こりも増悪していたため併せて治療を行いました。

治療の所見

前上腕回旋動脈造影により残存石灰部位に一致して病的新生血管(モヤモヤ血管)が造影剤の濃染像(stain)として描出されました。五十肩(凍結肩)などの肩関節周囲炎で見られるような、上腕二頭筋長頭腱周囲に描出されるモヤモヤ血管とは明らかに異なる画像所見でした。治療後は画像上速やかに消失しました。その他両側首肩こりの治療も滞りなく行いました。

治療後の経過

3日後くらいから寝返りの際の痛みが楽になってきました。治療後2週間の再診時には両腕が上がるようになっていました。これまで何をやってもよくならなかったので、こんなにも改善して本当にモヤモヤ血管のせいだったのだと驚かれました。治療後2ヶ月、夜はぐっすり眠れていましたが、右肩から首筋にかけての痛みがまだ残っていました。左側は気にならなくなりました。治療後3ヶ月、起床時などにまだ少し気にはなるものの、だいぶ楽になり、可動域も大幅に改善していました。残存症状については自然軽快が見込まれること、再発リスクは低いことから終診となりました。
石灰沈着性腱板炎と診断された場合、一般的に針による石灰吸引や、超音波, 衝撃波による石灰破砕、石灰生成抑制および吸収促進を狙った内服薬の処方などが行われますが、石灰そのものが直接痛みを出しているわけではありませんので本質的な治療ではありません。実際に、石灰が無くならなくても痛みが消失する方は大勢おられます。しかし一定の効果があること、他に有効な方法が限られていることから広く行われています。一方、病的新生血管(モヤモヤ血管)に対する微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)はより直接的に大幅に炎症を鎮めることができます。自然治癒力も強力に促進するため、石灰ができて長期間でなければ、吸引しなくても自然に吸収されていきます。石灰を吸引したり破砕したりするという手技は強い痛みも伴いますので、身体に優しく有効性も高い本治療は、石灰沈着性腱板炎に対して強く推奨できる治療です。

石灰沈着性腱板炎の詳しい病状説明はこちら

 
 

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