鴨井院長による動画解説
受診までの経過
10ヶ月前から胸の中央の骨(胸骨)に痛みが出て内科を受診したところ、肋軟骨炎ではないかと言われました。内服薬を処方されるも改善しないため整形外科でCT・MRI検査を受けたところ、胸骨柄に炎症があると言われ同様に内服薬や塗り薬、湿布薬を処方されましたが効果はありませんでした。最近では左右の肋骨にも痛みでるようになりました。痛みのきっかけは不明ですが、仕事のストレスにより2年間で10㎏程体重が落ちたりしたのでそうしたことが原因かもしれないとのことでした。
診察時の所見
胸骨のほか、上部肋骨レベル(Th2-6)において肋軟骨に一致して圧痛を認めました。自発痛は上部中心ですが、下部にも圧痛はありました。その他痛みの性質が重要になりますので、下記に列挙します。
・仰臥位から起き上がる時や、力を入れるときに痛い
・疼痛部位は移動しない(痛みの部位はいつも同じ)
・ズーンとした痛み
・四六時中痛いわけではない
・深呼吸では痛くない(胸膜炎とは異なる)
・数か月前は天気が悪いほうが痛かったが、今は関係なく痛い
・入浴では痛みの変化はない
・ヨガをしているときに痛む
胸骨や肋軟骨に負荷がかかる動作で痛みが誘発されていること、当初よりも痛みに対する抵抗力が落ちてきている状態(下行抑制系機能低下により過敏になっている状態)などが読み取れます。ストレスや体重の急激な低下も痛みに対する抵抗力を低下させます。一方、うつや睡眠障害を伴うほどには陥っていませんでした。運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)による症状の改善が見込まれましたので治療を受けていただきました。
治療の所見
胸部は肺(含気成分を含む)や心臓(常に拍動している)があることなど種々の要因により通常モヤモヤ血管が血管造影画像上描出できることはほとんどありません。実際の治療の際は疼痛部位に分布する動脈から治療を行いますので、治療後のご説明としては当該血管の造影画像をお見せして確認していただいています。薬液投与時は、普段の痛みの部位に一定の再現痛(熱い感じ、あるいは軽度の痛み)を感じることが多く、そうした刺激により治療が痛みの部位に行き渡っているかどうかをご自身で確認していただくこともできます。
治療後の経過
治療後1週間くらいは治療にともなう違和感がありましたが、その後楽になってきました、治療後1ヶ月半の時点で4割程度の痛みが改善しましたが、このさき治っていくのか不安がまだまだ不安でした。診察では痛みの範囲は狭くなっておりまずまず良好に経過していると判断できました。治療後2ヶ月になると、痛みを忘れられることが多くなってきました。心理的にも少し安定してきた様子でした。座った状態で身体を捻じったりした際など、特に朝に痛みを感じるとのことでした。炎症自体はある程度治まっており、やはりいわゆる疼痛過敏(下行抑制系機能低下)が改善を妨げている状態でしたので、痛みとの向き合い方や日常生活についてのアドバイスを行ったうえ、注射は行わず残存症状については内服薬にて加療を行うこととしました。サインバルタ(デュロキセチン)は以前副作用で服用困難だったことがあるとのことでしたので、ノイロトロピンを処方しました。特に問題なく服用でき、ある程度症状も落ち着いていましたが、より積極的に痛みを改善するのにトラムセットに変更しました。治療後3ヶ月ではほとんど痛みがなく薬を飲むほどではなかったため飲んでいませんでしたが、その後痛いときに試してみると楽になりました。治療後5ヶ月、日中は仕事中を含めて痛みはなくなりましたが、起床時に痛みがありました。いざというときに対処できる方法があるということで心理的にも安心できるため、念のためもう少しだけトラムセットを続けることとしました。その後全く痛みがなくなり服薬も不要となり終診となりました。痛みが出てきた際にご連絡いただくこととなっていましたが、その後5ヶ月にわたり痛みなく過ごせているようです。
肋軟骨炎は自然に軽快することもありますが、当院にご相談いただくほど長引きこじらせている場合は、治療後も完治するまでには他疾患に比べると少し時間を要する傾向があります。生き物は外側よりも内側、背中側よりもお腹側の方が弱いのですが、肋軟骨炎のような胸部に生じる痛みは自覚しやすいというところもあるのでしょう。また、急激な体重の減少は痛みに対する抵抗力を低下させる可能性があります(筋肉自体からも痛みに対抗する物質が分泌されることが知られています)。とはいえ、当初のような辛い痛みは最初の1-1.5ヶ月である程度改善しますし、残った痛みも徐々に消えていきますのでご安心いただければと思います。特に心理的ストレスなども影響している場合は、治っていく痛みだということを正しく理解していくことが症状の改善に重要です。炎症を鎮めたり血行を改善したりすることで改善する痛みばかりではありませんので、それだけで改善しない痛みは総合的に治していく必要があります。