鴨井院長による動画解説
受診までの経過
30年前から時々腰痛に悩まされてきましたが、6年前からは痛みが消えなくなりました。座っている時が特にひどく、仰臥位や立位、歩行では支障はありませんでした。整形外科で軽度のヘルニアを指摘されましたが、痛みの原因は不明で、ついには『痛みが脳から来ている』と言われ心療内科を紹介受診したところ、4種類の抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤などを服用するようになりました。ペインクリニックでブロック注射を受けましたが、一時的にも良くなることはありませんでした。一方、骨盤ベルトを巻くと楽になるほか、入浴やウォーキングでも楽になりました。当院の治療を知り受診されました。
診察時の所見
腰の可動域は保たれており、むしろ柔らかいくらいでした。圧痛は目立たず、筋緊張の亢進も見られませんでした。レントゲンでは胸椎・腰椎に軽度の側弯を認めました。前述の特徴的な症状と身体診察と併せて仙腸関節障害が疑われましたが、痛みを制御する下行抑制系機能の低下は明らかであり、痛覚変調性疼痛(以前は心因性疼痛と呼称)の様相を呈していました。しかしながら、痛みの増悪・寛解因子が明確であり、メンタル的な要因が非常に大きいということもありませんでした。以上から治療適応と判断し、モヤモヤ血管(病的新生血管)に対する運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)を受けていただきました。尚、改善には時間がかかること、カテーテル治療だけでなく運動療法なども併せて行っていく必要があることなどを十分ご説明しご理解いただきました。
治療の所見
不安や過敏性が強いため、あらゆる局面で刺激の少ない治療を心がけました。腰痛の主要責任血管である腰動脈、腸腰動脈、外側仙骨動脈のほか、複数個所の治療を行い終了しました。幸い、治療中の疼痛過敏は見られませんでした。
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:治療する部位によって費用が異なりますのでこちらをご参照ください。
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療当日は痛みなく過ごすことができて、翌日も良い感じがしていましたが、その後戻りました。治療後2週間ではまだ変化がありませんでした。治療後1ヶ月半、痛みの部位が下がってきました。ぎっくり腰のような痛みということでした。楽になったわけではないものの、痛みの感じ方の変化は良い徴候と思われました。治療後2ヶ月半、明確に改善を実感できるようになり、30分~1時間くらいは座れるようになりました。治療後3ヶ月半、うつ伏せでテレビを見た後や、長時間座ったときには痛むものの、どうしようもなく痛いということは無くなり、しっかり楽になっているということでした。治療後6ヶ月、再燃することなく順調に経過し、全体的には元の6-7割方の症状が改善しました。追加治療の余地はあり、今後ご希望により対応していく予定です。
いわゆる器質的な変化だけでなく、痛覚変調性疼痛の要素が強い症例でした。当初の予想通り、改善には時間を要し、一定の症状は残存しています。今後は運動療法も併用しながら心療内科での内服をすべて中止できるようになることが当面の目標です。当院はクリニックの性質上、どこに行っても、何をやっても良くならなかったという方が多く訪れますが、痛みが脳からきているという説明を受けたという事例は少なくありません。本症例は器質的な要因よりも、下行抑制系機能低下の要素が強く、痛覚変調性疼痛とも言える状態でした。一般的には、内服薬のほか、心理的アプローチ、運動療法などが行われますが、実はこのような状態でもカテーテル治療は有効です。『痛みが脳からきている』事例でも運動器に実態を伴う原因が存在することがほとんどですので、的確にカテーテル治療を行うことで、逆に下行抑制系機能低下を回復させていくことが可能です。但し、そうでない場合と比べると、明らかに時間を要します。焦らず、時間をかけて一緒に治療に取り組んでいきましょうとお話しさせていただいています。『痛みが脳から来ている』、『脳が痛みを覚えてしまっている』と言われてもあきらめずにご相談いただければと思います。


