鴨井院長による動画解説
受診までの経過
9年前からの両下肢の痛み。最初は左足親指がしびれ、その後拡がって両足がジンジン、ピリピリするようになり座ると特にひどくなります。お尻から太ももの裏側やふくらはぎのほうにも同様に違和感を生じるようになりました。階段は上れるし、正座もできますが正座の際には違和感がありました。また、お孫さんを抱っこすると痛むというようなこともありました。整形外科で腰椎MRIを、神経内科で頸椎MRIを撮りましたが異常はありませんでした。リウマチや糖尿病なども否定的で、坐骨神経痛ではないかと言われていました。いろいろと治療法を調べていた折にモヤモヤ血管のことを知り当院受診となりました。
診察時の所見
座ったときに特に増悪することから、臀部の痛みであることが強く疑われましたが、丁寧に診察をしていくと梨状筋というお尻の筋肉が非常に硬くなっており、同部位に圧痛を認めました。症状の性質や分布から考えて、梨状筋症候群による坐骨神経痛であると考えられました。坐骨神経痛は坐骨神経経路のどの部位が障害されても生じますが、梨状筋の近傍を通過するため梨状筋が硬くなると坐骨神経が圧迫されて下肢にわたる症状が引き起こされ、さらに座ることで圧迫がさらに強くなることにより痛みが増強されます。梨状筋症候群はモヤモヤ血管が大きく関係していますので、運動器カテーテル治療(運動器EVT)を受けていただきました。
治療の所見
両側の足の付け根(鼠径部)の血管(大腿動脈)から管を上向きに挿入して治療を開始します。右側の治療の際は左の管から、左側の治療の際には右側の管からカテーテルを進めて標的血管を漏れなく治療しました(一時塞栓物質投与)。骨盤内に分布するモヤモヤ血管は、ほとんどの場合、血管造影検査をしても直接見えるということはありません。治療中にモヤモヤ血管が見えましたか?とお聞きになられることがありますが、この領域では見えることは稀なのです。もちろん、見えないから無いということではありません。モヤモヤ血管は多くの痛みに関係していますが、見えやすい場所と見えにくい場所があるのです。骨盤領域は組織が分厚く、骨や臓器、腸管ガスなどもたくさん見られるうえに、モヤモヤ血管の存在する場所がかなり深い位置にあるので、血管造影をもってしても目で捉えることはできないのです。術者は見た目だけで判断しているわけではありません(モヤモヤ血管の確認はその他の情報を含めた総合判断に基づきます)ので治療には差し支えありません。
治療後の経過
治療後2週間の時点ではあまり変化は感じられませんでした。1ヶ月時点で、お尻の苦しい痛みがとれてきました。痛みで叫ぶようなことはなくなりましたが、まだ座るとビリビリする感じは残っていました。その後腰の痛みはほぼなくなりましたが、お尻の下部から足にかけてのしびれが気になっていました。治療後2ヶ月でもまだ症状は残っており、特にお孫さんを抱っこすると症状が強くなるとのことでした。やめていただく選択肢もありますが、ご家族との大切なふれあいであり、痛みにとってもグルーミング自体は非常に有効に働く(セロトニン分泌を促すことで下降抑制系を賦活化し、痛みに強くなる)ためこれまで同様に続けていただくこととしました。3ヶ月を経過する頃、お尻の痛みはかなり改善し、お尻から上に上がってくるように感じていた放散痛もなくなりました。両下肢の痛みやしびれはまだ残っていました。4ヶ月目を迎えると、お尻の痛みはほぼ消失し、以前は座るのが怖かったのが座ってもなんともありませんでした。足も上に良くあがるようになり。お尻もずいぶんと柔らかくなりました。両下肢のしびれはまだ残っていましたが、5ヶ月目にはそれも改善しつつありますが、引き続き慎重にサポートしています。MRIでは異常ないのにどうしてこんなに苦しいのかと長年悩まされていましたが、梨状筋症候群も仙腸関節障害もMRIではわかりません。MRIでは異常がなくても辛い症状が出ることはあり、その治療方法もあるということを知っていただきたいと思います。この方は非常に重症の坐骨神経痛をともなう梨状筋症候群であり、一部仙腸関節障害も合併しておりましたので治療後もすべての症状がゼロになっているわけではありませんが、日常生活を普通に送れるようになり大変喜んでいただいております。