鴨井院長による動画解説
受診までの経過
1年半前頃、さしたるきっかけもなしに右肩の痛みを生じるようになり、腕が上がらない、夜間痛がひどくて眠れないなどから典型的な五十肩と思い、7か月前から整形外科に通院するようになりました(同診断)。肩の癒着を剥がす授動術を2度に亘り受けましたが、変化はなく、むしろ痛みと可動域制限は悪化していました。右肩~肘、手首に痛みがあり、腕全体が重く、腕を挙げられず後ろに手を回せず、右手がむくんでいる状態でした。何とか仕事や家事はこなせているものの、動作を止めると痛みが出てきました。椅子に座っている時、運転中、就寝中が特にひどく痛みました。
診察時の所見
右肩関節は高度の可動域制限(外転80度、外旋0度他、反対の肩に手を回せない、後ろに手を回して臀部を触ることもできない状態)を認めました。授動術により可動域は一定程度改善していると思われましたが、比較的高度の制限が残存していました。エコー検査では、腱板などの明らかな組織損傷を認めない一方で、異常血流信号が増強されており典型的な五十肩の所見でした。また、高度の可動域制限を反映して、腱板周囲や筋膜間の線維化も目立っていました。レントゲンでは特に問題はありませんでした。以上より、右五十肩および授動術後遺症と診断し、微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。
治療の所見
血管造影を行うと、特に、前上腕回旋動脈、肩甲上動脈にて病的新生血管(モヤモヤ血管)が造影剤の濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。
治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円〜357,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療後2週間、起床時に少し痛みがあるものの、肩全体にズシンとあった重い感じはなくなりました。可動域はまだ大きく変わりありませんでした。治療後1ヶ月を過ぎたころから大幅に改善し、1ヶ月半で痛みはほぼ消失しました。可動域も徐々に改善してきていました。経過良好であったことと、ご多忙であったことより受診は2ヶ月ほどで途絶えていましたが、治療後半年の追跡調査では、元の痛みを10としたときに1以下であり、ほとんど痛みはなく、腕も挙げられるようになり日常生活では全く問題なく過ごせているとのことでした。授動術とは、長期の経過で高度の可動域制限を生じた、いわゆる拘縮肩に陥ってしまった状態の五十肩に対して麻酔下に、縮こまった関節包における癒着を剥がす方法です。全身麻酔下で行われる外科的観血的授動術(メスで癒着を切開)と、局所麻酔下で行われる非観血的徒手的授動術(医師が徒手的に剥離)があります。広く行われている方法であり、多くの方が授動術により可動域を取り戻すことができています。その一方で、力を加えて無理やり癒着を剥がす手法ですので、強い炎症が生じて痛みはむしろ悪化してしまうということがあります。局所麻酔下で行ったり、ステロイド注射を併用したりするのはこうした痛みや炎症を抑えるためですが、薬の効果が切れると痛みが残ってしまうと言うわけです。現在、五十肩においては、モヤモヤ血管(病的新生血管)に対する治療として、身体に優しく効果の高い微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)という方法が(一部の施設で)確立されていますが、痛みを治すことはもちろん、ほとんどの場合で特別なリハビリを要することなく可動域も自然軽快します。この治療方法の有効性を知っている立場からすると、まず一番におすすめしたいと思っていますが、授動術後に悩まれている場合にも有効です。授動術後の場合は、従来の炎症だけでなく施術による炎症も加わっていますから、一般の五十肩よりも回復に時間を要することもありますが、本症例のように大幅に改善させることが可能です。お悩みの方はご検討いただくとよいと思います。
*尚、当院のスタンスとして授動術を否定しているわけではございませんのでご了承ください。