モヤモヤ血管への動脈注射治療(動注治療、動注療法)

動脈注射治療とは、モヤモヤ血管治療の一種で、運動器カテーテル治療から応用された微細動脈塞栓術です。痛みの部位に生じた病的新生血管(モヤモヤ血管)を標的として、イミペネム・シラスタチンという抗生剤の一種を一時塞栓物質として用います。慢性炎症を持続させるメカニズムに対して直接アプローチする治療です。

治療対象

治療適応は徐々に拡大しています。治療実績に基づき具体例を明示します。
肩の痛み;肩こり(一部に限定)
肘の痛み;上腕骨外側上顆炎(テニス肘)、上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)、内側側副靭帯損傷、離断性骨軟骨炎(野球肘)
手首の痛み;腱鞘炎、TFCC損傷
手の痛み;へバーデン結節、ブシャール結節、CM関節症、ばね指、腱鞘炎、関節リウマチ他膠原病疾患
足首近傍の痛み;アキレス腱炎
足の痛み:外反母趾、強剛母趾、有痛性外脛骨、足底筋膜炎、関節リウマチ他膠原病疾患、痛風、脂肪織炎
その他:(上記部位における)骨折後遺症、手術後遺症、CRPS

治療方法

手首・足首・肘など末梢の動脈に細い針を刺し(点滴や採血で用いるもよりも細い針です)、イミペネム・シラスタチンの希釈液を極少量投与します。スムーズに手技が進めば、1分以内に治療が終わります。対象部位によっては投与部の前後を加圧して圧迫することで、患部に薬液を到達しやすくさせるような工夫を行います。

治療効果

すべての微細動脈塞栓術は、大幅に痛みを緩和させることが目的の治療であり、完全に消失するとは限りません。ほとんど全ての症例で完全に消失するような疾患もありますが、治療効果には個人差があります。通常、治療後10日くらいまでは変化はあまりありません。早い方で2週間くらいから、通常は1ヶ月程度で治療効果を実感できることが多いです。治療効果の持続期間については、まだ大規模なデータはありませんが、一旦改善した後はステロイド注射などよりもはるかに長期間緩和効果が持続することは明らかです。ステロイド投与で生じるような副作用が無く、何度でも治療ができるという点は非常に有用です。

限界

動脈注射治療は、血管解剖に依存します。血管の走行や分布は個人差が大きく、治療効果は一様ではありません。状態によっては、運動器カテーテル治療のほうが望ましい場合があります。そのため、動脈注射治療が無効の場合でも運動器カテーテル治療により症状が改善する事例は少なくありません。

動脈注射治療;簡便、低コスト
運動器カテーテル治療;正確性、確実性、有効性に優れている。日帰り手術に該当。
共通した特徴;安全、低侵襲、ステロイドのような副作用はない。繰り返し治療可能。効果の持続は長期間に及ぶ。

塞栓物質について教えて下さい

一時塞栓物質として用いる薬剤はイミペネム・シラスタチンという抗生剤の一種です。本来抗生剤である必要性はありませんが、古くから放射線科領域において消化管出血の経カテーテル止血術に用いられた歴史があり、一定の安全性と有効性が確立されているため採用されています。血管塞栓術は癌治療において広く行われている治療方法ですが、痛みの治療の場合は、正常組織に悪影響を及ぼすことなく病的新生血管のみに作用させることが求められます。この薬剤が、そうした用途に適しているというわけです。

私はアレルギー体質なので、薬剤アレルギーについて心配です

まず、これまでどのようなアレルギーがあったかを詳細に申告してください。食品名・薬剤名、あるいは金属名など、対象物質や体への投与方法。それに対して、どのような反応を生じたのか;掻痒感、発赤、腫脹、熱感、発疹、血圧低下や呼吸困難を伴うようなアナフィラキシーショック。反応が生じたタイミングも重要な情報です。以上をふまえて適切な処置を講じれば、治療が受けられないということはほとんどありません。一方、これまでアレルギーが全く出たことが無い方でも薬剤アレルギーを生じることはあります。血管に直接投与する場合は、内服するよりもアレルギーは生じやすくなります。アレルギーには、投与後すぐに生じるような即時型アレルギーの他に数日以上経過してからも生じるような遅発型アレルギーもあります。前者の場合は院内で即時に対処しますが、遅発型アレルギーに関しては、まず治療を受けた医療機関にご相談ください。当該医療機関にて処置を受けることが原則ですが、休診日や交通の便から受診困難である場合は最寄りの医療機関にてご相談ください。必ずしも皮膚科である必要はございません。薬剤アレルギーに対する応急処置はある程度決まっていますので、ほとんどの医療機関で対応可能です。

治療は痛いですか?

針の太さは、血液検査(採血)や点滴治療で用いられるものよりも細いものを使用しますので、穿刺が痛いという方はほとんどおられません。薬液投与時には通常一定の刺激を感じます。よくある感想としては、『熱い感じ』『ピリピリする』といったことがあげられます。より少ない頻度ですが、投与後に短時間かゆみを感じる方などもおられます。明確な強い痛みとしての訴えはほとんどありません。一方頻度は少ないですがが、今まで感じたことのないような感覚であるため、一時的に迷走神経反射(自律神経反射)が起こり血圧・脈拍が一時的に下がることがあります。ベッドに横になり休んでいただくと数分程度で速やかに改善しますが。これまで、採血や注射で、いわゆる貧血を起こしたことがあるような方は最初から仰臥位にて治療を行うことも検討します。いずれにしても、検査やご説明も含めて外来診察時間内で終えることのできる程度の治療ですので、過剰な心配はご無用です。尚、CRPSなど特殊な状態の方については、ブロック注射を併用することも可能です。

治療後の生活で気を付けることはありますか?

特に制約はありません。安静にできないことで治療効果が台無しになるとうことはありませんが、症状改善のためには治療の有無にかかわらず痛みを伴う動作や作業は控えたほうがよいです。同じ作業を行う場合でも、一旦治し切ってから行ったほうが痛みのリスクを大幅に低減できます。多くの場合、局所の酷使が原因ですので、仕事などで使わなければならない状態であっても疼痛部位における身体の使い方を工夫してください。使用器具を負担の少ないものに変えたり、サポーターを装用したりすることも有効です。炎症体質の改善や、十分な休息をとることも再発予防に役立ちます。

痛いところがたくさんありますが、一度に治療できるのですか?

例えば、手指の場合、単回の治療で全ての指を治療することが可能です。既存の治療法ですとそれぞれの部位ごとに治療を検討するのが一般的ですが、血管を介して治療を行うため広範囲の治療が可能となります。さらに、両手両足など動脈注射治療を同日に複数箇所に行うことも可能です。

治療は何回でも受けられるのですか?

身体への負担がほとんどない治療であり、何回でも受けられます。

他の治療方法と併用できますか?

肩・肘・足
鎮痛薬;併用可能です。動脈注射治療後は有効性が高まることも多いです。
理学療法(リハビリ);痛みを伴わない範囲であれば併用可能。相乗効果を期待できる。
PRP療法・APS療法、幹細胞治療などの再生医療、超音波療法、体外衝撃波治療、鍼灸、マッサージ等については、併用可能ですが相乗効果は不明です。動脈注射治療効果の妨げにはならないと思われますが、動脈注射治療単独でも十分治療効果が期待できることから積極的な併用を推奨はしていません。一方、これらの治療後の状態であっても、動脈注射治療は施行可能です。

手指;エクオール(サプリメント)、テーピング
併用可能です。

今後、外科手術など、別の治療を受ける際に注意することや制限はありますか?

特にありません。薬が体内に残り続けるような治療ではありませんし、局所の組織を傷めるような懸念もありません。抗炎症効果や血行改善効果により、むしろ他の治療方法を検討される場合にもプラスに働くことが期待できます。

変形は治りますか?(へバーデン結節、ブシャール結節、外反母趾、強剛母趾等)

骨の変形は治すことはできません。炎症に伴い浮腫んでいた組織は腫れが退きますので、変形も改善されたように感じることはあります。

見た目は改善しますか?(手指)

骨の変形は治りませんが、炎症のために浮腫んでいた腫れは退きます。水疱(ミューカスシスト)も消失します。血行も改善します。これらの結果、『指がシュッとした』『血管が浮き出なくなった』『皮膚が良くなった。赤切れが治った』といった声をいただくことがあります。

変形は予防できますか?

慢性炎症を長引かせるメカニズムに対して作用させますので予防につながる可能性はありますが、まだ科学的に証明されているわけではありません。

しびれは治りますか?(手指、足部)

軽減されることはありますが、本質的にしびれをとる治療ではありません。痛みが取れても痺れが残ることはあります。一方、首肩や腰臀部が原因の場合は同部位に対してカテーテル治療を行うことで手指や足部のしびれがとれることはあります。

こわばりはとれますか?(手指)

こわばりは、モヤモヤ血管が深く関与している病態の一つであり、多くの症例で解消されます。

力を入れられるようになりますか?(手指)

痛みがとれるだけでも力が入るようにはなります。しかしながら、筋力低下や腱損傷・変性を合併している場合は改善に一定の限界があります。リハビリが必要ですが、痛みがとれることでリハビリが進みやすくなります。高度の頸椎症が原因の場合は全く改善できないこともあります。

指を曲げられるようになりますか?

痛みが軽減されるだけでも少し曲げられるようになります。曲げられなくなってからの期間が数か月程度と短期間であれば元のように曲げられるようになる可能性は高いです。ばね指の場合は早期であればほとんどの場合で改善します。一方、年単位で可動域制限が固定化されている場合、関節変形が非常に高度に進行している場合、あるいは腱損傷および腱変性が高度に進行している場合は痛みがとれても一定の可動域制限は残ります。

動脈注射治療で効果がなかった場合はどうしたらよいですか?

原因を正確に分析することが重要です。非常に高度の変形を伴っている場合、関節の変形・炎症のみではなく腱が高度に傷んでいる場合、痛みに対する抵抗力が著しく低下している場合、頸椎症などより高位における神経圧迫が主たる要因である場合、神経損傷が原因である場合などは一定の限界があります。他の治療方法との併用が検討されます。一方、血管解剖に依存する治療ですので、薬液が正確に届きにくいことが原因であることがあります。その場合は、カテーテル治療が有効です。