肩:肩こり・四十肩・五十肩

【80代:女性】肩関節がぐちゃぐちゃになっているからもう治らないと言われた右肩の痛み (変形性肩関節症、維持透析)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

維持透析中の方でした(非糖尿病性)。1年前から特にきっかけなく右肩に痛みが生じるようになり、半年前からは痛みで腕が上がらなくなってしまいました。総合病院整形外科を受診しましたが、肩関節がぐちゃぐちゃになっていると言われ漢方薬を出されるのみでした。どこに行っても状態がひどいと言われ、軟骨がすり減ってるからもう治らないと言われていました。夜の痛みはなく、しびれもありませんでした。

診察時の所見

右肩関節に高度の可動域制限があり、腕を上げたり反対の肩に手を回したり後ろに手を回したりなどの動作ができない状態でした(外転30度、外旋30度)。首にも高度の可動域制限がありました。エコー検査では、すべての腱板が広範囲に断裂しているほか、上腕骨の損傷や関節水腫、上腕二頭筋長頭腱の腫れや水腫、それらとともに周囲の異常血流信号の増強を多数認めました。

レントゲンでは、骨表層不整、骨硬化像、骨棘形成、関節裂隙狭小化を認めました。左肩関節と比べると違いが明らかです。以上より、高度の変形性肩関節症と診断しました。難治の状態でしたが、治療による改善の余地はあると判断しました。高度に進行しているうえ腱板断裂が広範囲に及んでいることから一定の痛みや可動域制限が残ること、再発リスクが高いことなどをご理解いただいたうえで運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)を受けていいただきました。

治療の所見

高度の炎症を反映して、モヤモヤ血管(病的新生血管)が造影剤の濃染像として随所に観察されました。画像は肩甲上動脈造影および胸肩峰動脈造影です。治療後は画像上速やかに消失しました。透析症例では動脈硬化が高度に進んでいるため、カテーテル操作が非常に困難となることが少なくありません。やはり大変難渋しましたが、技術を駆使することで何とかやり遂げることができました。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込324,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後、首回りなどは楽になったものの右肩の痛みは中々変わりませんでした。ご相談の結果、3ヶ月時点で2回目の治療を行うことといたしました。2回目の治療を行うことは少ないですが、この方のように元々が複雑で難治の状態である方などで行うことがあります。初回の治療で一定の改善効果が得られている方は追加治療をすれば追加しただけの改善が得られます。また、この治療は身体に優しい安全な治療であり、薬剤による組織を傷めるような副作用などもありませんので、何回でも治療をすることは可能です。治療当日、最近になり実は痛みが前よりも楽になったと思えるようになり、ご家族に痛みを聞かれた際にも今日は全然痛くないと答えられる日もあったとのことでした。しかし、まだ痛みは残っているため予定通り2回目の治療を受けることを希望されました。1回目の治療経験を活かし、2回目は比較的スムーズに終えました。2週後の再診時、今度は治療当日から痛みがかなり改善し当初からはだいぶ楽になっていると言われました。治療後2ヶ月、調子よく過ごせており右を下にして寝ると痛いもののだいぶ楽になっていました。一方、エコー検査では関節水腫や上腕二頭筋長頭腱水腫、周囲の血流信号増強などは当初よりは少なくなっているもののまだまだ残存していました。2回のカテーテル治療にもかかわらず、これほどの異常所見が残っていることは進行した変形性肩関節症の重症度を如実に物語っていました。今後も痛みの再発が懸念されますが、その後はさらに2ヶ月経過しても痛みがひどくなることはなく小康状態を保てるようになっています。ご本人には症状がだいぶ緩和されて痛みが楽になり、可動域も当初よりもだいぶ改善されたことでご満足いただいておりますが、やはり変形性肩関節症に至る前に、あるいは少しでも進行度が早い段階で、早期治療を受けていただくことが望ましいです。本症例は透析症例でもありました。透析を受けていると、もう仕方がないとご本人も医療者側もあきらめてしまいがちですが、その痛みを治せる方法があります。透析症例では高度に動脈硬化が進んでいることが多く、カテーテル治療そのものが難しくなってしまいますが、あきらめずに経験豊富な医師にご相談いただくとよいと思います。

変形性肩関節症の詳しい病状説明はこちら

 
 

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