尻:梨状筋症候群など

【60代:男性】痛くて座れない・・2年間悩まされた慢性前立腺炎による肛門周囲の痛み(慢性前立腺炎)

鴨井院長による動画解説

受診までの経過

2年前から肛門に違和感、不快感がありました。肛門科では、内視鏡検査の結果、痔は否定された一方で、触診の際に前立腺に圧痛があったことから泌尿器科受診をすすめられました。精査の結果、泌尿器科で慢性前立腺炎と診断されました。内服薬やステロイド軟膏の塗布により治療してきましたが、2週間前からは腫れや痛みが増悪してきました。座ると重苦しく肛門が押し出されるような痛みがあり、陰嚢が熱くなるほか、大腿の裏にも痛みが生じました。排便と痛みに特に因果関係はありませんでした。当院の治療を知り受診されました。

診察時の所見

造影MRI検査を行うと、前立腺腫大のほか、ダイナミック造影では辺縁域において漸増性に不均一な造影効果を認めました。画像上は炎症型の診断です。モヤモヤ血管(病的新生血管)に対する運動器カテーテル治療(微細動脈塞栓術)の有効性が期待されたため、治療を受けていただきました。

治療の所見

血管造影を行うと、前立腺炎の主要責任血管である下膀胱動脈のほか、閉鎖動脈、内陰部動脈などで、それぞれモヤモヤ血管が濃染像として描出されました。治療後は画像上速やかに消失しました。その際、肛門や陰嚢部に一定の再現痛も認められました。その他複数箇所の治療を行い終了しました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:税込357,500円〜434,500円
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。

治療後の経過

治療後2週間、治療を受けたことにより気分的に改善されたものの、まだ大きく変化はありませんでした。治療後1ヶ月半、1-2割改善してきました(元の症状を10とすると8-9/10程度まで改善)。治療後2ヶ月、さらに1-2割改善してきました。少しずつですが改善してきている実感があり、座ったときに極端に悪くなることもなくなりました。治療後3ヶ月、さらに改善し、6-7/10程度まで改善しました。治療前にあった本当に嫌な感覚は無くなっていました。治療後6ヶ月、5-6/10程度まで改善しました。初回治療後の改善効果は明らかであり、追加治療について検討するためMRIを再検したところ、前述の前立腺における造影効果は減弱しているもののまだ不均一に認められました。追加治療による改善が期待されましたが、症状が半分になっただけでも助かっているとのことであり、しばらく様子を見ることとなりました。2年前からの症状であり、治療無効であることが懸念されましたが、奏功して何よりでした。慢性前立腺炎と診断された方の訴えは幅があり、肛門、会陰部、陰嚢、下腹部など症状の主体となる部位は人により異なります。難治の疾患の一つですが、カテーテル治療は有効な治療方法の一つであり、罹病期間が短いほど治療効果はより期待できます。日常生活に大きく支障をきたし、メンタルが破綻する前にご検討いただくことをおすすめします。

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