鴨井院長による動画解説
受診までの経過
1ヶ月前に帯状疱疹に罹患し、左目の上瞼から前頭部にかけて発疹ができました。アメナリーフを3日間服用した後も、痛みが強くタリージェを処方、さらに増量(10mg/日)もされましたが、効果はあまり感じられませんでした。強弱の波はあるものの、チカチカするような痛みが常にありました。特に夜には火が出るようなズキンとする痛みに襲われ、2時間おきに目が覚めてしまうほどでした。当初は入浴すると少し楽になっていましたが、だんだんとあまり変わらなくなってきました。食欲が低下し、体重が3kgほど減少してしまいました。自然に良くなる場合は1ヶ月程度でだいぶ楽になると聞いていましたが、本当に薄皮1枚ずつ痛みが緩和される程度で、強い症状がいつまでも持続するため当院を受診されました。
診察時の所見
発症1ヶ月であり、まだ皮膚の色調変化は残っていました。発赤からの回復過程にあると思われるような褐色調の色調変化が、左上眼瞼から前額部にかけてみられました。健側と比べると、軽度腫脹しており、少し触れただけでも強い痛みを生じる、いわゆるアロディニアもみられました。発症1ヶ月の帯状疱疹後神経痛であり治療による改善が期待されたため、病的新生血管(モヤモヤ血管)に対する微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)を受けていただきました。
治療の所見
帯状疱疹後神経痛の場合、通常、血管造影でモヤモヤ血管が描出されることはありませんが、それに類する所見が見られました。浅側頭動脈造影を行うと、前額部に一致して、過剰血流および早期静脈描出を認めました。炎症状態では、動脈と静脈を直接つないでしまうような動静脈瘻という異常な交通ができるのですが、血管造影では、動脈造影を行った際にその映し始め(早期相)から静脈が描出されることとなります。動脈の傍に見えるやや薄く造影されている血管が静脈です。治療後はこうした早期静脈描出が見られなくなります。もう少し詳しくご説明します。人間の血液というのは、通常、動脈から毛細血管を通り各臓器/組織に酸素や栄養を渡した後に、静脈を通り心臓に戻ってくるわけですが、そうした過程をすっ飛ばして、動脈からいきなり静脈に流れてしまうというわけです。当然、血液としては仕事を果たさずに帰ってくるわけですから、血管が増えているようで局所的には酸素不足に陥ったり、血液が滞ったりするようなことが起こります。長引く痛みの部位、慢性炎症をきたしている部位では、多くの場合でこのようなことが起こっています。モヤモヤ血管治療をすると、こうした異常な交通も塞がれることとなり、血行も改善してくれます。誰が見ても分かりやすいモヤモヤ血管というわけではありませんでしたが、本症例ではこうした特徴的な所見が見られました。発症1ヶ月であったこと、皮膚の腫脹も残存しているような比較的強い炎症状態であったことから、こうした所見が得られやすかったことと思います。治療前後を確認していただくと、一目瞭然です。尚、治療時には患部に一致して再現痛も見られました。その他複数箇所の治療を行い終了しました。
*再現痛とは、薬液投与時に普段の痛みが一定程度再現される現象です。責任血管の同定のための参考とします。

治療前画像:損傷を受ける、あるいは繰り返しのストレスにより発生した異常な新生血管
治療後画像:カテーテルを用いて塞栓物質を血管内に投与し新生血管を塞いだ状態
治療費用:治療する部位によって費用が異なりますのでこちらをご参照ください。
主なリスク・副作用等:針を刺した場所が出血により腫れや痛みを生じたり、感染したりすることがあります(穿刺部合併症)。造影剤によるアレルギー(皮膚のかゆみ・赤み・息苦しくなるなどの症状)が出ることがあります。
治療後の経過
治療当日は楽だったものの、翌日には痛みが再燃しました。その後2週間は大きく変化がありませんでしたが、それから、まず強い痛みがなくなりました。治療後1ヶ月、まだズーンと締め付けられたり、ズキンとしたりすることがありましたが、痛みが全くない時間もできるようになりました。表情が明るくなり、軽口も聞かれるようになりました。治療後2ヶ月、痛みは1/10ほどになり、痛みで起きることも無くなりました。色素沈着もだいぶ改善しました。まだ完全に痛みがゼロになったわけではありませんが、ほとんど気になることはなく、これくらいなら付き合っていけばいいと思える程度とのことでした。残存症状についても月単位で解消されていくことと思います。経過良好であり終診となりました。発症後1ヶ月経っても2時間おきに目が覚めてしまうのほどの激しい痛みでした。カテーテル治療後は、本症例のように当日はすごく楽になったと言われることが少なくありません。患部によどんでいた痛み物質が洗い流されるなどの機序が考えられます。大抵は一旦ぶり返すため、そこでがっかりされる方もおられますが、その後しばらくしてから本来の治療効果が発揮され、ある日を境に突然楽になるという経過が多いです。治療当日に一過性に楽になるという方の方が結果的には早く改善している印象があります。本症例は、『頭部/顔面』、『高齢』、『激しい症状』という難治の経過を辿りやすい要因が揃っていましたので、発症1ヶ月で思い切って治療を決断されたのは本当に良かったと思います。治療が奏功して何よりでした。